俺は珍宝院と別れて家に帰った。
俺の頭の中には珍宝院の言っていたことが頭に残っていた。
モテない男が初めて付き合った相手で、付き合い方がわからないようなことを言っていた。
橋本の兄貴がそうなら、俺もそうなるんじゃないかと思えた。
橋本の兄貴のことは会ったこともないが、橋本から想像するに確かにモテるということはなさそうだ。
いくら銀行員をやっていていわゆるハイスペックということでも、モテないものはモテないだろう。
付き合い方がわからないというのは、本人の中での基準がないということだと思う。
他に比較対象がないから、その付き合っている相手がどの程度のものなのかわからないということはあるのかもしれない。
おそらく橋本の兄貴はハイスペックのせいで見栄を張ったのだろう。初めに見栄を張ってしまったから、引き返せなくなったのだ。
女の方は貢いでもらって気分がいいし、それでますます図に乗ったのだろうな。
俺ならそもそも見栄を張るにも張りようがない。どこかで食事をすることになっても、お金がないから初めから割り勘になりそうだ。
考えてみたら、それでも付き合ってくれるような女性なら橋本の兄貴にように貢ぐ必要もなさそうだ。
そんな風に考えると、お金があるからいいってわけでもないのかもしれない。
それに初めて付き合った相手が、自分より二十ぐらい上っていうのはどういうことなんだろう?
珍宝院は人それぞれと言っていたけど、そんなもんなのだろうか?
近藤千夏はハッキリ言って特に美人でもないしなにが良かったのか、俺にはまったく理解できないが、橋本の兄貴には貢ぎまくるだけの価値があったということなんだろう。
俺は夕食を食べたりしている間も、ずっとそんなことを考えていた。
そして夜の九時ぐらいになった時、桐山から連絡があった。
いますぐうちに来るということだ。
桐山は今日は近藤千夏を見張っていたはずだ。
しばらくすると桐山が来た。
「もうなにか動きがあったのか?」
今日から見張りだしたのに早いと思った。
「そうだ。実は近藤千夏が男とホテルに入ったんだ」
「それで?」
「昨日桜川が言ってた男と一緒だったよ」
「そうなのか? 間違いないのか?」
「間違いないと思う。桜川が言ってたように悪徳不動産屋って感じの見た目だよ」
そう言って桐山は少し笑った。
「へぇ、そうなんだ」
「いま二人はホテルにいると思うけど、それまではホテルの近所のバーで軽く飲んでたんだよ。だから、俺もそのバーに入っていろいろと聴き耳を立ててたんだ」
「なにかわかったのか?」
「ああ、わかった。その二人は付き合ってる」
「やっぱりそうなんだ」
「そうだ。まぁ、ホテルに一緒に行くんだったらそういう関係だよな」
俺も当然そうだろうという思いだった。
「それで?」
「男は実際に不動産屋をやってるみたいだ」
「やっぱり見た目ってそういうのが出るんだな」
「それでその男は近藤千夏に金を借りてるみたいな話をしてたよ」
「じゃあ、不動産屋は儲かっていないってことなのかな?」
「それはわからないけど、たぶんそういうことなんだろうな」
「そうだとすると、なんで近藤千夏はその男と付き合ってるんだ? 近藤千夏って金の亡者みたいな感じがするけど」
「男の言い振りからすると、いまはたまたまうまく行っていないだけで、すぐに良くなるような感じだったよ。だから一時的なものだと近藤千夏は思ってるんじゃないのかな」
「つまりいまの状態を乗り切ればってことか」
「そうだと思う」
俺と桐山はいったんそこで会話が止まった。
話がややこしくなってきたので、お互いに頭の整理をしている感じだ。
「その話からすると、近藤千夏の本命ってどっちだ?」
俺が言った。
「それは……。不動産屋だと思う。今日見た感じだと、どう考えても近藤千夏はその不動産屋との方がお似合いな感じだったしな」
桐山は思い出しながら答えた。
「確かその男は年齢的に近藤千夏と同じぐらいだったよな?」
「そうだ。普通に考えたら橋本の兄貴は単なる遊びか金づるかって感じだよな」
「たぶんそういうことなんだろうな。その不動産屋は橋本の兄貴のことを知ってるのかな?」
「いや、知らないと思う。二人の会話からすると、男の方はかなり本気で近藤千夏を好きみたいだったし、他に男がいたら許さないというようなことも言ってたしな」
「じゃあ、知らないんだろうな。ってことは、近藤千夏が単に二股をしているってだけか」
「おそらくな」
俺と桐山はまた黙った。