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第98話 暴力彼氏④

 桐山が鈴木幸恵の彼氏のことを調べ出して一週間がたった時、桐山が俺と桜川を呼び出した。

 俺と桜川は桐山の家に集まった。

「どうだった?」

 俺が話を振ると、

「なんと言えばいいのか、その彼氏なんだけど、思ってたのとだいぶ違ったよ」

 と桐山はなんだかがっかりしたような感じで話し出した。

「どういうこと?」

 桜川が訊いた。

「俺としては、典型的などうしようもないヒモをイメージしてたんだよ。軽いノリで不良っぽい感じと思ってたんだけど、全然違った」

「どう違ったんだ?」

「一言で言うと、めちゃくちゃ地味。どっちかって言うと俺たちと同じタイプだったよ。コミュ障で人とはあまり関わらないって感じの奴なんだよ」

「そうなんだ。それだと確かに思ってたのとは違うな。俺も桐山と同じような男を想像してたよ。そんなんじゃ、悪い組織とのつながりってのもないか」

「うん。ないと思う。それに他に女がいるって鈴木幸恵は言ってたけど、それもないだろうな。二人が同棲している家を見張ってたんだけど、ほとんど出かけることもないんだよ。鈴木幸恵が仕事に行ってる間にちょっと近所に買い物に行くぐらいなんだよな」

「だったらなにもわからなかったんじゃない?」

 桜川が訊いた。

 動きがないならなにもわかりそうにない。

「確かにそのとおりだ。だから、俺もどうしようかと思ったんだけど、昨日のことなんだけど、男が女と会ったんだよ」

「えっ、女と? やっぱり他にも女がいるのか?」

「いや、そうじゃない。その女はその男の母親だよ」

「母親?」

「そうだ。二人が外で会ってから定食屋に入ったんだよ。いつもみたいに俺は知らん顔して店に入って、近くの席で聞き耳たててたら、そういう話をしてた」

「それって昼間のことだよな? つまり鈴木幸恵が仕事をしている間に、母親と会って昼飯を食べてたってことか」

「そうなんだけど、その二人の話からすると、母親は息子に家に帰ってきて欲しいみたいだったよ。でも息子の方は帰る気がないって感じだ」

「ま、ありそうな話ではあるけど、それで他になにかわかったことあるのか?」

「そこでは、ずっと母親が一方的に話して、家に帰って来いってことを言ってただけなんだけど、その定食屋を出た後、その母親の方をつけて家を調べてきた。つまり男の実家だよな」

「それで?」

「まず、男の名前は杉本だ。それで実家はどこにでもあるような分譲マンションで、兄弟はいないみたいだ」

「なんでそんなことまでわかったんだ?」

「近所で聞き込みをしたんだよ」

「聞き込み? お前、そんなこともできるようになったのか?」

「まぁな。お前は暴力担当、俺は知力担当だからな」

 桐山はサラッと言った。

 それにしても桐山はえらく成長した。以前の桐山なら考えられないことだ。

 聞き込みどころか、知らない人とちょっと会話するだけでもあまり得意じゃなかったのに、いまはまったく変わってしまった。

「でも、聞き込みっていっても、いまどきそんなに簡単に教えてくれないでしょう?」

 桜川が言った。

「まぁ、その辺は男の友達って感じで訊いてきた」

「ふーん。それで他になにがわかったんだ?」

「それなんだけど、男は、つまり杉本は両親と三人で暮らしてたんだけど、ずいぶん前に父親は出て行ったらしいんだ。その原因が父親の浮気らしい」

「へぇ、じゃあ、いまはその家は母親だけが住んでるってことか」

「そういうことだ。それから、気になったことがあって、杉本だけど動物を殺したりする奴なのかもしれない」

 桐山は他に誰にも聞かれることはないのに、自然と声が小さくなった。

「うん? それってどういうこと?」

 桜川が訊いた。

「証拠がない話らしいけど、杉本が中学や高校の頃に、よく近所で野良猫とかがたびたび殺されるってことがあったらしいんだよ。要は動物虐待だな。それで初めは誰がやったのかわからなかったんだけど、途中から杉本なんじゃないかって近所では言われるようになったんだ」

「でも、証拠がないのにどうして杉本が犯人だってなったんだ?」

「そのあたりのことはわからないみたいだけど、でも、噂としてはそう言われてたらしいよ」

「誰かが殺すところを見たのかしら?」

 桜川が言った。

「まぁ、そうかもしれないし、ひょっとしたらコミュ障だから、なんとなくあいつじゃねぇって感じで噂になっただけかもしれないけどな」

 桐山が言った。

「でも、お前としては暴力を振るうってことで鈴木幸恵の話とつながるって考えたわけだ」

 俺は桐山の考えていることがわかった。

「ま、そういうことだ。一見地味で大人しそうな奴でも、裏に狂気な部分ってあるってことはよくあるじゃん」

「でも、それって映画や小説とかの話じゃないの?」

 桜川は少しからかうようなニュアンスで言った。

「まぁ、そうかもしれないけど、そういうフィクションで使われるってことは、現実にあるのはあるってことだろ?」

「確かにそうだけどね」

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