美代の話を聞いていて、嘘ではないように思えた。
美代が言っている話の中身と、美代の雰囲気が合っているのだ。
この子が積極的に詐欺を働くとはとても思えない。それにそうだとしたら、こうしてここに来ることもなかっただろう。
「あの、ちょっと話の角度が変わるんだけど、美代さんは橋本を騙すのに加担して借金はどうなったんですか? チャラにしてもらえたんですか?」
桐山が質問した。
「いえ、少しだけ額を減らしてもらえましたけど、まだかなりの金額です。それに利息も高いので、一向に減らないんです」
美代は涙声になっていた。
「犯罪行為をやらされて、まだ借金がなくならないって、ちゃんと初めに確認しなかったんですか?」
桐山は強めの口調になっていた。
「すみません」
美代は消え入りそうな声でそう言うと、下を向いた。
「橋本としてはどうなの? そういう事情のようだけど、美代さんを許す気はあるの?」
桐山は橋本に質問した。
「そ、それは……」
橋本はどうして良いのかわからないようだった。
「それにしても親が病気っていうのは本当だったんだな」
俺が言った。
「そうだな。でも、親ってお父さん? お母さん?」
桐山が美代に訊いた。
「父です。ですから、収入も少なくなって母は仕事もしていないですし、私がなんとかしないとって思ったんですが、こういうことになって余計に悪い状態になってしまって……」
確かに余計に悪い状態だ。
「お前がお金を貸してあげてたら、少しはましな状況だったんじゃないの?」
俺が橋本に言った。
「うっ、で、でもいきなりそんな話をされて信用するか? たいしてお互いに知りもしない時だぞ」
橋本がそう言った。
「そうだよ。橋本が疑ったの無理はない」
桐山が言う。
「それに、どうせ美代さんを助けるほどのお金も出せなかっただろう?」
「まぁ、そうだな。俺だってお金はそんな持ってないし」
「もう、美代さんのやったことは許してやれよ」
桐山は橋本に言った。
「そ、そうだな。確かに俺も疑ってちゃんと話を聞かなかったのもあるし……」
橋本は許す気になっているようだった。
「ごめんなさい。橋本君が私の話を信じられなかったのも当然です。悪いのは私です」
美代がそんな感じなので、もう橋本も美代を責める気は失せているようだ。
「じゃあ、その闇金に手を引いてもらう方法を考えよう」
俺が言った。
「そうだな。でもどうやってすればいいんだろうなぁ」
桐山は腕を組んだ。
「そうだよなぁ」
俺も同じように腕を組んだ。
「頼むよ。警察に行っても話を聞くだけでなにもしてくれないし、弁護士に頼むお金もないんだ」
橋本は俺たちに頭を下げた。
「お願いします」
橋本につられるように美代も頭を下げた。
「とりあえずいったん帰ってどうするか考えるよ」
桐山がそう言って話が終わった。
俺と桐山は桐山の家に帰ってきた。
「どうする?」
俺が言った。
「あの二人の借金をなかったことにさせるだけじゃなくて、その闇金自体を壊滅させる必要があると思うんだ」
と桐山。
「そうだな。他にも被害者がいるだろうし」
「だとすると、乗り込んで連中をやっつけるしかない」
「まぁ、そうなんだけど、いきなり乗り込んで闇金の連中をボコボコにするのか? さすがに気が引けるな」
「そうだよなぁ。相手はいまのところ暴力的なことをなにもしてないのに、いきなりこっちが相手に暴力を振るうのも違う気がするな」
「じゃあ、俺たち二人で行って連中と話し合いをするか?」
「闇金に俺たち二人でわざわざ行くのか? 話し合いに」
「なんかおかしいな。それに連中が俺たちと話し合うわけないし」
「俺たちだけで話をしてても良いアイデアは出そうにないし、明日桜川も交えて、もう一回どうするか話し合おう」
次の日、桜川を合わせた三人で会った。
足立美代に会った時の話を桜川にした。
「そんな感じだったんだ。だったら今度はその闇金を調べるのがいいんじゃない?」
と桜川が提案した。
「調べるって? なにを」
「その闇金がどういう組織なのか調べるの。だって、その闇金がバックに大きな組織があるのなら、その闇金だけを潰しても仕方がないでしょう」
「ああ、なるほど。それもそうだな」
俺と桐山は納得した。
「確かにその闇金のことはいまは俺たちはなにも知らないもんな」
俺が言った。
「そうよ。だからまずはその闇金のことを調べるの。そうしたらどうすべきか答えが見つかるんじゃない」
桜川の言うことはもっともだった。
桐山と二人では思いつかないことだ。
俺も桐山も単なるフリーターなんだから、仕方がないことだけど。
「でも、どうやって調べるんだ?」
桐山が桜川に訊いた。
「それは私がやるわ」
桜川は妙にやる気だ。