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第78話 中学の思い出⑧

「いったいどういうこと?」

 俺は思わず桜川に訊いた。

「内容が内容だから、二人が小声で話すせいであまり聞こえなかったんだけど、どうやら女の子も闇金でお金を借りてて、それが返せずに脅されて詐欺に加担させられたみたいなことのようなの」

 と桜川が説明した。

「なるほど。そういうことか。じゃあ、アダチミヨも被害者ってことだ」

 と桐山が言う。

「そうだな。もしそうだとしたら、アダチミヨも無理やり橋本をだますように仕向けられたのかもしれないな」

 俺も言った。

「でも、まだはっきりわからないわ。とにかく小声でコソコソ話していたのを聞いただけだから」

 と桜川は自信なさげだ。

「そりゃ、そんな話を大声でするはずないよな」

「そうだよ。でも、それだけの情報が得られたのは大きいよ」

 俺も桐山も話の筋が見えてきた。

「そうだとすると、次は直接アダチミヨに当たるのが良いかもしれないな」

 と桐山。

「そうだな。彼女も被害者なら、俺たちに事情を話してくれるだろう」

「じゃあ、橋本に言って彼女と会えるようにセッティングしてもらうよ」

 桐山はそう言って、その場からすぐ橋本に連絡をした。


 数日後、橋本がアダチミヨを俺たちに会わせることになった。

 その場には俺と桐山が行くことにした。

 まずは、橋本と待ち合わせしたが、橋本は浮かない顔をしていた。

「お前らの言ってることって本当なのか?」

 橋本は俺と桐山に訊いてきた。

 桐山がすでに桜川が得てきた話を橋本に伝えていたのだ。

「おそらく本当だよ。心当たりはないのか?」

 桐山が言った。

「心当たりって言われても……。確かに彼女は詐欺とかするような子ではないよ。それだけに俺はショックだったんだ。でも、所詮はアプリで知り合っただけだし、表面上いくらでも演じることはできるだろうし」

 橋本は複雑な心境のようだ。

「でも、その子が無理やりやらされたんであって、自分の金儲けのためにやったんじゃないってなると、嬉しいだろ?」

 俺が言った。

「まぁ、多少は嬉しいけど、結果的に俺を騙したのは同じだし……」

 橋本はうじうじしていた。

「だったら、お前は彼女のことを嫌いなのか?」

「いや、いまだ好きだよ」

「だったら、一緒に助けようよ。お前を騙したの事実だとしても、彼女も困ってるかもしれないじゃないか」

「まぁ、そうだけどな」

 どうも橋本は煮え切らない。

「とにかく、彼女と会って話を聞こうよ。正直に彼女も話してくれると思うよ。もう事情も俺たちが知ってるとなったらね」

 と俺は言った。

 そして、アダチミヨとの待ち合わせ場所に移動した。

 桜川が撮った写真で見たとおりの、アダチミヨはごく普通の若い女性だった。

 見た感じはどちらかというと地味なぐらいである。

「橋本君、ごめんなさい」

 会った瞬間、アダチミヨが橋本に謝った。

 機先を制されて、橋本は一瞬言葉に詰まった。

「あ、ああ。あの、ラインでも伝えたとおり、あんなことをした理由があるのはわかった。だから、とにかくこいつらに相談してみて」

 橋本はそれだけ言って黙った。

「足立美代です。初めまして」

 美代は俺と桐山に頭を下げた。

「どうも」

 俺と桐山も頭を下げる。

 それから俺たちは近くの喫茶店に入り話を聞くことにした。

「橋本からどれだけ聞いてるかわからないから、順番に話しますね」

 桐山が話し出した。

「まず、美代さんが闇金とつながりがあることは知っています。そして橋本を投資話で騙して闇金を紹介したことも」

「はい」

 美代はうつむき気味で小さく返事をした。

「それで、闇金に美代さんがお金を借りていることも知っています。これって合ってますね?」

「はい。合ってます」

「俺たちは美代さんも橋本も助けたいと思っています。ですから、どうしてそんなことをしたのか、詳しく話してくれますか?」

「実は、私の親が病気になって、まとまったお金が必要になったんです。それで、初めは消費者金融で借りてたんですけど、返せなくなって、あっちこっちから借りているうちに、怪しいところからも借りることになったんです」

「怪しいところっていうのが、闇金ですね?」

「そうです。それで、そこの借金も返せなくなっている時に、闇金の人から、返せないのなら仕事に協力しろって言われて……」

「それが投資話の詐欺ってこと?」

「はい。闇金の人としては、いくら強引に取り立てるにしても、借りていない人はどうしようもないので、まずは借金をさせるように仕向けるんだって」

「ああ、なるほど。それでまずは投資話を持って行くと」

「そういうことです。それで損をさせて、借金をするように持って行くということです」

「それでマッチングアプリで適当なカモを探したんですね?」

「そうです」

 美代は申し訳なさそうにした。

 それはそうだろう。目の前にそのカモがいるのだ。

「でも、私は橋本君のことは好きだったんです。これは嘘じゃないです」

 美代は力を込めて言った。

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