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第75話 中学の思い出⑤

 俺と桐山は一度三人で橋本と会うことにした。

 桐山が言うには、橋本はなぜ自分の話を他人にしたのかと怒ったらしい。しかし、助けるからということでなんとか説得して連れてきた。

 俺ら三人は喫茶店に入った。

「久しぶりだな」

 俺がまず言った。

「あ、ああ」

 橋本は気まずそうな顔をしていた。

 そこからしばらくは昔話や雑談をして、本題を切り出した。

「だいたいの話は桐山から聞いたけど、もう一度詳しく聞かせてくれよ」

「う、うん。いいけど、なにから言えばいい?」

「じゃあ、まず女との出会いから」

「女とはアプリで知り合ったんだ。マッチングアプリだ。何度かやり取りして実際に会って、付き合うようになったんだ」

「へぇ、そうなんだ。初めての彼女か?」

「そうだ。だから俺は嬉しかったよ」

 一瞬橋本はニヤッとした。

 中学の頃は地味で本当に話をしない奴だったが、さすがに大人になって少しは話をできるようになっているみたいだ。

「だろうな」

「だけど、ある時突然ある時に親が病気だからって言われて、なんか怪しいなって思ったんだよ」

 桐山からも聞いた話である。

「それで距離を取ったと」

「いや、距離を取ったというか、単に俺もお金を持ってないから貸せないって断ったんだ。そうしたら彼女の方が距離を取ったんだよ」

「そうなんだ」

 桐山の話と微妙に違う。

「でも、それからしばらくしたら投資の話があるって言ってきて、俺としても連絡をくれたのが嬉しかったし、彼女のことが好きだったから理由はなんであれ会えるのならと思って話を聞きに行ったんだ」

「ほう。その投資が競艇のなにかだったということだな?」

「まぁ、そうなんだけど、彼女が言うにはかなり高い確率で当てられるから絶対もうかるって言うんだよな」

「誘う方はそう言うよな」

「そうだよ。だから俺も信じてなかったんだけど、実際に競艇場に行ってやったら、まぁまぁ、それなりに当たるんだよ。それでどうなってるのか訊いたら、裏でどの選手が勝つか情報がもらえるってことなんだ」

「つまり八百長ってことか?」

「そうなんだと思う。それでも当て過ぎると怪しまれるから適当にはずしたりしながらやるんだって」

「なんか、ありそうと言えばありそうだな」

「だろ。それで彼女の言うとおりの俺も舟券を買ってみたんだよ。そうしたら当たったんだよ。それではまってどんどんのめり込んだんだ。彼女から情報も買ってな」

「でも、彼女がくれる情報があるなら儲かるんだろ?」

「そのはずだったんだけど、実際はそうでもなかった。というか、普通に予想して舟券買うのとあまり変わらない感じだったよ」

「そうか。それで、どんどんお金が無くなって消費者金融でお金を借りるようになったのか」

「まぁ、そうだ」

「でも、闇金まで手を出すまで借金するのはマズいだろ」

「それは俺もわかってるよ。俺は消費者金融で確かにお金を借りたけど、それは普通にバイトで返せるぐらいの額だよ。でも、彼女が情報売った責任を感じて、お金を貸してくれる人を紹介するって言ってくれたんだ。それが結果的には闇金だったんだけどな」

「えっ、そうなの? おい、桐山。お前の言ってた話だと、その彼女と闇金のつながりはハッキリしないってことじゃなかったか?」

 俺は桐山の方を見た。

「そうだ。だって、前は橋本がそんな感じで言ってたから。橋本、お前なんか前と話変わってないか?」

 今度は桐山が橋本の方を見た。

「す、すまん。こんな簡単なことに騙されたと思われるのが恥ずかしくて、つい、適当なことを言ってしまって……」

 橋本は恥ずかしそうに下を向いた。

「なんだよ。そういうことか。それなら話はそれほど複雑じゃないな」

 と桐山。

「そうだな。彼女は初めから嘘の投資話で損をさせて闇金に行くように仕向けてたんだろう。つまり、橋本はしなくていい借金を背負わされてしまったということだな」

「回りくどいやり方だけど、初めに親が病気でって話が通用しなかったから、そんなことをやったんだろうな。しかし、その中身は結構ずさんだな。すぐにおかしいってバレそうな内容だけど」

 桐山はそう言って橋本を見た。

「恥ずかしい限りだよ。俺も怪しいって思ってたよ。ずっとな。でも彼女のことが好きだったし、ひょっとしたら本当にお金も儲かるかもって思ってしまって……」

 俺と桐山は顔を見合わせてため息をついた。

 橋本の気持ちがわからないでもない。

 初めてできた彼女だし、できるだけうまく続けたかったんだろう。彼女を信じたい気持ちもあったのだと思う。

 それに金儲けの話も信じたくなる気持ちもわかる。

「それで、いま借金はいくらあるんだ?」

「だいたい三百万」

「えっ、そんなに!」

 俺も桐山も絶句した。

「もちろんそんなに借りたわけじゃないよ。ほとんど利子だよ」

「借りたのはいくらだ?」

「二十万」

「なんだそれ。それはひどいな」

「そうだろ。俺にはとても返せないよ」

 橋本は半泣きだ。

「それはそうだろうな。警察に行ったのか?」

「行ったけど、話を聞いてくれただけで、なにもしてくれなかった」

「でも、そんな法外な利息なら返す必要ないだろ」

 俺が言った。

「そうだけど、相手は普通の人じゃないから……」

「そりゃそうだな。違法だとか言っても通用する相手じゃないか」

 桐山はため息まじりに言った。

「だいたい話はわかったよ」

 俺と桐山は橋本を助けることをハッキリと決めた。

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