「リヴィウと二人でか。それは凄いな……」
「私とリヴィウが三分の二、レナが三分の一。私達三人は同い年の同級生。技術者であり、特許持ちとなっている」
レナのほうを見ると、首を縦に振る。事実らしい。
同い年ということは彼女も十七歳ということになる。二人とも見た目は非常に若いのでアンジは若干不安になった。
「お二……いえ。三人は凄いのです。三人とも飛び級で十三歳にしてユニバーシティを卒業済みですわね。レナも十六歳で博士号の資格を取っていますのよ」
「卒業の最年少記録はレナに譲った」
「誕生日はリヴィアのほうが二日早いだけだったよな?」
ヴァレリアが苦笑する。
僅差での最年少記録は二日違いでレナということらしい。
「ボクは名義貸しみたいなものだね。
灰色髪の猫耳ヴァルヴァが代表の組織に、
「フーサリアの操縦ならリヴィアが頭一つ抜けているよ。次にレナだね」
五人の仲は良さそうだ。
「CEOと同居は問題があると思うんだ」
「まったく問題ない」
「ボクの部屋にきてもいいよ?」
「待ちなって。リアダン。みんながぐいぐい行くとアンジが逃げちゃうよ」
「ヴァレリアはそういって頼れるポジになろうとしていますわよね?」
「いやいや!」
ヤドヴィガのツッコミに顔を真っ赤にして否定するヴァレリア。
アンジからすると一連の流れでヴァレリアがもっとも常識人らしい振る舞いをしていると感じている。
「俺はこの格納庫で寝泊まりしたいんだが」
アンジは泣き言めいた本音を口にする。
年の離れた少女たちとの同室はきつい。共通する話題もない。
「ダメ」
「ダメですわ」
「アンジがそんなことをいうと、各自の部屋にお持ち帰りされちゃうよ?」
「アンジがいるならリアもこの格納庫で暮らす」
アンジは助けを求めるように、リアダンに視線を送る。
リアダンは目を細めて苦笑した。
「あはは。諦めてください。大丈夫です。二人きりが気まずいんでしょ?」
「そうだな」
「ボクたちと共同生活することになりますよ?」
「元々大部屋を覚悟していたから人数が多いことは構わないんだが、女性だらけだと正直辛いな」
「二人きりが嫌とかいうと、後ろの地雷が泣くから勘弁してあげて」
ヴァレリアの疲れたような声にはっとするアンジは背後を振り返る。
無言のままのリヴィアが涙目になって突っ立っている。
「嫌ではないからな! ほら、その慣れていないから色々と気まずいんだ!」
「ほら。リヴィアもアンジを困らせない!」
「今さらっと私のことを地雷呼ばわりしたよね? ヴァレリア」
「踏んじゃったものは仕方ないよなぁ」
ヴァレリアが空気を変えてくれる。
「リアダンに聞けばいいのかな?」
「なんでもどうぞ!」
「グレイキャットは俺が安全に過ごせるようにと結成されたという話だが……」
「リヴィウから聞いたアンジの性格なら——君たちは誤解している。俺は大したことはしていない。っていうらしいよ。だからそれは禁止だね」
「リヴィウめ……」
あの少年はどこまでもアンジのことを理解していたらしい。
「ダメダメな大人だから幻想を抱かないで欲しい、というだろうともリヴィウは語っていましたわ。それも禁句とさせていただきますわね」
「リラはだらしないおっさん飼うつもりだった」
リラは相変わらず無表情で恐ろしいことをいう。つまりアンジの習慣も含めてすべて少女たちにばれている。
恥ずかしいというよりも恐ろしさを感じるアンジ。
「リヴィウはいつもアンジのことを話していたからね。グレイキャットにどんな感情を抱くかは大抵予測しているよ。ごめんよアンジ。それでもあたしたちはあんたに来て欲しかったんだ」
「謝ることはない。むしろありがたい話ではあると頭では理解している」
ダメダメやらだらしないおっさんと知って彼を呼んだことは確かなのだろう。それぐらい評価が低いほうがアンジとしては安心できる。
期待されることに慣れていないからだ。
「でもね。アンジを安全に過ごせる組織という当初の目的とは違ってきた。私達はアンジに力を貸して欲しい」
「俺に何ができると……」
「太陽圏連合煌星支部ややヴァルヴァ解放戦線相手に一人で戦い抜いた、解放者ラクシャスの乗り手に」
リアダンの瞳が開かれ、真剣な口調に変わる。
アンジもじゃれあいの時間は終わったと確信した。
「解放者ラクシャスという呼び名とは懐かしい名だな」
アンジ自身が名乗ったことはない。唯一、ジャンクで組み上げた機体の名ラクシャスを名乗っただけ。
いつの間にかヴァルヴァたちの間では解放者ラクシャスと二つ名がついていた。
「あの機体はモレイヴィア城塞に引き渡したよ。今頃ジャンクになってるか中古品になって出回っているはずだ。もともとスクラップの寄せ集めだからな」
「ラクシャスはヴァルヴァ史に残る遺産ですわね。調べたところモレイヴィア城塞にはすでにないことは判明しております」
ヤドヴィガが無念そうに呟く。ヴァルヴァ史でも残さなければいけない機体だった。