翌日から桐山は橋本にいろいろと話を聞いた。
そして数日後、桐山は俺を家に呼んだ。
「いろいろと事情はわかったよ」
桐山が言った。
「どんなだった?」
「まず借金をしているのは本当だ。借りている先も闇金らしい」
「そうか。大変なのは事実なんだ」
「そういうことだ。それで、女にお金を盗られたって話だけど、それに関しては少し複雑だ」
「複雑?」
「うん。まず、女と知り合ったのはマッチングアプリということだ」
「またアプリか。いまはアプリで知り合うってことが多いんだな」
「それはあるだろうな。それで、橋本は知り合った相手と何度か会っているうちに、相手の女が親が病気で困っているって話し出したらしいんだ」
「ああ、なるほど。それで橋本はお金を貢いだってことか。まるで昭和のドラマみたいな話だな」
「それだったら簡単なんだけど、そうじゃないんだ」
「そうじゃない?」
「橋本はそれを聞いて、ヤバいと思ってその女と距離を取ったらしいよ」
「へぇ、やるじゃん。あいつも成長したな」
「まぁ、女の方もお金を直接的に要求してきたわけじゃないみたいで、結局はつながりは保ったままだったらしいけどな」
「ほう、それで?」
「それで、ある時、女が投資をするって話をしだしたらしい」
「じゃあ、その投資に橋本も誘ったとか?」
「いや、誘ってないんだ」
「ええっ、いったいどうなってるんだよ」
「まぁ、聞いてくれ。橋本が言うには、その投資っていうのがボートレースに関するものらしくて、それを確実に当てる方法があるってことだ」
「胡散臭すぎるだろ。ボートレースって競艇だろ? 確実に当てる方法なんてあるわけないだろ」
「そう。あるわけない。橋本もギャンブル好きでもないし、興味はなかったそうなんだ」
「じゃあ、なんなの?」
「その女がその投資をするってことらしい」
「ふーん。まぁ、親が病気でお金がいるってことなんだろうしな。でも、それは勝手にやらせておけばいいんじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけど、女が競艇場に一人で行くのが怖いから一緒に来てと言われて、ついて行ったらしい」
「まぁ、女子一人で競艇場は怖いか」
「その女はどこかでボートレースに関する情報を買っているようで、かなり当てたらしいんだ」
「さっき言ってた確実に当てる方法ってことか」
「そうだ。女があまりに当てるんで、橋本も舟券を買ってみたんだって。そしたら本当に当たって結構儲けたらしい。そこからどんどんボートレースにはまって行って、借金をするようになったってことだ」
「うん? ちょっと待てよ。まず、その確実に当てる方法ってのはやっぱり嘘だったってことか?」
「当然な。初め行った時に当たったのはなにか細工がしてあったのか、たまたまなんだろう」
「じゃあ、女にお金を盗られたっていうのは? その話だと単に博打で借金をしたってことだけに思えるけど」
「橋本はお金が必要で、初めはテレビでも宣伝してるような消費者金融で借りてたけど、それでも足りなくなって闇金にいくことになるんだ。それで橋本が言うには、その女がその闇金とつながっているって言うんだよ」
「ふーん。でもそれってホントなのか?」
「俺にはわからんけど、橋本はそう思っているみたいだ。根拠はイマイチわからないけどな」
「でも、なんでそう思うか橋本に訊いたんだろ?」
「訊いたけど、話がぼんやりしててよくわからなかった」
桐山は首をかしげていた。
「うーん。でもそれだとなにがどうなってるのかわからないな。橋本が闇金でお金を借りていて困っているのは事実だとしても、原因が博打だとなぁ。女が関係しているようにも思えるけど、闇金と女がつながってるっていうのは無理がないか?」
「だから複雑だって言っただろ。とにかくその闇金とか女を調べないとなにもわからないよ」
「そうだな」
桐山の言うとおりだ。
この状態ではなにもわからない。
「ところで、桜川のことだけど……」
「なに?」
「桜川を俺たちの仲間に入れたらどうだ?」
桐山は突然そんなことを言いだした。
「桜川を仲間に?」
「そう。俺たちのやっていることも知ってるわけだし、いっそ仲間にした方がいいんじゃないかって思うんだ」
「ま、まぁ、そんな気もするけど……」
俺は桜川を仲間にすることは歓迎ではあった。しかし、桜川がこんなことを一緒にしたがると思えなかった。
「女の仲間がいた方が、なにかと便利なこともあるように思うんだ」
「そ、そうか」
「俺一人で調べるのって限界があるしな」
確かに桐山が一人で調べているから、大変ではあるだろう。
「でも、あいつ、やるって言うかな?」
「たぶん言うと思うよ。この前話してた時にかなり興味があるような目をしてたし」
桐山はかなり自信があるようだった。
「じゃあ、誘ってみるか」
「そうしよう」
俺たちは桜川を仲間にすることにした。