何日かたって桜側から連絡があり、桐山の家にまた集まることになった。
「どうだった?」
桐山が切り出した。
桜川が連絡して来たということは、鈴木幸恵のことでなにかわかったということだ。
「やっぱりかなり貢いでいるみたい」
桜川がすぐに答えた。
「ってことは、この前の橋本の兄貴に反対バージョンってことか」
俺が言った。
「うーん、それはどうかしら。というは、鈴木さんは確かに貢いでいるんだけど、橋本君のお兄さんみたいに相手にいろいろとプレゼントしたりお金を貸したりしてるだけじゃなくて、一緒に住んでるんだって」
「一緒に住んでるのか。それでお金がかかるってことか?」
桐山が訊いた。
「生活費はもちろんかかるんだけど、それだけじゃなくて、その若い彼が遊びに行くお金もあげてるんだって」
「ふーん。でも、それはその人がそれでいいなら俺たちが口出すことでもないじゃん」
俺はやたらと他人に口出しするようなことはしたくない。
「まぁ、そうなんだけど、その人も困ってるって言ってた」
「それだったらさっさと別れたらいいんじゃないの? なんで別れないわけ?」
「それが、その彼が暴力を振るうんだって」
「暴力! ドメスティックバイオレンスか」
桐山が言った。
「そうなの。それが怖くて別れるって言い出せないって言ってたわ」
「そうなんだ。まぁ、そういう話はよく聞くけど、実際にあるんだな」
俺は正直な感想を言った。テレビなどでそういう話を見聞きしたことはあるが、自分とはまったく関係のない世界の話ぐらいに思っていた。
「実際にあるのよ。私も実際に知り合いがそういう目に遭ってるのは初めて聞いたけど」
「だとすると、タカシマンはやっぱり登場の必要があるな」
と桐山は俺の方を見た。
「うーん、まぁ、暴力っていうのなら、あるのかもな」
なんだか俺はちょっと正義の味方をするのが面倒になっていた。
その原因は自分ではわかっていた。
橋本の兄貴の件に続いて、また男女の話だからだ。
自分は彼女もできたことがないのに、他人の恋愛を話を聞くのも嫌だし、ハッキリ言って面白くなかった。
「なんだかあまり乗り気じゃないな」
桐山が俺の返事に対してそう返した。
「あ、いや、そんなことはない。やるよ」
俺は自分の本音は言えなかった。
「じゃあ、どうしようか? 一度鈴木さんと会って直接話をしてみる?」
と桜川が話を進めた。
「そうだな。それがいいと思うけど、その、鈴木さんは俺たちに会ってもいいのか?」
桐山が訊いた。
「いいと思うわ。私が話を聞いた時も、ものすごく積極的だったし。たぶん、一人でこれまで悩んでいて誰かに聞いてもらいたかったんだと思うの」
「なるほどね。じゃあ、セッティングしてよ」
ということで、桜川が鈴木幸恵と会えるようにすることで話が終わった。
それから、また何日か過ぎて鈴木幸恵と会う時が来た。
俺と桐山は二人そろって待ち合わせ場所に向かった。
俺たちが行くと、そこには桜川と鈴木幸恵がいた。
鈴木幸恵は桜川が言っていたように、確かにきれいな人ではあった。そしてこれも言っていたように、かなりやつれて見えた。
俺たちは簡単に自己紹介をし、近くの喫茶店に入った。
コーヒーが出てきてから、話が始まった。
「あのう、だいたい桜川から話を聞いたんですけど、直接詳しいことを訊かせてもらってもいいですか?」
桐山が切り出した。
こういうことはもう完全に桐山の仕事になっていた。
こいつがこんなことが得意だったとは、いまさらながら意外だ。
「私は、彼氏と同棲してるんですけど、その彼がまったく仕事もしないのに、遊んでばかりで、他の女ともいろいろと関係を持っているみたいなんです」
鈴木幸恵が話し出した。
「彼は二十歳って聞いていますけど、大学生とかですか?」
桐山が訊いた。
「いえ、いわゆるニートです」
「知り合った時からですか?」
「知り合った時はアルバイトはしてました。知り合ったのはマッチングアプリです」
「それで同棲を初めてどれぐらいですか?」
「半年ぐらいです。知り合ってわりとすぐに私が住んでるマンションに彼が転がり込んだような形です。それで、私のところに来てからしばらくしたらアルバイトも辞めて、それ以来無職の状態です」
鈴木幸恵は元気のない声で淡々とした調子で話した。
「暴力を振るうって訊いたんですけど……」
「はい。初めはそんなことはなかったんですけど、彼がニートになってちょっとした時に、なにか仕事しないのって訊いたら、それでキレて殴られたのが初めです。それからなにか気に入らなにことがあると殴るようになりました」
鈴木幸恵は話しながら徐々に鼻声になっていった。
俺は話を聞いていてが苦しくなった。