「聞き捨てならんそそれ!! わし、すっげーお役立ちなんやからな!!」
ガーっと牙をむいてまくしたてる。
「リストの照合らあ、あってゆう間にできるし、
「まあナマイキ。超小型で軽量、エネルギーも完全自己供給式で終生学習式電子頭脳の最新型なのよ? あんたのように場所とったり、
《そうですとも。この田舎WAIDにもっと言ってやってください、リアル》
中古と馬鹿にされたのが悔しかったのか、憤慨した口調でチョーカーがリアルをけしかける。
カイは、ふんと鼻を鳴らした。
「いくら器の大きさしぼったち、中に入っちゅうがあが減るぶん損ながあこそ常識や。照合に5分もかかりゆうってゆうだけでも十分バランス悪いやんか。
その点わしはちゃんと必要十分入っちょって、処理速度もきれいにバランスとれちゅうきに」
「あらそう。じゃあひとつその皮はいで、ほんとに必要十分かどうかあたしが調べてあげようかしら?」
ほころんだ口元で、さあやるぞ、今やるぞと指をうにうにさせている彼女に危機感を感じたカイは、あわてて踵を返し、成人の腰にぺっとり貼りついた。
「ナリト~。あいつ、わしのこといじめるが~っ。あれ見たってやー、すごい形相しちゅうがでー。
あいつ、人猫やのうて、ほんまは鬼ながやないー?」
「なんですってぇ! あんたこそ化け猫じゃないの!!
ナリト、なんとか言ってやってよお~!」
怒りにますます目をつり上げたリアルはまさに獣邪そのもので、今にもそののど噛み裂いてやると言いたげに牙をむくが、成人の前、そうするわけにもいかない。忍の一文字でぶるぶる震えているリアルにむけ、あかんべーと舌を出したカイを、成人は腰から引っ剥がした。
「いつまでも馬鹿やってないで支度しろ。腹減ってるんだろ? 飯ほしくないのか?」
「ほしー。くれ」
「じゃあ準備手伝え」
「お、おうっ」
ぽいっと空中に放り出されたカイはそこでバサバサとコウモリ羽をはばたかせて滞空しながらウエストポーチをまさぐり、ネズミ型の鳴るオモチャや食べ残して忘れたまま干からびてしまっているお菓子などでごちゃごちゃした中から小型の銃をとり出す。ちゃんと猫の指でも撃てるようにトリガーの部位が改造されており、銃身に『カイ専用』とのステッカーが似顔絵とともに貼られているやつだ。
回転式シリンダーの中に弾が入っているのを確認して口にくわえると、今度は小さなナイフをとり出して成人に渡した。
自身は小皿を両手で持ち、彼の腕の下へと持っていく。
「ちょっ……これ描いても何も起きないわよ?」
ナイフの刃を二の腕につけ、傷を作ろうとしている成人を見て、途端リアルはあわてて言った。
「あたしたちだってやってみたのよ、ちゃんと。この模様には意味があるに違いないって考えて。もちろん
「だろうね」
リアルの制止など聞こえなかったように成人は腕に浅く傷をつけた。それをカイが小皿で受けとめている。
「ちょっと! やめなさいよバカ猫っ」
「おれの血じゃないとだめなんだよ。これは、やつからおれへのメッセージなんだから」
「なんですって!?」
「っていうより、挑発かな?」
細く、赤い糸となって流れ落ちる血を、カイは小皿が満たされるまで受けとめる。そして生温かく鉄錆くさい――それでいて甘く感じる――においに眉をひそめたリアルの前から飛んでいき、ヵイはすでに記憶回路に記録済みの陣のとおりに、そして消えかけているあれよりもずっと鮮明に、それを土手の上の路上にまき始めた。
「あんたたち、これをやった相手が何者か、わかってるってわけ!?」
まさか成人が関係者だとは思っていなかったリアルは、それまでのふわふわとした態度を一変させた。声のトーンを跳ね上げ、前のめりになってわめき出す。
「壁に塗りつけただけじゃ血が少なすぎるからヴァンプの仕業だっていうのはおおよそ見当がついてたんだけど、肝心の目撃者が1人もいないからどこのどいつかまではまだわかってないのよ! 殺された
ねえ教えて! 犯人はリストに載ってるやつなの? それって高額!?
ちょっとくらいいいじゃない、教えてよ! ほら、もし相手がランクB以上で手ごわいやつだったりしたら手助けが必要でしょ? あたしはヴァンプ・パージャーなんだから、組んで損はないはずよ!
あんたが先に目をつけてたっていうんなら、6・4でいいわ。うーん、この際7・3でもいい。半分よこせなんて言ったりしないから!
ねえっ、せめて名前くらいいいでしょ!?」
がぜん職業意欲を前面に出してきたリアルを顧みて、成人は、いかにも気がすすまないといった表情と声で、ぼそぼそと答えた。
「フレデリック・フォン・カルデスタイン伯爵だよ……」