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第49話 ヴァレリア3

『その男を縛って欲しい。残りの襲撃者を倒しにいく。そいつの処遇は襲われたあんたたちに任せる』


 顔面が蒼白になるパイロット。


「ありがとう。あんたの名は?」

『この機体はラクシャス。それだけ覚えてくれたらいい』


 アンジはそう言い残してラクシャスはその場を離れ、追撃に移行する。


「母さんたちが逃げた方向だ……」

「大丈夫だよ」


 震えるヴァレリアを励ますリヴィウ。


「何人ぐらいで逃げたか、わかるか?」

「わからない。でも集団避難のルートだったから……」

「そうか。なら諦めるな」

「うん」


 アンジがそういい、操縦に専念する。


(殺しだけなら追いかけはしない。人数が多いほど生存の可能性は高まる。奴らはヴァルヴァを確保したいはずだ)


 人身売買でも人間とヴァルヴァの扱いは違う。ヴァルヴァは生産される以上、物品扱いされる場合もある。それはヴァルヴァと人間の子供でも同様だ。


「アンジ。〇時の方向に三機の機兵。停止中のようだ」

「急行しよう」


 ラクシャスはホバー移動に切り替え、その場に到着する。

 目に入った光景は信じがたいものだった。


「リヴィウ! ヴァレリアと一緒に伏せろ!」


 棒立ちになっているハザーが一機。駐機状態のハザーが一機。最後にマニピュレーターを使い巨大な穴を掘っているハザーが一機。

 そして無造作に転がっている炭化した大量の死体。


「はい!」


 かつてない緊迫した声に、慌ててリヴィウはヴァレリアの頭を抑えて座席の足元にしゃがみ込む。


「なんだお前は」

「見たことがない機体だな」

「うるせえ!」


 怒声と共に問答無用でその場にいたハザーを突き刺し、空中に掲げたあと内部から爆発させる。

 そのまま流れるような動作で穴を掘っていたハザーを踏みつけるラクシャスが、背面から突剣を貫き、コックピットを爆発させる。


 駐機状態のハザーが立ち上がろうとするが、ラクシャスが先にハザーの腕部を斬り飛ばした。


「お前たち、避難民を撃ったな。どうして撃った? 人攫いなら捕まえるこそすれ、撃つことなどありえないだろ」


 亡骸の状態から察するに避難民の集団にビームを打ち込んだのだろう。


「威嚇のつもりだったんだ…… あんな一発で全員死ぬなんて……」


 パイロットの声が震えている。荷電粒子の塊を無造作に放ったのだ。

 全員荷電粒子の質量と熱で即死だっただろう。かすめただけで死ぬ代物だ。


「うわぁ……」


 床に向けて目を見開いたヴァレリアが顔を覆う。留めなく流れ落ちる涙は隠しきれなかった。嗚咽が止まらない。

 リヴィウがそっと肩を抱きしめる。


「死ぬに決まっているだろう! 穴を掘って埋めて証拠隠滅するつもりだったか。民間人へのビーム発射だ。お前らは襲撃者団ではなく煌星支部軍の軍法違反を犯した」


 民間人及び民間施設への直接攻撃は戦争犯罪であり、古き地球時代から定められた不変のルールの一つであった。


「許してくれ!」


 襲撃団のあまりの想像力の無さにアンジは暗澹たる気分に陥った。


「ハザーから降りろ」

「……わかった。撃たないでくれ」

「——お前らが撃った民間人に聞くんだな」


 ぞっとするほど冷たい声音だ。

 パイロットは命の危険を感じ、慌ててハザーを降りる。

 ラクシャスはパイロットの体を無造作に掴む。


「やめてくれ」

「お前を村に引き渡す。それともこのまま握り潰されたいか」


 パイロットは半泣きになりながら抵抗をやめた。


「ヴァレリア。お前はどうしたい?」

「……わからない」

「そうか。それでいい。その感覚を大切にしてくれ」


 そういってアンジはラクシャスの端末に文字を打ち込み、送信する。

 ラクシャスは村に戻り、パイロットを引き渡した。


「避難した住人は殺害されていた。全員かわからん。炭化しているから身元も不明だ。あとはこいつに聞いてくれ。処遇は任せる」

「ラクシャスのパイロット。感謝する」


 ヴァルヴァの青年が上を見上げて呼びかける。

 パイロットは先ほどの男同様、きつく縄で縛られた。


「動くハザーは二機確保してある。何もないよりましだろう。自由に使ってくれ」

「いいのか! 売れば金になるぞ」

「金が必要になるのはこの村だろう。救援も呼んでおいた。ヴァーザル領の騎士団だ。彼等なら力になってくれるだろう」

「何から何まで…… 感謝する」


 アンジは背後を振り返り、ヴァレリアに声をかける。


「ここで降りるか?」

「……あなたたちはどうするの?」


 ヴァレリアが少し沈黙したあと、ようやく聞き返す。


「俺たちはさっきの場所に戻って、遺体を埋葬する。埋めるだけではなく、目印になるようなものは残したい」

「……お母さん……」


 もう一度、感情が乱れそうになるヴァレリアは、子供とは思えぬ精神力で押さえ込んだ。


「あたしも一緒に埋葬したい」

「いいだろう」

「お願いがあるんだ。お父さんも一緒に埋めたいんだ」

「わかった」


 アンジは外にいる青年に向かって話しかける。


「ヴァレリアの母親を埋葬する。父親も一緒に埋葬したい。残骸は運搬させてもらうがいいか?」

「そんなことまで…… あなたにすべて任せます」


 青年は無私のパイロットに驚きを隠せない。

 何を要求されようとも、断れないはずなのだ。


「許可もでた。コックピット部分を運ぶ。ヴァレリア。それでいいな?」

「うん……」


 ラクシャスは破壊された機兵の元に行き、胴体部分を抱えて再び森に向かう。


「アンジ。どうする?」

「俺達も穴を掘る。埋葬に適した場所にな」

「賛成」

「ヴァレリア。いい場所はないか」

「あっち……」


 ヴァレリアが指し示す。

 移動しながら、アンジは背後を振り返らずに語り出した。


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