「ところで、近藤千夏がパート先でハイスペックの若い彼氏がいることを自慢してたような話があっただろ?」
桐山が口を開いた。
「ああ、桜川が言ってたよな」
「あれって、俺たちは勝手に橋本の兄貴と思ってたけど、ひょっとしてこっちの不動産屋じゃないか?」
「そう言えばそうだな。不動産屋のその男でもそういう言い方はできるかもな。でも若いってわけじゃないけど、それはどうなんだ?」
「確かに俺が見た感じでもアラフォーだったから若いということには当てはまらないけど、近藤千夏よりは年下かもしれないし、それなら近藤としては若いってなるんじゃないのか?」
「まぁ、そうか。そうなると橋本の兄貴はちょっとかわいそうな立場になるな」
「そうだ。橋本の兄貴は単なる金づるってことになる。当然結婚相手もその不動産屋の男だ」
「だから女の方からしたら貢がせたら貢がせるだけいいってことだ」
「考えてみたら、近藤は仕事はパートをしているだけだし、男に金を貸せるだけの収入はないはずだよ。ということは橋本の兄貴に貢がせた金を男の方に回しているってことだ」
「でも、男はその金の出所は知らないと」
「この推測が当たっているとするなら、悪は近藤千夏だな」
俺と桐山はまた黙った。
おそらく俺たちがした推測は当たっているだろう。そうなると、この話を橋本の兄貴にすれば、橋本の兄貴にも目が覚めるかもしれない。
「この話、橋本にしてみるよ」
桐山が言った。
「そうだな。とりあえず橋本に会おう」
翌日、早速橋本と俺と桐山の三人で会った。
そして、俺と桐山、それと桜川で調べたことを橋本に話した。
「そうだったのか。じゃあ、兄貴は四十過ぎのババアに騙されてるってことか?」
「まぁ、そういうことになんだと思う。この話をお前の兄貴にしたら、兄貴も目を覚ますんじゃないか?」
俺は言った。
「そうだな。確かにそんな事実を知ったら自分のやってることのバカバカしさに気づくだろうな」
と橋本も言う。
「そうなれば一応解決だな」
桐山がそう言った。
「いや、確かに女と別れてくれるのは嬉しいけど、貢いだお金は取り返せないかな?」
「それは難しいんじゃないか? だってお金が残っているとも思えないし」
桐山が言った。
「やっぱりそうだよな」
橋本は残念そうだ。
いくらなんでも、お金の回収までは俺たちも付き合いきれない。
「じゃあ、とりあえず、兄貴に言ってみるよ」
橋本がそう言って、とりあえず俺たちの話は終わった。
それから数日して、橋本がまた会いたいと桐山に言ってきた。
橋本の兄貴に俺たちから直接説明して欲しいということだ。
桐山は初めは断ったそうだが、橋本がどうしてもとしつこく言ってきたので、桐山はしぶしぶ引き受けたという。
仕方がないので、俺と桐山は橋本の兄貴に会うことにした。
ファミレスに俺たち四人は集まった。
橋本の兄貴が気を遣って夕食を奢ってくれるという。
俺と桐山は遠慮なくいただくことにした。
「なんか、わざわざ俺のためにいろいろ調べてくれたみたいだけど、ありがとう」
橋本の兄貴とは初対面だが、気が弱そうな男だった。見た目もブ男ということではないが、決してモテるような雰囲気ではない。地味で目立たない感じだ。
「それで、今日は俺たちにどういう御用ですか?」
桐山が切り出した。
「弟からだいたいの話を聞いたんだけど、改めて確認したいと思って」
橋本の兄貴は遠慮がちに言った。
「どうぞ。なんでも聞いてください」
と桐山が言った。桐山が答えてくれるようだ。
「まず、その千夏さんと一緒にいた男の人だけど、本当に付き合ってるの?」
「付き合ってると思います。俺が聞き耳を立てて聞いた話の内容からして、付き合ってると考えて間違いないと思います」
「そうか……」
橋本の兄貴は深いため息をついた。
「じゃあ、千夏さんがその男の人にお金を貸しているって話も?」
「本当です。そんな話をハッキリしてましたから」
「具体的には?」
「いつまでに返すとか金額とかです」
桐山がそう答えると、橋本の兄貴にはまたため息をついた。
「金額っていくらって言ってた?」
「そこで話に出てたのは三百万でした」
「三百万か……」
橋本の兄貴のその言い方が、いかにも心当たりがあるという感じだった。
「兄貴、わかっただろう? もうその女とは別れた方がいいよ」
橋本が見かねて言った。