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第26話 桜川の元カレ④

 翌日、早速俺は桜川が仕事に行く時に、隠れて様子を見ることにした。それでつけている奴を見つけることができればいいし、見つからなかったら、桜川の思い過ごしだということで終わらせられる。

 桜川からは家を出る時間を聞いていたので、その時間に物陰に隠れ、桜川が家から出てくるのを待った。

 周りの様子をうかがってみたが、怪しい者はいないかった。

 桜川が玄関から出てきた。

 俺は離れてその後をつけて行った。

 桜川から連絡が入った。

 どうですか?

 と来たので、

 特に誰もつけている人はいないようだよ。

 と返した。

 実際誰もそういう人はいない。むしろつけているのはいまは俺だ。

 なんだか変な状況だなと思いながら、駅まで行き、そしてそのまま電車に乗った。

 電車内でも怪しい人はいないようだ。

 ただ、普通に通勤している人たちにしか見えなかった。

 そして、桜川の働いている書店の最寄り駅で降りて、そのまま会社までなにもなく到着した。

「どうだった? 誰かつけていた感じある?」

 俺は桜川が書店に入る前に訊いた。

「いえ、今日はまったくなにも。でも、いつもは誰かがつけている感じが本当にあるんです。信じてください」

 俺としても、別に桜川が嘘をついているとは思っていない。

 だが、これでは解決の方法がなかった。

「仕事中は見られている感覚とかはないの?」

「それはないです。いつも仕事に行く時と帰る時です」

「うーん、それじゃあ、帰りにまた調べてみるか」

「お願いします」

 桜川は頭を下げた。

 俺としては面倒なことになったと思いながらも、乗り掛かった舟だから、いまさらやめるわけにもいかなかった。


 俺はいったん家に帰り、桜川が帰宅する時間に、また書店まで来た。そして、物陰で桜川が帰るのを待っていた。

 時間になると、桜川はきっちり出てきた。

 そして俺の存在を確認して、そのまま声をかけずに駅へと向かって歩き出した。

 自宅の方と違って人通りが多いが、やはり怪しい奴はいないようだ。

 俺は少し離れて桜川について行った。

 そして、駅に着く間際だった。ジーンズにジャンパーを着て、キャップを被っている男がいることに気づいた。

 いつからいたのかわからないが、桜川のことを見ている。

 そして、スマホを取りだして写真を撮ったりしていた。

 いかにも怪しい。

 俺は、そいつから目を離さないようにして、桜川と一緒に電車に乗った。

 男も一緒の車両に乗り込んだ。

 電車内では特に動きはなかったが、桜川は降りると一緒に降りた。

 俺もそれについて降り、また後をつけた。

 男は桜川から少し距離を取って、静かに後をつけている。

 俺はさらにその後をつける格好だ。

 桜川が自宅に着くと、男はそのまま行き過ぎた。

 俺はその男を呼び止めた。そして、男が振り向いたときにスマホで写真を撮った。

 すると、男は、

「あっ!」

 と言って走り出した。

 俺は慌てて男に飛び掛かった。

 すると男が暴れたので、俺はその男の腹に軽めのパンチを喰らわせた。

「ウッ」

 と息が詰まったような声を出して、男は静かになった。

「あんたは一体なにをやってるんだ?」

 俺は男の胸倉をつかんで詰問した。

 そこに桜川もやってきた。

「この男を知ってる?」

 桜川に訊いた。

「いえ、知りません」

 桜川は首を横に振った。

「どうしてこの子のことをつけてたんだ?」

 俺は男に訊いた。

 しかし、男は口をつぐんでなにもしゃべろうとしなかった。

「黙ってないでなにか言ってよ」

 俺がそう言っても男はやはり黙っている。

 仕方がないので、俺は男の腹をもう一度殴った。

「ウグッ」

 男は苦しそうに呻いた。そして、

「わ、わかったよ。俺は依頼されてその子のことをつけてたんだ」

 と言った。

「どういうことだ?」

「俺はある人から、その子が他に男がいないか調べるように依頼されたんだよ。それで通勤の時に後をつけたんだ」

「ふーん、それで、誰がそんな依頼をしたの?」

「それは言えん」

 男は強く拒否した。

「ええ、言ってくれないと、また殴らないといけないよ」

 俺はできれば暴力的な事はしたくなかった。

 しかし、男はそれでも依頼人だけは言おうとしなかった。

「仕方がない」

 俺はそう言うと、拳を握った。そして、さっきまでよりも強めに男の腹を殴った。

「ウグッ!」

 男はこれまでとは比較にならない痛みに悶絶した。

「早く言ったほうが身のためだよ」

 俺は男に迫った。

 男は苦しそうに腹を押さえて悶えている。

「わ、わかった。土井真治だ」

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