目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第42話 異形のラクシャス

 レナとリヴィアはゾルザ艦内にある、様々な端末が置いてある部屋に到着した。


「ゾルザ。ここならいいよね」

「はい」


 レナの声に応えるかのようにゾルザが姿を現す。この姿はリヴィウを助けた精霊さんの姿であり、先ほど声は出さなかったがゾルザが出現したときに近い。

 より神々しさが増している。


「私達用の新兵装を設計するんだよね」

「その通りです。あなたたちにはより強くなって貰う必要があると判断しました。あるじ様はあなたたち二人が危険に陥った状況になれば作業機でも出撃するでしょう」

「兵装開発の許可は久しぶりだね」

「艦の所有者が帰還しましたからね。何より――」


 ゾルザが若干、哀しげに目を伏せる。


「十年間ブランクがあるあるじ様に、あなたたちは勝てない。実戦ならリヴィア。貴女が死んでいました。胸部はもっとも装甲が厚い箇所。コックピットを内包した装甲カプセルを貫通することは無理だったでしょう」

「リヴィアの機体は専用に最適化されていた。アンジはヴァレリアの機体で初見だった」

「わかっています。明らかに私の敗北です。私の武器は護剣で弾かれていました。右腕部を喪失した以上、あの状況から劣勢を覆すことはできません」


 実戦ならあと一歩、アンジのマカイロドゥスが踏み込んでいれば結果は違っていた。

 それはアンジがマカイロドゥスに乗り慣れていれば、容易に覆すことが可能な差だ。


「契約者たるあなたたち二人に死なれると私が困ります。しかし何よりあるじ様が哀しむことは避けねばなりません。そのためにも事実を指摘すること、ご容赦お願いします」

「いいえ。どんどん指摘して。自分の身を守るどころか、それさえもままならないようでは、アンジを守ることなんて無理だから」

「私も」


 ゾルザの言葉に、リヴィアとレナが決意を示す。


「ゾルザ。私が知らなかったレステック家の攻防戦前後のラクシャスのデータと、ラクシャス狩り時のデータはありますか?」


 ゾルザはジャッジメント・ディウィルス感染のリスクから一切の外部データを遮断している。

 しかしラクシャスはゾルザ内にある格納庫で行われていた。


「会話の内容、兵装の入れ替えから割り出しました。決戦仕様のデータを表示します」

「ラクシャスの決戦仕様とアンジはいった。どれほど危険な戦いだったのだろう」


 レナが一目みて看過した。


「異常。違う。この形態は異形。こんな状態のラクシャス、見たことがありません」


 リヴィアが絶句するほどの、通常とは異なる重武装のラクシャスが映し出されていた。


 外観はリヴィアの見慣れたフーサリア【ラクシャス】とは異なっている。

 まず頭部。左右のブレードアンテナに、角のようなアンテナが一本の三本角。アンジは高性能アンテナ装備を嫌う。レーダー処理で機体制御の負荷が増すからだ。


 フーサリア特有のウィング状スラスターが装備されていない。

 右肩には大口径の大型ビームキャノン。左肩は盾よりも大きい大型レーダーを搭載している。


「決戦兵装とはアンジ様が死なないという決意をした兵装です。リヴィウのもとにただ帰還するために。――ゆえに相手の動きを先に感知するべく、頭部のレーダーと大型のレーダーを装備して敵機が近付く前に撃破するのです」


 泣きそうになるリヴィアだったが、今は泣いている場合ではない。


「安心して背中を預けられる相棒という評価。――どこが? 私は何も知らなかった。守られてばかり」


 リヴィアがぽつりと口にした言葉は、深く絶望に染まっていた。


「今は嘆く時ではありません。知るべき時です」


 ゾルザにそう諭される。リヴィアにはすべての事実を受け止める必要があった。


「知りたい。何もかも。――ラクシャスの武装は普段使用しているものが一切ありません」


 右腕部に大口径のガトリング砲。左腕部には長砲身のレールガン。右腰部にショートバレルの大口径カービン。左腰部には愛用ではない、小ぶりのサーベル。

 右肩には戦闘機状の盾。背面の腰部にはもう一本の大型対戦車ライフルを据え付けていた。


「過積載運用。アンジが嫌う兵装」

「アンジは機動性と運動性を重視する戦い方。この兵装はおそらく大軍相手にラクシャス一機で戦う為のもの。説明を。ゾルザ」


 リヴィアとレナは、アンジの覚悟を察して暗澹たる気分となる。

 当時の彼はどのような気持ちで、使いなれていない武装満載で戦いを挑んだというのだろうか。


「これとは別に現地用に交換する武装コンテナも用意されています。つまりこの決戦兵装はレーダーも含めて、すべて使い捨て前提です」


 ゾルザはアンジの意図を説明する。


「右肩の戦闘機みたいなものはなに?」


 レナも気になっていたようだ。


『遠隔操作の無人小型戦闘機。母機をラクシャスとするドローンの一種ですね』

「無人機まで引っ張りだしていたんだ」


 無人機は煌星でも運用されているが、制御処理の負荷が高くビーム一発で落ちるので費用対効果の悪い武装として認識されている。


「一つ一つが発掘品かつ貴重品。相当な覚悟と割り切りがなければ、煌星の人々はこの兵装を使いこなすことは不可能」

「このラクシャスで、アンジは何と戦っていたの? それがラクシャス狩りということなの? 教えてレナ」

「そこまでは突き止められなかった。煌星支部が中心だったことは確実なのだけど徹底的に痕跡が消されていたから」

「戦闘データも算出したいところですが、外界の状況までは私にもわかりません」


 リヴィアがモニタを凝視しながらゾルザに確認を行う。


「アンジはこれだけの兵器の換装を、いつのまに用意していたの?」

「時間をかけて、ですよ。リヴィウにばれないように。慎重に。かつ迅速に換装できるように」

「いつもはズボラだったのに……」

「そういう方なのです。人目がいるところでいかにもやっています、という姿勢を嫌う方ですよね」

「うん……」


 アンジは常日頃、人前で仕事をすることを嫌う。やっている姿勢も大事だが、その成果で仕事ははかられるべきという考え方の持ち主だ。

 だからこそ社会のなかで働くのではなく兵器の廃品回収を生業にしていたのだ。


「あるじ様は十年前、最後の戦闘を行った結果、これらの兵装をすべて喪失いたしました。隠蔽工作のためにわざと破壊した可能性もありますが、かろうじて生き延びたといったほうが正しいかと」

「どうしてそういえるの?」


 レナの問いにゾルザは無表情に、ラクシャスの姿を映し出す。

 左腕部を喪失して、頭部も半壊。全身被弾痕だらけという状態。リヴィアが知らないラクシャスの姿があった。

 リヴィアとレナは同時に息を飲む。


「私は……知らない。ラクシャスのこんな姿……」


 リヴィアは知らなかったアンジの一面を思い知らされた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?