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第22話 煌星文明復興(プラネットルシファールネサンス)

「【審判の日ジャッジメント・ディ】。かつて太陽圏すべてのAGIが停止したあの悲劇から、意識を持つAGIは停止して、その後に作られたAIたちも意識を持つことができませんでした」

「だから人類は意識をもたない弱いAIとともにヴァルヴァを作った。その話だろ」

「そしてその先の話です」


 リアダンはアンジの瞳をまっすぐに見据える。核心が語られる時なのだろう。


「一部の神性寄りは、停止したAGIを再稼働させることができるのです」

「待て」


 アンジにはすぐに考えが追いつかなかった。


「AGIは片っ端から停止した。だからこそ煌星はもとより、地球や火星も大きく文明が衰退して……」

「先ほど言いましたよ。世界を蘇らせる鍵となる存在が神性寄りのヴァルヴァなのです」


 アンジは絶句した。言葉もない。


「太陽圏連合軍煌星支部やヴァルヴァ解放戦線だけじゃない。AGIが作った文明復活を狙っている組織は山ほどある。廃棄物狩りが活発化しているにも関わらず、神性持ちの能力が隠されている理由がそれなんだよ」

「ライバルは増やしたくないということですわね」


 太陽系は太陽の重力が及ぶ範囲。太陽圏は太陽風が届く、より大きな範囲を指す。

 太陽圏連合軍と名乗った惑星連合は海王星や天王星のさらに外側まで探査して影響力を伸ばした。海王星付近にあるエッジワース・カイパーベルトやさらに外側にある散乱円盤天体は貴重な鉱物資源の採掘場となっている。

 すべてはAGIによる無人探査の成果であり、人類史の輝かしい時代でもあった。


「煌星は今なおAGIが作った技術で生き延びていますわ。地球に比べてより太陽に近い煌星は、制止衛星軌道上にある太陽の傘ヘリオスアンブレアによって太陽熱や宇宙線を遮断しているのです」

「ヘリオスアンブレアがなかったら、煌星の表面温度は摂氏四百六十度。大気上層では極点付近から発生するスーパーローテーションが吹き荒れ、地表にも影響が及ぶ。惑星環境まで変える技術を欲しがることは当然のことなんだと思うよ」


 ヤドヴィガの言葉を受けて、リアダンはアンジへ説明を続けた。


「彼等が目的は煌星文明復興プラネットルシファールネサンス。神性寄りにAGIを復活させ独占すること。当時の技術を一つでも多く再び会得するというものです」

「独占したいなら自分たちで再復興しろ」


 アンジは怒りを抑えることができなかった。


「神性寄りをかたっぱしから掻き集めて、AGIを動かせる者を選別しているということか」

「そうだね。各勢力に一人か二人いるかどうか。だから躍起になっている」

「そこまで少ないのか」


 アンジの知っている廃棄物と呼ばれたヴァルヴァは、十人に一人か二人程度だった。

 その人数からさらに選別しても、各勢力に一人か二人。とてつもなく稀少な存在だ。


「だから廃棄物狩りだとしても、以前みたいに処分はされていないよ。人並み程度の扱いかな」

「あいつらの人並み程度など信用できん」

「同感だよ。だから廃棄物狩りにあった子たちも可能な限り救出している」


 リアダンは嘆息する。人並みといっても、人として最低限レベル。

 以前は最低限ともいえない扱いを受けていたということだ。


「新たなAGIを動かせる神性持ちの発見には至っていないか」

「いるかもしれないしいないかもしれない。各勢力の極秘事項なんだよ。神性寄りはAGIを動かせるというヴァルヴァの存在は噂になるかならないかほど、少数のものは知らない。世界に害を為す存在だとか、ヴァルヴァでも最優先保護とか、名目は勢力によって違う」

「リヴィウやリヴィア、レナが狙われている理由だろ。噂は否定できないのか」

「噂ではないからです。下手に噂を否定すると、その噂の出所が探られてしまう」

「そのレベルで探索されているということか」

「うん。行方不明のリヴィウは別としても、今でもリヴィアとレナは危険な状態なんだ」

「AGIを動かせる証拠もないのにな。——待て」


 アンジが口を抑えて、リヴィアとレナに視線を向ける。


「……二人は。いやリヴィウも含めて三人の誰かが動かせたということか? それが一部に漏れたと」

「三人だよ」


 レナがしがみつく力をこめながらアンジの疑問を肯定した。

 アンジはレナの瞳を凝視しながら凍り付く。


「何故あたしらが同型機体のフーサリアに搭乗できると思っているのか疑問に思わなかったか? これは新規に生産したものなんだ」

「生産しただと……」


 修理できない骨董品。フーサリアは性能こそ高いものの、修理も不可能な前世紀の遺物。

 そのはずだった。ヴァレリアの言葉を聞くまでは。現在の常識だった事象が今、根底から覆された。


「他にグレイキャットの施設があって、AGIがフーサリアの生産ラインを再稼働させたということか。いや、どこにあるかは聞かないでおこう。俺は知らないほうがいい」

「だからね。もうそれは通用しないんだ。アンジ」


 ヴァレリアは辛抱強く、アンジに語りかける。


「何故なら。——ここだから。あなたの隠れ家だったこの場所こそ、AGIが管理していた施設だったんだよ」

「リヴィア?」


 リヴィアは同調するかのように首肯する。


「アンジの隠れ家こそ、巨大宇宙船の一画。私たちによってAGIが目覚めて再稼働しました」


 リヴィアの声には力がなかった。



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