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8. 衝撃の事実

もう離さないと言わんばかりに力いっぱい抱きしめる。

数分間無言で抱き合いどちらからともなく離れた後、

鈴奈の顔は真っ赤だった。


「本当に付き合えるなんて思っていませんでした」

「ごめん」

「いえ、先輩は悪くないです」


わたわたしながら謝る姿が可愛い。

お兄さんもきっとこんな気持ちだったんだろうな。


「鈴奈を可愛がるお兄さんの気持ちわかるな」

「兄はそういうこと言いません!」


膨れてプイっと横を向いた。

俺の彼女が可愛すぎて死にそうだ。


「そういえばお兄さんにも挨拶した方がいいよね」

「いえ、私から言っておきます」

「でも実際に顔を合わせた方が良くない?」

「兄とは一度しか会ったことがないんです」

「は?」

「兄も私もお互いの顔も名前も知りません」

「そんなことって……」

「あくまでLINE上の関係なんです」


そんな珍しい話が俺と妹以外にあるのか。


「兄にはずっと言われていました、[隣に居て頼ることが出来る人を探せ]と」

「え?」

「先輩に一目ぼれした話をしたら自分のことのように喜んでくれました」

「え? え?」

「[妹が好きになったなら全力で押せ、いっそ押し倒せ]って」

「あ……」

「童貞のくせに生意気ですよね」

「もしかしてそれへの返信って[過激すぎるわ]だったんじゃ?」

「え?」


震える手でスマホを取り出してLINEを開く。


「どうしてそれをsh……は?」


スマホには先程の鈴奈の言葉と一言一句違わない文言が表示されていた。


「え、ちょっ、これ……」

「なんで関西弁じゃないんだ、妹よ」


鈴奈の目から涙があふれだした。


「だって、だって、お兄以外に関西弁可愛いって言われたことないから」

「そんなだから気づかないんだよ」

「お、お兄はいつから気づいてたんよ!?」

「今さっき過去話を聞いた時だよ」


「隣に居て」で引っかかり

「先輩に一目ぼれ」で疑惑になり

「妹が好きになったなら全力で押せ、いっそ押し倒せ」で確信に至った。


「お兄、お兄、お兄、馬鹿、馬鹿、馬鹿!!」

「馬鹿とは失礼な、妹も気づいてなかっただろ」

「お兄は妹に気づかないといけないんよ!!」

「無茶ぶりすぎる」

「ふえーーーーん」


腕の中に飛び込んできた。

それは妹との二度目の出会いだった。


・・・


しばらく腕の中で泣き続けてようやく落ち着いた。


「ずっとお兄と結婚したかった」

「え?」

「兄妹ではなく男女の関係になりたかった」

「……」

「でもお兄は写真どころか名前すら聞いてこん」


本当は聞きたかった。

でも断られたらと思うと聞けなかった。


「うちから聞いてもし断られたらと思うと何も言えんかった」


兄妹揃って同じ考えだった。

他人のはずなのによく似ている。


「だから先輩を好きになってからは、お兄を兄として見ようって思っていた」


それは俺も同じだった。

妹に好きな人が出来たからこそ妹を妹として見ようと思った。


「でも先輩とお兄は同一人物やった、ならもう我慢できへん」

「は?」

「お兄の助言通り押し倒す」


押し倒すといいつつ実際はキスをされた。

唇が触れあうと飛びのく様にすぐ離れて、

顔を真っ赤にして目をそらしている。


「キスした以上、もう彼女や」

「どんな理屈だよ!?」

「お兄が言っていた」

「は?」

「[妹みたいな美人からのキスは勘違いするから彼氏にだけにしろ]って」


言った覚えがある。

たしか男を利用した時の代価の話で、

[うち提供できるもんないしキスくらいええやんか]と言われてそう答えた。


「つまり逆説的にうちがキスしたっちゅうことは彼氏ってことやで」

「A→Bは真だからといってB→Aは真じゃねぇよ!?」

「対偶みたいなもんやろ」

「中学から勉強やりなおしてこい!!」

「なんや妹が彼氏っちゅうとんのにお兄は彼氏と認めへんの?」

「い、いや、それは別問題で」

「うちのファーストキスあげたのに」

「彼氏いたって言ってただろ!?」

「うちが自分からしたのは初めてやで」


妹が満面の笑みを見せている。

綺麗系の顔に可愛らしい微笑み方が相まって、

抱きしめたくて仕方なくなる。


「ふふっ、本当にお兄だ」

「今の会話でどうしてその結論になった」

「LINEと変わらへん反応、ずっと憧れたお兄や」


