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第72話 中学の思い出②

 桜川と会ってから一週間後、早速桐山も交えて三人で会うことになった。

 前回と場所は同じ居酒屋である。

「あ、桐山君」

 桜川は桐山を見た瞬間わかったようだ。

「よ、よう、久しぶり」

 桐山はたどたどしい感じだ。女の子と話すのに慣れていないから仕方がない。

「昔と変わってないね」

 桜川は桐山をしげしげ見た。

「そ、そんなに見ないでくれよ」

 桐山は恥ずかしそうにした。

 挨拶が終わると席に着き、三人で昔話に花が咲いた。

 三人とも中学の時は地味で、異性と関わることがほとんどなかったので、こうやって話すのはほとんど初めてという感じだ。

 しかし、すぐに打ち解けた。

 三人ともがわかり合えるものがあった。

「あの当時、私は桐山君とは一回も話をしたことないよね?」

 桜川が言った。

「そうだな。俺は桜川に限らず、女子とはほとんど会話したことがないから」

 と桐山も言った。

「私も、あの頃はほとんど男子と話すことなかったなぁ。なんか苦手だったんだ」

「いまはそうでもないの?」

「いまはさすがにそんなことはないわよ。もう大人なんだし」

 そう言って桜川は笑った。

 確かに三人とも大人になったのだ。

 お酒も進み、三人はだいぶ打ち解けた。

 桐山も初めは緊張感があったが、それもすっかりなくなった。

「私の友達のことでは、桐山君にもお世話になったみたいね」

「ああ、藤堂美紀のことか。世話になったというほどのことでもないよ」

「あの子が初めホストにフーゾクに売られそうになっているって聞いたときはびっくりしたけど、まさかそれがこんな結末になるなんてびっくりだわ」

「俺としては、ホストクラブに二百万もツケがあるって聞いたときは、そんなの本人が悪いんだから仕方がないって思ってたんだ。だからタカシにも放っておけって言ったように思う」

 と桐山は話した。

「でも、いまになったらそれの方が良かったなって思うわ」

「だいたいツケっていっても、要は借金だろ? 返せない借金なんてする方が悪いんだって思うんだよ」

「そうよね」

「あ、それで思い出したけど、俺のバイト先にも借金で困ってる奴がいるんだよ」

「へー、どんな風に困ってるんだ?」

 俺は何気なく訊いた。

「そいつって俺たちと同じようなフリーターなんだけどさ、女にお金をだいぶ盗られてみたいなんだよ。それで生活費に困っていろいろと消費者金融とかでお金を借りてたそうなんだよ」

 と桐山。

「お金を盗られた?」

「俺も詳しくは聞いてないけど、どうも女に貢いだみたいだ」

「貢いだと盗られたはだいぶ違うと思うけど?」

「まぁ、騙されるような形でお金を貢いだんじゃないのかな」

 桐山もその辺りの事情は聞いていないようだ。

「なるほどね。どこにでもそんな男はいるんだな。お金があるならたいして問題でもないんだろうけど、お金がないなら問題だよな」

「そうなんだよ。それで消費者金融で借りるようになった」

「でも、それって返すしかないだろ」

「そうなんだけど、そいつは消費者金融だけでは足らなくなってヤバいところからも借りてるみたいなんだ」

「ヤバいところ?」

「闇金とか聞いたことあるだろ?」

「ああ、不法の金貸しみたいなあれだろ。漫画とかで知ってはいるけど、あんなところで借りたんだ」

「そうみたいだ。それでとんでもない利子がついて困ってるみたいだよ」

「ふーん」

 噂ではそういう話はよく聞くが、本当にあるんだなという感じだった。

「とんでもない利子ってどれぐらいなの?」

 と桜川が訊いた。

「額は知らないけど、トサンとか言ってたな」

「トサン?」

「トサンってのは、十日で三割の利息ってこと」

「えっ、そんなに」

「うん。だからそりゃ返せないよな」

「そうよね。そもそもお金がないから借りてるんだし、すぐに返せるなら借りないものね」

「そういうことだ。だからそいつもいまはバイトには来てるけど、いつまで持つかわからないよ」

 桐山は他人事ながら心配そうだ。

「つまり、そのうちもっと稼ぎのいい仕事をやらされるとか?」

「それならまだいいけど、内臓を無理やり取られるとかもあるかも」

「ええっ、そんなのって現実にあるの?」

 桜川は驚いて大きな声になった。

「俺もそれは知らないけど、そういう都市伝説みたいな話はよく聞くよな」

「そうだな」

 俺と桐山は二人で頷いた。

「でも、元々はその人が女に貢いだのが失敗だったんだよな。それに貢ぐにしても借金までして貢ぐなんて異常だよ」

 俺は言った。

「俺もそれは思う。でも、なにか事情があるように思うんだよ。だって、そんなタイプじゃないしな」

「そんなタイプじゃないっていうのは?」

「そいつ、実は中学の同級生の橋本だよ」

「ええっ!!」

 俺と桜川は同時に声を上げた。

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