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第44話 兵装コンセプト

「二度とアンジを戦場に向かわせない」


 リヴィアの宣言に、ゾルザは哀しげに首を横に振って否定する。


「リヴィアの意向は大いに推奨します。しかしあるじ様はあなたがたが危機に陥った時、必ず出撃しますよ。おそらく私では止められません。だからこそ、さらなる最適化を。万が一に備えて。あなたたちを決して死なせない、危機に陥らせないために設計をします」


 ゾルザの言葉を認めざるを得ないリヴィア。シルバーキャットに入ることを受け入れたアンジは、メンバーの危機には必ず出撃するだろう。

 アンジを守るためには、シルバーキャットの戦力を底上げする。

 彼女たちが危機に陥ることがなければ、アンジは出撃しない。ゾルザが導き出した最適解はそういうものだ。


「私達がいっそ傭兵をやめて出撃しなければ?」

「危険な選択肢となります。あるじ様は外にでて、神性狩りのことを知ったあるじ様は戦いに身を投じるでしょう。リヴィウの影を追いながら。それならシルバーキャットで神性狩りに対抗しながら、組織であるじ様を囲ったほうが安全です」

「リヴィウが遠く離れた場所にいて私達とだけが連絡を取ることができると思わせた方がいいですね」


 リヴィアが少しだけ寂しそうに結論を口にする。


「下手な演技や手紙は厳禁。すぐに見抜かれるから」


 レナが釘を刺し、リヴィアもわかっていると同意の首肯をする。


「マカイロドゥスは現状改良の余地はないでしょう。あるじ様が初見で使いこなしたという事実は、リヴィアが提示したマカイロドゥスのコンセプトである汎用型ラクシャスが成功したことを意味します」

「今日の模擬戦で確信しました」

「あとは兵装の問題です。コピア、コンツェルシュ、サーベル。その三種を基本に、あるじ様の言葉を思い出してください。威力の高い汎用兵装を設計しましょう」


 レナとリヴィアがアンジの言葉を復唱する。


「破片を調整可能なプログラム弾を用いた長距離実弾系のライフルが欲しいな。ミサイルは迎撃したい」

「それがダメならビームライフルを集約、拡散できるものかな。俺は器用ではないからな。使う飛び道具は一つに絞る」


 二人の言葉をゾルザがまとめる。


「あるじ様の希望は拡散する手段を持つ、攻防一体の長距離兵装ですね。も現在可能な、最高の兵装を設計してください。そしてあなたたちに焦点にさらなる最適化を加えます」


 あくまでゾルザはAGI、人間をサポートするための意識があるAIである。要求がなければ、回答も行えない。

 基本設計は人が行う必要があるのだ。


「レナは何を重視する?」

「無補給」


 リヴィアに問われたレナは即座に断言する。

 脳裏には先ほどみた、武装を喪失したラクシャスの姿があった。


「それはコンツェルシュがあるよ」

「射程が足りないよ」

「ヘリウムや水素から生み出されるライトイオンビームライフルはエネルギーを消費しすぎる。アンジに使わせたくない」

「私もそう。だからコンツェルシュと同じ。リアクターから発生したプラズマを使う」

「プラズマランチャー?」

「プラズビームガン。リアクター内で常時生成されているプラズマを利用する。プラズマなら拡散も用意。何よりライトイオンビームよりも質量があり威力も上」

「プラズマビームなら弾速はライトイオンビームよりは遅いけど、通常炸薬とは比較にならないか。何よりプラズマが装甲に衝突した場合、急激な圧力変化や高温によって爆発する」

「プラズマ装甲によるプラズマ遮断は他の物理法則によって拡散するけれど、細長いプラズマを投射すれば貫通力も増す」

「その場合、有効かどうかはプラズマの厚さにもよります。一点集中なら運動エネルギーやネツネルギーを殺しきれるものではありません」


 ゾルザもレナが提案した兵装の可能性を吟味している。


「威力が減衰することを考慮しても威力はそれなり。敵に奪取されたとしてもハザーのリアクターではプラズマをビーム転用は無理」

「確実に装甲を穿ち抜く場合はコンツェルシュ。遠距離と中距離は防御兵装も兼ねたプラズマライフルということだね。イオンビームライフルよりコストはかかりますが、私達だけなら問題ないから」


 レナがゾルザに語りかけた。


「私はプラズマビームガン。――ゾルザ。サポートをお願い」

「承知いたしました。コネクタはコンツェルシュと同様、マニュピレーターとの接続方式。プラズマ弾を成形する機関部の設計を開始します。砲身はいくつかパターンを想定しましょう」


 ゾルザが即座に図面を仕上げて、空中に投影する。

 砲身の長さも数種類用意されていた。


「ショートバレルもあると便利ですね。私も一つ設計したい」

「リヴィアの考える兵装はどんなもの?」

「補給をリアクター頼りにすると総攻撃時、エネルギー切れを狙われる。私は実弾系で威力を重視した兵装を設計する。――プラズマアーマチュア式のレールガン」

「砲弾にもプラズマを発生させるタイプのレールガン。砲弾コストもそれなり。威力と侵徹能力はプラズマ装甲を抜くことが可能、か」

「煌星のレールガン砲弾はコストを抑えたもの。威力も初速も大したことはないからね。アンジが不得手な中、遠距離から敵兵器を撃破する射撃兵装と想定した」


 二人の会話をもとにゾルザが兵装の図面を起こしていく。

 新たなマカイロドゥスの新兵装が生まれようとしていた。



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