「お疲れ様でした」
ことりと机に置かれたカップを口にすると、熱い紅茶にふわりとブランデーが香りホッとする。
香りづけに少しだけブランデーが混ぜられたその紅茶は、仕事が終わった俺を労うようにいつからか側近自らが淹れてくれるようになったものだった。
(この紅茶が出て来たってことは今日の仕事は終わったということだな)
紅茶で疲れを癒しつつ、ここからは上司部下ではなく幼馴染であり親しい友人として側近の方をちらりと見る。
「今日は男同士の恋愛話が多くなかったか」
「多かったかもなぁ」
側近も、部下の仮面を外したのだろう。気楽な口調でそう同意した。
「そっちはどう思うんだ?」
側近にそう聞かれ、一瞬考え込む。
「うーん、下着を盗むのはよくないな」
「ははっ、そりゃそうだ。犯罪だからな」
俺の回答に小さく吹き出した側近。そんな彼に釣られて俺も笑ってしまう。
「ま、鉱山に送ったしむしろ喜ぶだろ」
「そうなのか? 俺としては厳しすぎないかと思ったんだが」
「いや、筋肉好きだからな。むしろパラダイスだ」
「あー」
まさかそんな理由で次の職場を斡旋したのか、と気付き思わず頭が痛くなる。
「もし向こうでも被害が起きたらどうするんだ」
「王様が鍛えて被害を最小に抑える解決策もあるが」
「おい、それ、俺の下着を犠牲にしろってことか?」
しれっと提案された解決策にげんなりとした俺は、大きくため息を吐いて首を左右に振った。
「せめて鉱山に大量の下着を差し入れとけ」
「りょーかい」
飲み終わった紅茶のカップを受け取った側近が、片付けの為か執務室をあとにする。
「本当に、なんで今日はこんな報告ばかりあがってくるんだ」
「そういえば」
「うおっ」
てっきりもう行ったのかと思っていたが、ひょっこりと側近が扉の向こうから顔を出しビクリとした。
「俺としては、男同士の恋愛、いいと思いますよ」
「は?」
怪訝な声を出し、そしてすぐ先ほど男同士の恋愛についてどう思うか聞かれたことを思い出す。どうやらこの男は聞くだけではなく自分の考えも教えてくれるらしい。
「俺も、実は同性に片想いしてるんだよね」
「な、なにっ!?」
さらりと告げられたその言葉に思わず目を見開くと、そんな俺の顔を見て側近が大きな口を開けて笑った。
(何がそんなに面白いんだよ)
思わずムッとした俺に、相変わらず笑っている側近。
「いやぁ、俺の王様は鈍感だなぁと思っただけだよ」
くすくす笑いながら、今度こそ執務室を後にした側近を見送った俺が、あいつの言った『俺の』という意味を知るのはまだまだ先の話である。