桜川が言った。
「いったいどうなったんだ?」
俺が訊いた。
「彼女が開き直って全部しゃべったの」
「全部って?」
「だから全部よ。とにかくあの二人の後を追わないと」
桜川は焦った感じで言った。
「行きながら話すわ」
「オッケー」
俺と桐山は桜川に従った。そして、三人で距離を保ちながら橋本の兄貴と近藤千夏を追いかけた。
「で、どうなったんだ?」
俺が訊いた。
「橋本君のお兄さんが彼女に訊いたの。他に男がいるのかって。そうしたら、初めは彼女は否定してたんだけど、お兄さんが食い下がってたら途中でキレて怒り出したの。あんたなんかに本気なわけないでしょって」
「それは酷いな」
俺は思わず言った。
「酷いでしょう。それでお兄さんがその相手の男のことを訊いて、彼女の方も訊かれたことを全部答えてたわ」
「そうなんだ。もうやけくそになったのかな」
「だと思う。そんな感じだったわ」
「それで男はどこの誰なんだ?」
桐山が訊いた。
「男は黄金不動産の津田だって」
「黄金不動産ってどこにあるんだ?」
「それはわからない。ちょっとネットで調べてみて」
桜川が言うので、俺がすぐにスマホで調べた。
「あ、出た。駅前の雑居ビルにあるみたい」
「じゃあ、二人はそこに向かったのか?」
と桐山。
「そうね。それで橋本君のお兄さんは話をつけるって言ってたから」
「話をつけるって言ってもさ、女の方は橋本の兄貴にまったく興味がないことがわかったわけだし、なんの話をつけるんだ?」
俺は疑問を口にした。
「お金を貸せしてもらうって」
桜川が言った。
「じゃあ、貢いでいたお金がその男に流れていることも話したってことか?」
「そうなの。彼女はホントに全部話したのよ。結婚してないってこともね」
桜川の話からすると、近藤千夏は面倒になってすべてを投げ捨てた感じなんだろう。
「でも金を返してもらうなんてできるのか?」
俺が言った。
「無理だろうな。あの不動産屋の感じだと、橋本の兄貴なんて相手にされずに終わるよ。俺は実際に見たことあるけど、とても橋本の兄貴が敵う相手じゃない」
桐山が冷静に言った。
「じゃあ、どうなんだ?」
「それはわからないけど、俺が思うには、その津田って男に突っぱねられて泣き寝入りってパターンだろうな」
と桐山は冷たい。
しかし、理性的に考えたらそれが一番考えられる。
「津田は彼女から受け取ってたお金の出所を知らないだろうし。そもそも橋本の兄貴の存在も知らないわけだから、突然現れてお金を返せと言われても困るよな」
「そうだよ。津田がどんな奴であれ、別に今回なにも悪いことはしてないし」
桐山の言うように、確かに津田は別になにもしていない。お金に困って付き合っている彼女からお金を借りただけだ。それ自体は別に悪いこととは言えないだろう。
そんな話をしているうちに、先を行く二人は黄金不動産の入っている雑居ビルに到着した。
俺たちは少し離れたところからその様子を見ていた。
橋本の兄貴は肩を怒らせている。
女の方はふてくされた感じであった。
「どうする? 入るわけにはいかないよな」
俺が言うと、
「そうだな。とりあえずはここで出てくるのを待つしかないだろう」
と桐山が答えた。
「話し合いが無事に済めばいいけど」
桜川は心配そうだ。
「そうだな。なにもなければいいけど」
俺たちが雑居ビルの入り口が見えるところで待った。
黄金不動産はビルの二階のようだ。俺たちのいる場所から見えている部屋がどうやらそれのようだ。
人通りはあるが、そんなに多くはない。
なにもせずに立っている俺たち三人のことを、誰も気にしている様子はなかった。
「あれ、あれって橋本君のお兄さんじゃない?」
不動産屋を見ていた桜川が言った。
俺と桐山も不動産屋の方を見た。
「あっ、あれはそうだよな」
「あっ、マズいぞ。タカシ、早く用意しろ。マスクとマントだ!」
桐山が声を上げた。
窓の向こうで橋本の兄貴が津田と思われる男とつかみ合いになっているのが見えた。