橋本の件が解決して数週間がたった時、桐山が俺に連絡をしてきた。
橋本がまた相談したいことがあるということだった。
なので、俺と桐山でまた橋本と会うことにした。
バイト終わりに三人で集まると、居酒屋に入った。
「今日は俺の奢りだよ。遠慮なく飲み食いしてくれ」
橋本はどうやらお礼がしたいようだった。
「そうなんだ。じゃあ、遠慮なく」
俺も桐山も奢ってもらえるとなれば遠慮はない。
「お前たちのおかげで本当に闇金の取り立てがなくなったよ」
橋本は嬉しそうに言った。
「良かったな」
「美代の方にも来なくなったって言ってた」
「そうか」
あれから闇金がどうなったか、一度桐山が様子を見に行っていたが、事務所は閉鎖されていた。
俺に殴られた三人はその後どうなったのかわからないが、当分は仕事ができる状態ではないだろう。借用書も俺たちが取って行って処分したから、どうしようもない状態と思われた。
「正直言って、お前たちから解決したって聞いた時には、かなり疑っていたんだけどさ、本当に解決してくれたんだな」
橋本は俺たちのことを信じていなかったようだ。まぁ、中学時代の俺たちのことを知っていたら、それも仕方がない。
「まぁね。橋本と美代さんが借金から解放されて良かったよ」
「ありがとう。俺もバイト生活だから、こんな店でしかお礼ができないけど、感謝の印だよ」
橋本は頭を下げた。
「いいよ。気にしなくても」
「でも、それだったら桜川も呼んだら良かったな」
桐山が言った。
「そうだな。相談って聞いてたから呼ばなかったんだけど」
俺はなんだか桜川に申し訳なかった。
「いや、相談もあるんだ。というか、どっちかっていうと、相談がしたくて来てもらったんだよ。お前らなら解決してくれるんじゃないかと思ってさ」
橋本は身体を少し乗り出した。
「なんだよ? 相談って」
「実は、俺の兄貴がマッチングアプリで知り合った女にハマってしまってるんだよ」
「ふーん、それがなにか問題なのか?」
「その女っていうのが四十過ぎの既婚者なんだ」
「四十過ぎ? ってお前の兄貴って何歳だよ?」
「俺らの二個上だよ」
「ってことは二十四か」
「そうだ」
「それで四十過ぎってすごいな?」
桐山はニヤニヤしていた。
「まぁ、俺もすごいとは思うけど、でも、年齢のことはともかく既婚者ってのはマズいだろ?」
「それは、まぁ……」
「だから、その二人を別れさせてくれないか?」
「はぁ? なんだよそれ。無茶言うなよ」
桐山が言った。
「そうだよ。不倫だからって俺たちが無理やり別れさす立場でもないし、放っておけばいいじゃないか」
俺は橋本に言った。
「確かにお前たちはそういう立場ではないけどさ、他に頼れる人がいなくて」
そりゃ、こんなことを誰に相談したらいいのかわからないだろうな。
「お前は兄貴にその女と別れるように言ったのか?」
桐山が訊いた。
「言ったよ。だけど、別れる気はないみたいだ」
「両親はそのことを知ってるのか?」
「いや、両親には絶対に内緒にしてくれって言われてる」
「まぁ、そうだろうな。でも、なんでもお前は兄貴のそんなことを知ってるんだよ?」
「それは、たまたま街でバッタリ会ったからだよ。それであれ誰って感じで……」
「ああ、そういうことか。でも、不倫だとしても、やっぱり俺たちがどうこうできることじゃないよ。なぁ?」
桐山は俺に話を振った。
「そうだな。お前だって別れるように言うぐらいしかできないわけだろ? それなのにまったくの他人の俺たちが別れさせるってのはおかしくないか?」
橋本の気持ちも理解はできるが、俺はこんなことにはさすがに協力できないと思った。
「それはお前らの言うとおりだよ。確かにそうなんだけど……」
橋本はまだ納得できないようだった。
「他になにかあるわけ? 別れてもらいたい理由が?」
「不倫だから別れて欲しいってのは身内としてはそうだろうけど、他にあるなら隠さずに言えよ」
俺と桐山が言った。
「これは、確証があるわけじゃないことなんだけど……兄貴がその女に、かなり貢いでるみたいなんだ」
橋本は言いにくそうに言った。
「貢いでる? 四十過ぎの女に?」
俺と桐山は驚いた。
年齢差だけでも驚きだが、貢がれているのではなくて貢いでいるのだ。
「えっと、兄貴が女に貢いでいるのか?」
桐山が改めて確認した。
「そうなんだ」
「それって結構な金額なの?」
「たぶん。俺も正確にはわからないけど、結構貢いでそうだ」
「お前の兄貴って仕事はなにしてるの?」
「銀行で働いてる」
「じゃあ、そこそこお金は持ってるのか。俺たちと違って」
橋本は頷いた。
「でも、そうだとしてもだよ、お前の兄貴がその女ことが好きで、やってることなら他人が口出しはできないだろう?」
桐山が橋本に確認するように言った。
「そうなんだけど、自分のお金以外にも手を付けているみたいなんだ」
橋本は消えそうな声で言った。
「それって、ひょっとして横領とか?」
俺も声が小さくなった。