「笑いの神さま」
「おい、ケイタ!また宿題忘れたんか!」
先生の怒声が教室に響き渡る。クラスの全員が一斉にこちらを見た。やばい、今日で3回目だ。これで先生の忍耐も限界だろう。
「す、すみません!昨日、宇宙人にさらわれて…」
とっさに口から出たのは、とんでもなくふざけた言い訳だった。クラスがざわつき、隣のリナが吹き出した。先生は呆れ顔だったが、クラスの爆笑でなんとかその場を切り抜けた。俺、こういうときだけ謎にウケるんだよな。
その日の放課後、校庭をぼんやり歩いていると、奇妙な声が聞こえた。
「ふむふむ…こりゃ面白い子じゃのう」
振り返ると、そこには派手な着物を着たおじいさんが立っていた。頭にはなぜか大きなピエロのような帽子をかぶっている。
「え、だ、誰ですか?」
「わしは笑いの神じゃよ。最近はつまらん奴ばかりで、困っておったところじゃが、お主、なかなかおかしな魂を持っておるな!」
神さま?笑い?何を言ってるんだこのおじいさんは。
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笑いの神さまの試練
「まあまあ、細かいことは気にするでない。わしが来たのは、お主に力を授けるためじゃ」
「力?」
「そうじゃ。わしの力を授かれば、どんなときでも人を笑わせられるようになるぞ。これでテストの成績が悪くても、将来が不安でも、笑いで乗り切れるというものじゃ!」
正直、それってすごく便利そうだ。でも、ちょっと怪しい。
「いやいや、そんなうまい話があるわけないでしょ?」
「ふむ、ならば試してみるがよい!」
そう言うと、神さまは指をパチンと鳴らした。すると、俺の体にじわっと暖かい感覚が広がり、次の瞬間には校庭中に笑い声が響き渡っていた。
「え、何これ!?」
「お主、歩くだけで面白い動きになっておるぞ!」
試しに歩いてみると、足が異常に大げさに動く。ジャンプすればスローモーションのように宙に浮き、着地するたびに「ボヨーン!」という効果音が響く。周りにいたサッカー部の連中が腹を抱えて笑っている。
「これがわしの力じゃ。さあ、どうじゃ?」
「いや、便利すぎるけど恥ずかしいですよ!」
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笑いが巻き起こす騒動
その日から、俺の生活は一変した。クラスメイトは俺を見るたびに笑うようになり、担任の先生でさえ俺の発言を聞いて吹き出すようになった。食堂で注文したカレーライスが突然「笑うカレー」になって口の中でゲラゲラ笑い出したり、黒板消しを手に取るだけで教室が爆笑の渦に包まれる。
「ケイタ、お前天才だな!」
「いつからそんなに面白くなったんだよ!」
人気者になったのは悪い気はしなかったけど、次第に問題も出てきた。たとえば、テスト中。俺がシャーペンを握った瞬間、ペン先から「ドゥルルルル!」という音が出る。真剣に解答している隣のリナが吹き出し、先生に注意されていた。
さらに、家に帰ると母さんが大爆笑。俺の顔を見ただけで笑いが止まらないらしい。
「ケイタ、あんた今日すごい顔してるわね!」
「普通だって!」
鏡を見ると、眉毛がいつの間にか「ハの字」に大きく引き伸ばされ、漫画みたいな表情になっていた。
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「体育の時間、笑いが止まらない」
体育の時間、俺は思い切り転んだ。いや、正確には「転んだふり」をしただけだった。でも、その倒れる音が漫画みたいな「ドガーン!」という効果音とともに響き、クラス全員が爆笑。先生も手を腰に当てて笑っていた。
「ケイタ、お前いつからそんなに演技派になったんだ?」と、いつも冷静なサトルまで涙を流して笑う始末。しかも、その後、みんなの動きもおかしくなった。なぜかクラスメイト全員がスローモーションで走り出したのだ。
「なんだこれ!?先生、僕たち止まれません!」
「おい、全員!笑ってないで真面目にやれ!」と言いながら、先生自身もスローモーションで笛を吹いていた。
笑いすぎてお腹が痛いと言うクラスメイト続出で、結局その日の体育の授業は「笑いを我慢する大会」になった。俺は少し申し訳なく思ったが、それ以上にみんなの楽しそうな顔にホッとしていた。
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「給食戦争」
給食の時間になると、俺の周りにみんなが集まるようになった。理由は簡単で、俺が食べると何かしら面白いことが起こるからだ。
その日も、カレーを一口食べた瞬間、「おいしい!」と感動する声が自分の口から勝手に飛び出した。いや、俺は普通に食べただけなのに、口が自動的に「これぞ究極のスパイス!」「こんなに奥深いカレーがあるなんて!」と実況を始める。
そのたびにクラス全員が笑い転げ、さらには「俺もそれ食べたら言うのかな?」と興味津々で俺のカレーを狙ってきた。気がつけば、みんなが自分のカレーを俺の目の前に差し出してくる始末。
「ケイタ、俺のも食べてくれ!」
「いや、ケイタに食べられると私のご飯も有名になりそう!」
完全にカレーの奪い合いになった給食時間。先生が「静かに食べなさい!」と注意したけれど、カレーが「今日は先生も食べてみる?」としゃべり出し、先生も大爆笑していた。
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笑いが止まらない悲劇
ある日、事件が起きた。クラスメイトのユウキが廊下で転んでしまい、俺が助けに行こうと手を伸ばした瞬間、転倒したユウキが大声で笑い出した。
「ケ、ケイタのせいで、笑いすぎて痛い!」
笑いすぎて誰かがけがをするなんて、本末転倒だ。俺は慌ててあのおじいさん、いや笑いの神さまを探しに行った。
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神さまとの再会
放課後の校庭で、再び神さまを見つけた。
「お主、どうじゃ?楽しんでおるか?」
「いや、楽しいけど大変なんです!もう普通の生活がしたいです!」
神さまはしばらく考え込んでいたが、やがて頷いた。
「そうか、力を返したいのじゃな。それもまた良いじゃろう。しかし、ひとつだけ教えておこう。お主はこの力がなくとも、すでに人を笑わせる力を持っておる。大切なのは、その力をどう使うかじゃ」
そう言うと、神さまは再び指を鳴らした。暖かい感覚が去り、体が普通に戻った。
笑いの力を胸に
翌日から、俺の生活は元通りになった。だが、俺にはひとつだけ変わったことがある。笑いの神さまが言っていたこと――「笑いは力になる」。その言葉が、今でも心に響いている。
たとえ小さなことでも、人を笑わせることでその場の空気が軽くなる。だからこそ、これからも笑いを忘れずに生きていこう。そう心に決めたのだった。