妹が胸の中にうずくまるが、

何かに気づいたようにパッと顔を上げた。


「そうや、こんなことしてる時間ない、すぐ帰ってお兄の実家に行くで」

「は?」

「婚姻届けの証人をお願いするんや」

「は? は?」

「うちはすぐにでも結婚したい、一秒だって待っていられない」

「いや、ちょっと」

「お兄がニートになってもうちが養ってみせる、死ぬまで絶対に一緒や」

「少し落ち着け!?」


興奮すると突っ走る所が間違いなく俺の妹だ。

妹から少し離れて真正面から顔を見る。


「俺の気持ちも聞いて欲しい」

「……うん」


不安な顔をして俺の方を見ている。

大丈夫だ、お兄が妹にそんな不安になることをするかよ。


「俺も妹のことが好きだ」

「……うん」

「でも妹の中の俺は明らかにカッコよすぎた」

「そんなことあらへん」

「現実の俺を見たら幻滅するに違いない、そう思っていた」

「そんなこと絶対にあらへん!!」

「うん、そんなことはなかった、兄ではない俺も好きになってくれた」


妹は先輩を好きになった。

それは現実の俺を好きになってくれたということだ。


「妹、いや鈴奈、俺と結婚してほしい」

「喜んで!!」


文字通り飛びついてきたので、

ちょっと衝撃に耐えきれずよろけてしまった。


「でも鈴奈より妹呼びの方がええ」

「周りから変に思われるだろ」

「だってお兄を失いたくない……」

「あ……」


呼び方を変えるということは普通の恋人になるということだ。

それはつまり兄妹の関係ではなくなるということで、

兄は存在しなくなるのと同じなのか。


「二人きりの時だけでええから……」


顔は笑っているのに目から涙がこぼれ落ちている。

きっといろんな感情がごちゃ混ぜになっているんだろう。


「仕方ないな、妹の頼みを聞くのが兄の務めだ」

「……ありがと、お兄」


妹の目の涙を指でぬぐってキスをする。

こんなに弱いのに一人で頑張っていたんだな。

これからは兄として恋人として支えよう。


それにしても妹の方が身長が高いせいで格好がつかない。

今からでも鍛えれば身長伸びるかな?


「おさげにしてたんだな」

「お兄が[おさげが良い]って言ってたやん」

「無理に言われた通りにしなくてもよかったんだぞ、ろくに見たことない訳だし」

「いつかお兄に会った時におさげ可愛いねと言われたかったんよ」

「おさげ可愛いぞ」

「えへへー」


想像していた以上の可愛さだった。

これだけ可愛ければそりゃ告白もされる。


「おっぱいもちゃんと大きくなったんよ」

「まだ覚えてたのかよ」

「どう?」


体に押し付けられている妹のおっぱいを見て、

ゴクリと生唾を飲む。


「やっぱり巨乳が好きやったんやね」

「い、妹のおっぱいだから好きなだけだし」

「妹のおっぱいが好きとかそっちのほうがヤバいんちゃう?」

「たしかに……」


言われてみればそうだった。

巨乳好きは性癖で済むけど妹のおっぱい好きは通報ものだろう。


「家に帰れば触らせてあげてもええで」

「あ、たしかにそろそろ帰らないとな」

「あ……」

「家は近いのか?」

「家は……」

「どうした?」

「うち、お兄の家族になりたい……」

「さっき結婚の約束したろ?」

「すぐにでもしたいんや」

「どうしてそこまで?」

「誰もおらへん家に帰るの嫌なんや……」


チャットをしていて分かっていたけど、

妹はかなりの寂しがり屋だ。

今まではチャットで気を紛らわせることが出来たけど、

実際に会えたことで抑えがきかなくなったのか。


結婚……、今まで考えたことがなかった。

妹と結婚するのは喜ばしいことだ。

でもまだ学生の身分で結婚なんてしていいのか?

就職して生活が安定してからのほうがいいのでは?

ちらりと妹の方を見ると少し青ざめた表情をしている。


「同棲じゃ駄目なのか?」

「お兄がそういうなら……」


ああ、駄目だ。文字ではなく言葉で聞くからよく分かる。

これはかなり我慢している反応だ。

妹の中では結婚して一緒に住むのと結婚せずに一緒に住むのとは、

天と地ほどの差があるのだろう。


「わかった、すぐに結婚しよう、可愛い妹で彼女の頼みだ」

「お兄!!」

「ただ親に証人をお願いしないといけない」

「頑張る!!」


青白い顔に血の気が満ちた。

やっぱり妹は明るい顔が似合う。

さてこれから大変だぞ。

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