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第85話 年上の彼女③

「調べるっていっても、なにを調べるんだ?」

 桐山が桜川に訊く。

「その相手の女の人よ。どういう人なのかわかったら裏にあるものもわかると思うの」

「それもそうか。じゃあ、とりあえず橋本に、その女の居所を教えてもらおう」

 桐山はそう言うとすぐに橋本に連絡をした。

 橋本は兄貴に確認してから、すぐに連絡すると言ってきた。

「でも、どうやってその女ことを調べるんだ?」

 俺は桜川に訊いた。

「まずはその人の家の様子とかを見たらだいたいどんな感じかわかるんじゃないかしら」

「ああ、まぁ、確かに家の雰囲気から金持ちとかそういうことはわかるよな」

「そう。それに結婚しているってことだけど、それが本当かどうかもわからないじゃない。そういうのも一緒に調べるわ」

「言われてみれば、そうだよな。結婚してるっていうのは、たぶんその女が橋本の兄貴に言っただけのことだろうし、橋本の兄貴もそれ以上は確認していないだろうな」

「そうよ。まずは橋本君のお兄さんが言っていることが事実なのかを確認する必要があるわ」

「なんか、桜川って調査に慣れてる感じだな」

 俺はそう言って少し笑った。

「私って本屋で働いているのって、推理小説好きだからなのよ」

 桜川は自慢げに言った。

「そうだったんだ。それでそんなにやる気になってるんだ」

「実はそうなの。なんかこういうことをやってると楽しくって」

 桜川は照れ笑いした。


 それから数日がたって、橋本が桐山に女の居所を教えてきた。

「女の住所はわからないそうだ。でも、ここのスーパーでパートで働いてるらしい。それとSNSのアカウントがこれだって。それから名前は近藤千夏」

 桐山は俺と桜川にそれを教えた。

「これだけあれば、だいぶ調べられるわ」

 桜川は頷いていた。

「そうだな。このSNSのアカウントを見てたら、どういう行動をしてるかわかるしな」

 俺も頷いた。

「じゃあ、早速明日から調べるわ」

 桜川はそう言った。


 そしてそれから一週間が過ぎた。

 その間、俺と桐山は女のSNSの過去の状況を見ていた。

 女は写真もアップしているが、ほとんどが食べた料理の写真だった。人は写っていない。本人の写真もなければ、当然橋本の兄貴もまったく出てこなかった。

 ただ、写真はなくても、文章の内容は誰かとデートしたものであることがわかるようなものばかりだった。

 そしてアカウント名は近藤千夏となっている。仮名は使っていない。

「こんなことをSNSで書いて、大丈夫なのかな?」

 俺は女が既婚者という前提で考えると、デートとかしているのを公開しているのが理解できなかった。

「そうだな。そういうことで考えると、結婚しているってのは嘘なのかもしれないぜ」

 桐山が言った。

「でも、そんな嘘をつく必要があるのか?」

「わからないけど、でも、こんな誰でも見られるようなところに男とデートしたようなことを書かないだろ。結婚してるならさ」

「うーん、確かにな。こんなことを書いていたら、旦那にバレる可能性があるもんな」

「そうだよ。ってことは、普通に考えたら結婚してないってならないか?」

「なると思う」

 俺は桐山の理屈に納得するしかなかった。

「それにしても、結構いい店に行ってるみたいだな」

 桐山はスマホで女のSNSを見ながら言った。

「そうだな。これって全部橋本の兄貴と行ってるのかな?」

「たぶんそうだろう。だって、このアカウントは橋本の兄貴も知ってるわけだから、他の男とデートしているのがバレたらマズいし」

「それもそうだな。しかし、女の写真が一枚もないってなんか変な感じだよな。このアカウントの向こうに人が見えないというかさ」

「うん。それは俺も思った。他の人の写真はともかく、本人の写真もないって、これって誰に向けてやってるんだろうって感じだな」

「そうだよ。これだと橋本の兄貴に向けてだけ書いてるようなものだ。文章に具体的な名前が出てこないし、デートして食事したとはわかるけど、どこの店とかもまったく書いてない。だから、これ読んで内容がはっきりわかるのは、実際にデートした橋本の兄貴だけってことだ」

「それって、なにか意味あるのかな?」

「これをすることで橋本に兄貴にはちゃんと付き合ってるってアピールできるってことじゃないのかな。金づるの橋本の兄貴にはそう思ってもらわないとダメなわけだし」

「なるほど。私は本気であなたと付き合ってるんだってことか」

「そういうことだと思うよ」

「でも、橋本の兄貴も怪しいと思わないのかな? だって既婚だっていうのに、デートの内容をこんなところに公開してさ」

「それは俺もわからん。橋本の兄貴ってのが普通じゃないのかもしれないし。だって、四十過ぎのババアに横領してまで貢ぐって異常だよ。そんな奴の考えることなんて理解できないよ」

 桐山は苦々しそうだ。

 そんなやり取りをしているところに、桜川から連絡が入った。

 いますぐ会いたいという。

 俺たちはすぐに桐山の家に来るように言った。

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