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第81話 中学の思い出⑪

 雑居ビルの中は静かだった。

 闇金以外にも会社が入っているのだが、あまり人の気配は感じられなかった。ビル全体が死んでいるようだ。

 俺は闇金の部屋に向かった。闇金はこのビルの三階にあるはずだ。

 階段で三階に上がると、ドアが三つ並んでいた。

 端から見て行くと、一番奥が闇金のようだ。

 ドアに白いプレートが貼ってあり「須藤エンタープライズ」と書いてある。

 この名前ではなにをやっている会社なのかわからないが、闇金なんてこんな感じなんだろう。

 俺はドアにそっと耳を近づけた。

 すると中から声が聞こえてきたが、なにを言っているのかまではわからない。

 俺は一度深呼吸をし、ドアノブに手をかけた。

 そして、一気にドアを開けて中へと入った。

「やめろ! 俺は正義の味方タカシマンだ!」

 俺は中に桜川がいるのを知っているので、思わずカッコつけてしまった。カッコ良くはなかったけど。

 俺はソファーに座っている桜川がまず目に入った。

 事務所は狭くせいぜい十畳ぐらいである。

 部屋の真ん中に応接セットが置かれて、端には事務机が一つあった。

 桜川以外には三人の男がいた。いずれもヤクザものの雰囲気である。

 桜川は泣きそうな顔で俺のことを見た。

 俺は頷いて、「もう大丈夫だ」と合図した。

「なんだ?」

 男のうちの一人が言った。

 男は全員二十代という感じだ。一人だけ少し年長なようであるが、せいぜい行ってて三十ぐらいだろう。そしてどうやらボスはそれのようだ。

 後の二人はまだ俺とあまり変わらないぐらいの年齢に見えた。

 三人ともが、子供の頃から悪いことばかりをしてきたんだろうという雰囲気である。

「おい、テメー、何者だ? 妙な格好して」

 男が俺に訊いてくる。

「正義の味方だ。お前たちのことを退治しに来た」

 俺はそう言い放った。

「ククク、おい、冗談だろ。なんだよこいつ」

 男たちは笑っていた。

 まったく俺のことを恐れていないようだ。

 でも、それも仕方がない。

 俺がいくらマスクとマントで変装をしたところで、強そうには見えないのだ。

「何者か知らねえけど、出て行けよ」

 ボス格の男が言った。

「そうはいかん。その子を放せ」

「お前、この女の仲間か?」

「え、そうだけど。あ、いや、そうだ。だから放すんだ」

「おい、この変な奴を叩き出せ」

 ボス格の男が他に二人に命じた。

「はい」

 若い二人は睨みつけながら、俺に近づいてきた。

「やめろ。痛い目を見るぞ」

 俺は一応警告した。

「なんだよ。痛い目って?」

「こういうことか?」

 若い男二人はそう言いながら、俺に殴りかかって来た。

 そのパンチが俺の顔に届く前に、二人の顔面に拳を叩き込んだ。

 グシャっという音とともに、一瞬で男二人が壁まで飛ばされた。

 殴られた男の顔面は陥没している。

 俺は桜川のこともあり、手加減をするつもりはなかった。

「な、なんだ!」

 年長の男は想定外のことに驚いていた。

 俺はそんなボス格の男に素早く距離を詰めた。

 そして、顔面にフックを叩き込んだ。

「アグッ!」

 男は一瞬声を出したが、それは本当に一瞬だった。

 クルクルとコマのように回り床に倒れた。顔面は歪み白目を剥いていた。

 勝負はあっと言う間だった。

「大丈夫?」

 俺は桜川に訊いた。

「う、うん。ありがとう」

 桜川は目の前で起こったことが信じられないという感じである。夢でも見ているような表情だ。

「とりあえず外に出よう。外で桐山も待ってるし」

 俺がそう言うと、

「ま、待って。借用書とかがあの中にあるみたいなの」

 桜川が言った。

「借用書? ああ、そうだね。それをなんとかしないと。それなら桐山にも来てもらおうか」

 俺は桐山に連絡して上に来るように言った。

 桐山はすぐに闇金の事務所に来た。

「終わったか?」

 桐山は事務所に入るなり言った。

「ああ、見てのとおり」

 男三人は死んではいないようだが、意識はなかった。

「借用書がその中にあるみたいだから、それを処分しましょう」

 桜川が事務机を指さした。

 桐山が事務机の引き出しを開けると、その中に借用書の束があった。

「これだな。こんなに被害者がいるってことか」

「そういうことだな。それ、どうする?」

「そうだな。とりあえずもらって帰って、燃やすなりして処分しよう」

 桐山は借用書の束をカバンに入れた。

「他になにかないかな?」

 桐山は机の中を物色した。

 名刺が出てきた。

「須藤元也。これがこいつの名前みたいだな」

 桐山が名刺を読んで言った。

 俺に手渡されたので見てみると、須藤エンタープライズという社名と名前が印刷されているだけのシンプルなものだ。

「あれ、他にも名刺があるな」

 桐山はさらに机の中から名刺を取り出した。

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