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第80話 中学の思い出⑩

「桜川がするっていうのはならやってもらえたらと思うけど、どうするわけ?」

 桐山がまた桜川に訊いた。

「まずはその闇金がどういう人がやってるかを調べるの」

「どうやって?」

「とりあえずは闇金の事務所を見張ってみる」

「ええっ、闇金を張り込むの?」

「そうよ。それと近所で聞き込みもしてみるわ」

「ちょ、ちょっと、そんな刑事みたいなことできるの?」

 さすがに俺も桐山も驚いた。

「できるわよ。私、そういうことをやってみたいって昔から思ってたの」

「でも、相手は闇金だよ。普通の人間じゃないけど大丈夫か?」

 俺は心配になって来た。

「大丈夫よ。別に事務所に入るわけじゃないんだし、近所に聞き込みをするっていっても、変なところにはいかないから」

 桜川は自信があるようだった。

「でも仕事は大丈夫なの? 休まないとダメだと思うんだけど」

 俺が訊いた。

「有休を消化しないといけないと思ってたからちょうどいいの」

「そ、そう。それなら、じゃあ、頼むか」

 俺は桐山の方を見た。

「そうだな。敵を知らないことには行動できないし。頼んだよ」

 桐山は言った。

「任せておいて」

「なにかあったらすぐに連絡してくれよ」

 桐山が念を押すように言った。

 桜川は頷いた。

 そして話し合いは終わった。


 俺と桐山は桜川と別れて、桐山の家に戻った。

「桜川ってあんな感じだったんだ? なんか中学の時のことを思うと、信じられないよ」

 桐山は感慨深げだ。

「そうだな。まさかこんな探偵みたいなことをしたいと思ってたなんて」

 俺としても驚きである。

「でも、俺もそうだったけど、これまでの人生があまりに退屈だったから、なにか刺激が欲しいってのはあるのかもな」

「そうだな。俺もこんな風になってから、毎日張りがあるし」

 実際、珍宝院と出会ってから、毎日が充実して感じられた。

「でも、大丈夫か心配だよ。桜川にやる気があるのはいいけど、やり過ぎないかってさ」

「それは、確かにあるかもな。無茶なことをしなければいいけど」

 俺も心配だった。


 そして何日が立った時に、桐山から電話があった。

 俺はバイトがそろそろ終わろうとしていた。

「大変だ! 桜川がヤバい」

 桐山は切羽詰まっている声を出した。

「なんだよ? なにがあったんだ?」

「と、とにかく、いますぐ闇金のところまで来てくれ!」

 桐山がそう言うと電話が切れた。

 俺はすぐにバイト先を出て、闇金へと向かった。

 いったいなにがあったのか?

 桜川が闇金のことを探っているのが、連中にバレたのかもしれない。

 桜川のことが心配でならなかった。

 俺はとにかく急いだ。闇金の所在地は橋本から聞いて知っていた。しかし、実際に行ったことはないので、スマホで地図を見ながらだから、時間がかかってしまった。

 俺が闇金の事務所がある雑居ビルの近くに行くと、桐山がソワソワと落ち着かない様子で立っていた。

「なにがあったんだ?」

 俺は桐山を見るなり訊いた。

「桜川が中に連れ込まれた」

「えっ、どういうことだ?」

「俺が桜川の様子を見に、バイト帰りに来てみたんだよ。そうしたら桜川がガラの悪そうな連中に囲まれてて、それでそのままこのビルに入って行ったんだ」

「そうなのか」

 俺は雑居ビルを見た。

 雑居ビルはかなり古びた感じで、不気味な感じがした。

「相手は何人だった?」

「二人だ」

 桐山は指を二本立てて前に突き出した。

「どうする?」

 俺は桐山に訊いた。

「もうこうなったら、調べるもなにもないよ。乗り込んで助けた方がいいだろう」

「そうだな。その方がいいか」

 俺としても桜川をとにかく助けたい。

 事務所に連れ込まれて、なにをされているのかわからないが、桜川が怯えているのは確かだろうし。

「ほら、これ。お前の家から持ってきた」

 桐山は紙袋を出した。

 中にはタカシマンのマスクとマントが入っていた。

「持ってきたのか?」

「こんなこともあろうかと思ってな。お前のオバサンに言ってお前の部屋から持ってきてたんだ」

「用意がいいな。よし、じゃあ、準備する」

 俺と桐山は人目につかないように、路地裏に回った。

 俺はマスクとマントを身につけた。

 それにしても、正義の味方がこんな感じで変身しているのはどうもカッコがつかない。

 そうしている間、桐山は闇金の入っているビルをチラチラみて変化がないか確認していた。

「準備できたか?」

 桐山が訊いた。

「オッケー。いいぞ」

「よし、じゃあ、俺はここで待ってるから、行って桜川を助けてきてくれ」

「任せろ」

 俺はマントをなびかせながら雑居ビルに入った。

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