「ラクシャスにこだわる必要はないさ。あの機体は何せ現行のハザーと互換性がまるでないからな。部品取りで利用取るする物好きが買ったのだろう」
ラクシャスには思い入れこそあるものの、高額な価値がないとアンジは断じる。
「解放者ラクシャスは伝説の機体なのに、パイロットの扱いがひどいな」
ヴァレリアが苦笑いをこぼす。
「新造されたヴァルヴァの闇取引を牛耳っていた太陽圏連合軍煌星支部と、ヴァルヴァこそが人間を管理するべきというヴァルヴァ解放戦線。解放者ラクシャスはその二つの組織相手に、ヴァルヴァの子供たちを救出するべく戦い抜いた」
リアダンも神妙な顔付きになっている。
「それがたとえリヴィウと旅するついでに過ぎなかったとしてもですわ」
「真相を知っているじゃないか。そうだよ」
「旅するついでというには、過剰なリスクはあったはず。だからあなたは追い込まれて、モレイヴィア城塞に投降した」
「俺は……他人に期待されることに慣れていなかった。本当の意味で出来損ないの人間だからな。だからリヴィウにいいところを見せたくて、背伸びして……そして大切にしたいと願った彼を傷付けた。馬鹿な男の話なんだよ」
アンジは若い頃の自分を自嘲する。
「私はアンジのことを笑う奴は容赦しない」
「私も」
涙目のリヴィアと、同様に涙目になっているリアが言い放つ。
宣告に等しい物言いだった。
「それがどんな理由でも、あなたがフーサリアを用いた対組織戦の第一人者であることは事実。ラクシャスをスクラップから組み上げただけだと強弁したところでね」
「もう十年も前の話だぞ」
「たった十年だよ。あなたの知識の価値も変わらない。リヴィアから聞いたでしょう?」
リアダンがリヴィアに視線をやると、深く首を縦に振る。
「それは聞いた」
「このグレイキャットはあなたのための場所。そしてリヴィアとレナ、そしてリヴィウのような
「
「あなたが以前戦っていた連中だよ。太陽圏連合軍煌星支部とヴァルヴァ解放戦線。彼らはより強い神性寄りを求めています。神性寄りの能力は隠して、廃棄物呼ばわりのままでね」
「廃棄物狩りというほどなんだ。どのレベルのものなんだ」
「常に特徴のないヴァルヴァの情報を集めています。発見されるとその町などを襲撃して攫うんですよ。抵抗が激しい舞台は町ごと焼き払います。モレイヴィア城塞も派兵して対応していますが、各地に分散しすぎて手が回っていない状態ですね」
リアダンの言葉にアンジの顔が暗くなる。暗澹たる気分だった。
「ヴァルヴァは一箇所に固まっていると襲撃されるから、各地に分散するように伝えたことがある。それが仇になったか」
アンジが床に視線を落とす。
「俺のせいかもしれないな。解放したヴァルヴァたちに一箇所に固まると危険だと伝えてしまった」
ヴァルヴァたちにした助言が裏目にでてしまったようだ。
「はい、それは違いますからねー? アンジが提案した一箇所に集中して留まることによるリスクの分散は理に適うものでした。すべては神性持ちの能力が明らかになったせいですよー」
重い空気にならないようにリアダンが即座に笑い飛ばす。
「アンジ様は生き延びた廃棄物を罪だとはいわないですよね? あなたさまこそが正しいのです。その認識を間違えてはいけませんよ。リヴィウが死ねばよかったという宣告に等しくなります」
リアダンが、アンジ自身が過去を否定することを認めない。
ヤドヴィガがきつい口調でいうが、アンジがいわれても仕方がないと納得してしまう。廃棄物は助けなければ死んでいた命。彼自身が否定してはならないこと。
「そうだな。ありがとうヤドヴィガ。——あんな惨い扱いをしていた者たちに対して、どうして今更……」
アンジは拳に力を込める。リヴィウとの出会いを思い出す。
レナなど無造作に焼却処分にされそうになっていたのだ。
「アンジ。あんたはリヴィアから詳細を聞かなかったのか?」
ヴァレリアの問いにアンジは首を横に振る。
「神性寄りの現状だけだ。能力は聞かなかったし、知りたくもない。そんなことで人の価値が変わってたまるか」
「嬉しい」
レナがぼそっと呟き、アンジの腰にしがみつく。アンジは手のひらを頭に載せて軽く撫でる。
「しかし知る必要はございますわ」
「聞いて貰うしかないな。連中は神性寄りをかたっぱしから集めて選別しているんだよ」
「選別? 神性寄りだけではダメだということなのか。神性寄りを集めてさらに選別する? 意味がわからない」
「そこが問題なのですわ」
ヤドヴィガが哀しそうに目を伏せる。
「リヴィアもリヴィウも、レナも常に狙われているんだよ。今この時だってそうだ」
「確かに俺も知る必要があるってことか」
心苦しいが、彼女たちが狙われている理由は知る必要がある。
リヴィウが姿を消した理由にもつながる。
「リアダン。お願いしていいか?」
「ボクの役目だね。よく聞いてアンジ」
ヴァレリアとヤドヴィガは視線をリアダンに向ける。
神性寄りの当事者に語らせるよりも第三者かつ彼女たちのリーダーであるリアダンが語るほうが適任だと判断したからだ。
「神性寄りにも、種別はあります。廃棄物狩りを行っている者たちの目的は世界を蘇らせる力を持つ神性寄りなのです」
リアダンはまっすぐにアンジの瞳を見つめた。内容からして壮大だが、一切の偽りがないことを実感した。
「世界を蘇らせる力?」
アンジが反芻する。リアダンは重々しく頷いた。