「どうなったんだ?」
俺が橋本の兄貴を担いでビルから出ると、桐山と桜川が走ってきた。
「橋本の兄貴が正気を失っていたから、殴って連れだしてきた」
「そうなんだ。解決はしたのか?」
と桐山が訊くが、
「この感じでわかるだろう」
と俺は返した。
「そうだな」
と桐山はため息をつくように言った。
「とにかく橋本君に連絡してお兄さんを連れて帰ってもらいましょうか」
桜川が言った。
「そうだな。連絡するよ」
そう言って桐山が橋本に連絡した。
「それにしても、どうなったの?」
桜川が訊いてきた。
俺は黄金不動産の中であったことを話した。
「そういうことなのね。でも、お金がないのなら仕方がないわね」
「そうなんだよ。津田もお金は使ってしまったって言うし、そもそも津田からしたら、橋本の兄貴のことなんて知らないわけだし、突然現れて、あなたの受け取っていたお金は私のですって言われても、困るよな」
桜川も桐山も仕方がないという感じである。
お金のことは、俺たちとしてもどうしようもない。
そもそもすべての発端は橋本の兄貴なのだ。
津田が近藤千夏をそそのかして、橋本の兄貴から金を奪ったということではない。
橋本の兄貴が近藤千夏に自分の財力以上の金を貸したのが悪いのだ。
「その津田と近藤千夏の関係は終わることになりそうだし、この騒動はいったいなんだったのかって感じだよ」
俺はもうこの話には関わりたくなかった。
「やっぱり初めから無理があったってことか」
と桐山が言った。
「私は近藤千夏を後ろで操っている男がいるって思ってたんだけど、結局その男はなにも知らなかったって事ね」
桜川は自分の推理がはずれていたことが残念そうだ。
「でも、桜川の推理もまったくはずれていたってことでもないよ。現に男はいたわけだし」
俺はフォローした。
そんな話をしていると、橋本がタクシーでやってきた。
「すまん」
橋本は俺たちの顔を見るなりそう言った。
桐山がどんなことがあったのかだいたいのことを説明した。
「そうだったのか。わかったよ。これまでありがとう。兄貴には俺から説明しておくよ」
そう言って橋本は兄貴を連れてタクシーで帰っていった。
「さて、俺たちも帰るか」
桐山がそう言って、俺たちも家に帰ることにした。
数日たって、桐山の家に俺と桜川が呼び出された。
「橋本からその後の報告があったよ」
と桐山が切り出した。
「どうなったんだ?」
俺もその後どういうことになったのか気になっていた。
「そうそう、どうなったの?」
桜川も気になっていたようだ。
「橋本の兄貴はやっぱり横領してたみたいだ。それでそのことを上司に報告したらしい。そうしたら表沙汰にせずに処理するということになったようだよ。銀行としてもこんな不祥事を表に出したくないってことだろうな」
「橋本の兄貴はどうなったんだ? クビか?」
「クビじゃないらしい。ただ、お金を触らないようなところに飛ばされて、これからお金を返していくみたいだ」
「ふーん、逮捕されないのなら良かったね」
と桜川が言った。
「それと、このニュース見たか?」
桐山がスマホを俺と桜川に見せてきた。
「うん? えーっと、あれこれ近藤千夏だよな」
俺は画面を見て言った。画面には近藤千夏の写真があった。
「なにがあったの?」
桜川が訊いた。
「このニュースによると、近藤千夏は津田を刺したらしい。それで逮捕されたよ」
「ええっ!」
俺と桜川が同時に声を上げた。
「どういうことだ?」
「いろいろネットで調べたところによると、津田に別れるのならお金を返せって迫って揉めてしまったようだよ。それで勢い余って津田を刺してしまったってことらしい」
「そうなんだ。黄金不動産の時にすでになんか険悪な感じがあったけど、そこまで行ってしまったってことか」
俺は黄金不動産でのことを思い返した。
「でも、お金を返せって言ってもね。そもそも彼女のお金じゃないのに」
桜川はあきれ気味に言った。
「強欲だよな」
「それで津田は死んだの?」
「いや、大丈夫だったみたいだよ。重症ってことになってるから」
と桐山が答えた。
「そうなんだ。でも、これで近藤千夏も終わりだな」
俺はなんだか結局は落ち着くところに落ち着いたように感じた。
「そうだな。しばらく刑務所に入って、出てきてももうどうにもならないだろうし」
「ハイスペックの男性と結婚するつもりだったのに、まったく別の未来があったのね」
と桜川は少し近藤千夏に同情的な感じだった。