「御願いします! あたしの町を助けてもらえませんか! お父さんが機兵に乗って戦っているんです!」
「残酷なことをいうようだが、町の制圧は完了したといっていた。おそらく生存は厳しい」
「そんな…… ならばせめて仇討ちだけでも」
ヴァレリアは自分でも無茶苦茶なことをいっていることを自覚している。
通りすがりのこの男と子供が、彼女のために仇討ちするような危険を冒す必然性は欠片もない。
「……どんな結果になってもいいならいいぞ。いくかリヴィウ」
「うん」
ヴァレリアが拍子抜けするほど、あっさりとした承諾だった。
「アンジ。もう敵の識別コードは所得済みだよね?」
「おう。
「いく!」
ヴァレリアは即答した。迷いなどない。
「わかった。ラクシャスに乗ってくれ」
三人はラクシャスに乗り込んだ。
狭い後部座席に、二人の子供が身を縮めて乗り込んでいる。
「男の子と一緒だが、少しの間我慢してくれ」
男の子? とヴァレリアが無言でリヴィウの顔を見る。
リヴィウがそっと指に口をあてる。訳ありだと察したヴァレリアは首肯した。
「問題ないよ!」
「いくぞ。何機いたかはわかるか?」
「六機はいた」
「三機がヴァレリアを追っていた。ごろつき連中にしては多いな。中隊規模が襲撃団と化したか」
アンジは考え込む。敵戦力を分析しているのだ。
「十二機はいると思っていいな。機兵は三機から四機で一個小隊。ハザーなら戦闘力が高いから三機小隊とみるべきだろう」
「そんなにいるんだ……」
「他の小隊も逃げた人たちを捕らえるか殺すかするために追っているだろう」
「殺すって……」
「証拠隠滅のためだ。煌星支部軍が略奪したとあっては名折れだからな。——恥ずべき行動だが」
アンジが嫌悪感を込めて吐き捨てる。
「おしおきが必要だね」
「そうだな」
リヴィウの言葉にアンジが頷く。
ヴァレリアがいる町を見捨ててはおけない。無傷の機体を運んで偽装だけ行い、ヴァレリアがいる町へ向かう。
ラクシャスは速度を落として移動する。あまりに速い移動速度だと気付かれる恐れがある。
「レーダー反応には五機だね」
村の住人が一機は倒したということだろう。
「一機は倒した、か。奴らは慎重だ。ハザーから降りていないだろうな」
ラクシャスはシールドを構えた前屈状態で町に接近している。
「アンジ。衝撃距離に入ったよ」
「OK。二人とも、しっかり掴まっていろよ」
ラクシャスはスラスターを全開して最大加速に移行する。
木々をなぎ倒し、視界に入ったハザー目がけて突進しているのだ。
「ぐはっ」
酒に酔って何が起きたか理解していないパイロットは死ぬまで気が付かなかった。
背後から巨大な突き剣にコックピットごと穿ち抜かれて大量の吐血をして絶命した。
「ひどい有様だな……」
アンジが苦々しく呟くほど、町は惨状を極めている。戦禍に遭った町という表現に相応しい。
「お父さん!」
父が乗っていたハザーの残骸が転がっている。
リヴィウがヴァレリアの肩を強く抱く。
「——ッ」
アンジに嘆いている余裕はない。即座に次の標的を探し出し、狙いを定める。
「なんだ? 見慣れない機体が!」
敵味方識別コードは偽装している。襲撃団はいまだにラクシャスを味方機だと思って混乱しているようだ。
ぼんやりしていると、真正面から突剣に刺され、プラズマ弾が炸裂し、爆散した。
「注意をこちらに引きつける。リヴィウ、レーダーを頼む」
「一時の方角に二機、十一時の方角に一機だよ」
「二機から行く」
アンジがそういい、ラクシャスは敵ハザー二機が待ち構えている方角に移動を開始する。
ラクシャスが地面を蹴り上げ、大きく宙を舞う。
「え?」
ヴァレリアは息を飲んだ。機兵がこんな挙動を取ることができるなど聞いたことがない。
地表にいる敵目がけて空中から襲いかかるラクシャスに、敵ハザーはかろうじて迎撃射撃を行うが砲弾はシールドに弾かれている
鈍い金属音とともに頭上から刺し貫かれたハザーは、内部からプラズマ弾を発射し爆発する。
「ひ、ひぃ……!」
見慣れぬ機体に怯えたパイロットが、ハザーを操縦して逃走を図る。
有無をいわさずラクシャスは同じように背後から刺剣で貫き、内部から爆発させる。
「残り一機、逃走を開始したよ」
「追うぞ」
アンジに逃すつもりはない。
ありえないスピードで、あっという間に逃走するハザーに追いついた。
「衝撃に備えろよ!」
アンジは後ろの二人にそういい、ラクシャスはそのままシールドごと体当たりする。
ハザーは大きく吹き飛び、うつ伏せに倒れ込む。背面に突剣を突きつける。
「た、助けてくれ。頼む」
「投降しろ。嫌なら殺す」
「わ、わかった」
「ハザーの武装を離せ。さもなくばそのまま突き刺す」
「やめろ! 今からやるから! 見りゃわかるだろ。この状態だとコックピットから出ることもできねえ!」
ハザーが手に持っているライフルを離したことを確認し、ラクシャスは蹴り上げてハザーをひっくり返す。
剣は突きつけたままだ。
「質問に答えろ。町の外にいる仲間は何機いる?」
「六機だ。それぞれ逃げた連中を追っている」
リヴィウと目配せをする。三機はすでに倒した。
「そうか。コックピットをでて両手を挙げろ。俺はお前を殺さない。約束する」
「は、はい!」
震える声で返事をしたパイロットが、ハザーから脱出する。
眼前に巨大な突剣の剣先が迫って震えている。
「どちらの方角だ。それぞれ指し示せ」
「わかった」
パイロットは方角を示す。一箇所はアンジたちが倒した敵小隊だ。
「いいだろう」
刺剣を突きつけたまま、アンジがパイロットに呼びかける。
「ヴァレリア。外に住人がいないか呼びかけてくれ。俺が外にでると」
「わかった」
リヴィウに合図されてマイクに口を近づけるヴァレリア。
『誰か生き残っている人はいませんか。助けがきてくれました』
「その声……ヴァレリアかい!」
声に気付いた老婆が青年と一緒にでてきた。
安心するやいなや、ヴァルヴァや人間の姿が見えた。