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第79話 中学の思い出⑨

 美代の話を聞いていて、嘘ではないように思えた。

 美代が言っている話の中身と、美代の雰囲気が合っているのだ。

 この子が積極的に詐欺を働くとはとても思えない。それにそうだとしたら、こうしてここに来ることもなかっただろう。

「あの、ちょっと話の角度が変わるんだけど、美代さんは橋本を騙すのに加担して借金はどうなったんですか? チャラにしてもらえたんですか?」

 桐山が質問した。

「いえ、少しだけ額を減らしてもらえましたけど、まだかなりの金額です。それに利息も高いので、一向に減らないんです」

 美代は涙声になっていた。

「犯罪行為をやらされて、まだ借金がなくならないって、ちゃんと初めに確認しなかったんですか?」

 桐山は強めの口調になっていた。

「すみません」

 美代は消え入りそうな声でそう言うと、下を向いた。

「橋本としてはどうなの? そういう事情のようだけど、美代さんを許す気はあるの?」

 桐山は橋本に質問した。

「そ、それは……」

 橋本はどうして良いのかわからないようだった。

「それにしても親が病気っていうのは本当だったんだな」

 俺が言った。

「そうだな。でも、親ってお父さん? お母さん?」

 桐山が美代に訊いた。

「父です。ですから、収入も少なくなって母は仕事もしていないですし、私がなんとかしないとって思ったんですが、こういうことになって余計に悪い状態になってしまって……」

 確かに余計に悪い状態だ。

「お前がお金を貸してあげてたら、少しはましな状況だったんじゃないの?」

 俺が橋本に言った。

「うっ、で、でもいきなりそんな話をされて信用するか? たいしてお互いに知りもしない時だぞ」

 橋本がそう言った。

「そうだよ。橋本が疑ったの無理はない」

 桐山が言う。

「それに、どうせ美代さんを助けるほどのお金も出せなかっただろう?」

「まぁ、そうだな。俺だってお金はそんな持ってないし」

「もう、美代さんのやったことは許してやれよ」

 桐山は橋本に言った。

「そ、そうだな。確かに俺も疑ってちゃんと話を聞かなかったのもあるし……」

 橋本は許す気になっているようだった。

「ごめんなさい。橋本君が私の話を信じられなかったのも当然です。悪いのは私です」

 美代がそんな感じなので、もう橋本も美代を責める気は失せているようだ。

「じゃあ、その闇金に手を引いてもらう方法を考えよう」

 俺が言った。

「そうだな。でもどうやってすればいいんだろうなぁ」

 桐山は腕を組んだ。

「そうだよなぁ」

 俺も同じように腕を組んだ。

「頼むよ。警察に行っても話を聞くだけでなにもしてくれないし、弁護士に頼むお金もないんだ」

 橋本は俺たちに頭を下げた。

「お願いします」

 橋本につられるように美代も頭を下げた。

「とりあえずいったん帰ってどうするか考えるよ」

 桐山がそう言って話が終わった。

 俺と桐山は桐山の家に帰ってきた。

「どうする?」

 俺が言った。

「あの二人の借金をなかったことにさせるだけじゃなくて、その闇金自体を壊滅させる必要があると思うんだ」

 と桐山。

「そうだな。他にも被害者がいるだろうし」

「だとすると、乗り込んで連中をやっつけるしかない」

「まぁ、そうなんだけど、いきなり乗り込んで闇金の連中をボコボコにするのか? さすがに気が引けるな」

「そうだよなぁ。相手はいまのところ暴力的なことをなにもしてないのに、いきなりこっちが相手に暴力を振るうのも違う気がするな」

「じゃあ、俺たち二人で行って連中と話し合いをするか?」

「闇金に俺たち二人でわざわざ行くのか? 話し合いに」

「なんかおかしいな。それに連中が俺たちと話し合うわけないし」

「俺たちだけで話をしてても良いアイデアは出そうにないし、明日桜川も交えて、もう一回どうするか話し合おう」


 次の日、桜川を合わせた三人で会った。

 足立美代に会った時の話を桜川にした。

「そんな感じだったんだ。だったら今度はその闇金を調べるのがいいんじゃない?」

 と桜川が提案した。

「調べるって? なにを」

「その闇金がどういう組織なのか調べるの。だって、その闇金がバックに大きな組織があるのなら、その闇金だけを潰しても仕方がないでしょう」

「ああ、なるほど。それもそうだな」

 俺と桐山は納得した。

「確かにその闇金のことはいまは俺たちはなにも知らないもんな」

 俺が言った。

「そうよ。だからまずはその闇金のことを調べるの。そうしたらどうすべきか答えが見つかるんじゃない」

 桜川の言うことはもっともだった。

 桐山と二人では思いつかないことだ。

 俺も桐山も単なるフリーターなんだから、仕方がないことだけど。

「でも、どうやって調べるんだ?」

 桐山が桜川に訊いた。

「それは私がやるわ」

 桜川は妙にやる気だ。

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