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第5話 兵器開発の新興企業

「不毛な言い合いはやめよう。互いのためだ」

「リヴィアは俺やリヴィウのために言ってくれていることは理解している。自虐も善処する」

「そのほうがリヴィウもも喜ぶ」


 口元がほころぶリヴィア。


「なあリヴィア。――リヴィウが好きなのか?」

「え」


 思っていたことを口にするアンジ。リヴィウから聞いたという彼のことは詳細に覚えすぎていると思ったのだ。

 リヴィアがリヴィウに惚れていたなら理解もできる。

 まさかの問いにリヴィアが唖然としている。必死に首を横に振る。


「ありえない。知っているはずだ。私達ヴァルヴァは同種を避ける傾向にある」


 あまりに心外な質問に、思わずリヴィアの表情が強ばっている。能面のような表情だった。

 アンジも聞いたことがあった。人工胎盤で製造されるヴァルヴァは、様々な動物の遺伝子情報を持つがゆえに、同種とは相性が悪い。


「聞いたことはあるけど、例外もあっただろう?」

「そういう意味では私達も例外ではない。同じ境遇を生き抜いた戦友のような関係だ」

「戦友か」

「お互い異性とは意識していなかった。顔立ちも似ているし。実の兄妹のようなものか」

「そうか」


 青春時代の思い出とやらもあるだろう。廃品回収で生計を立てていたアンジには、想像が付かない。


「二人ともモテただろうな」

「ノーコメント。男性が苦手なんだ。アンジ以外」

「え? なんで俺なんだよ?」

「リヴィウから聞いた話で、嫌いになれる要素がない」

「美化しすぎだぞ、リヴィウ……」

「そんなことない」


 郊外にでて三時間以上走ったところで目的地についた。


「ちょっと待て。ここは――」

「懐かしいかな? あなたとリヴィウの秘密基地だ。今は私が使わせてもらっている」

「なんてことはない。遺跡――戦争時代の格納庫を見つけただけだ。今は君が?」

「驚くのはまだ早い」


 森林に覆われた地帯を抜けた軽装機兵は、目的地に向かう。

 アンジにとっては辛い思い出さえある、彼の隠れ家だ。


 山の麓で、見覚えのあるフーサリアのガレージが見えてきた。十メートル前後ある機体でも十分格納可能な大きさを誇る。

 ハザーが近付くとガレージのシャッターは自動的に開き、機体が中に入ると閉じる。


「リヴィウに教えてもらったんだ。巧妙に偽装されていたから探すのに苦労したよ」

「俺の時はこんな機能なかったぞ」

「私がつけた」


 床がスライドし、ハザーも通行可能である巨大なスロープが出現する。軽装機兵は緩やかな下り坂を進んだ。


「覚えているか?」

「ああ」


 大きな格納庫に入る。機兵用だろう。


「あの時とまったく変わっていないな」


 懐かしい、中身がひっくり返ったかのような格納庫だった。以前使っていた者たちに何が起きたかは知らないが、大きな機材が産卵している。

 地滑りを起こしているのか、床が大きく傾いている。フーサリア一騎ぐらいなら格納できる場所だった。


「触っていない。アンジはここで機体を整備していたと聞いている」

「そうだ」

「そして私が、見つけたものがこの先にある」

「え?」


 スミロドンが壁に近付くと、壁が左右にスライドして小さな区画が出現した。


「なっ!」

「これは機兵も搭乗できるエレベーターになっている。下に別の区画があったんだ」

「ねぐらにしていたのにまったく気付かなかった」

「私たちがここにくるまでは完全に壁になっていたんだよ。運が良かったんだ」 


 扉が閉じた後、エレベーターが下層のフロアに向かう。

 エレベーターを降りると先ほどのガレージとは比べものにならない、巨大な格納庫が広がっていた。

 二人が搭乗していたスミロドンが片膝立ちの駐機姿勢になり、二人は機体から降りる。


「こんな場所があったのか。機兵を何機搭載できるんだ?」

「この区画だけで十二機かな。格納庫のなかでは小さめ」

「巨大な格納庫だったのか。俺の見つけたあの区画だけでも大抵のものは揃っていたのに」

「あの場所は小さな区画にしては機材が揃っていた。出撃用ハンガーだったかもしれない」

「整備する機体がたくさんありそうだな」

「グレイキャット所属機だけだから、多くはない」

「グレイキャットだと? 俺でも知っているぞ。昨年から新進気鋭の企業だろ」

「新進気鋭は言い過ぎかな」

「試作兵器に搭乗した傭兵派遣までまかなう兵器開発の新興企業。ヴァルヴァと人類共存する勢力専門の傭兵派遣業までやっていて正体不明の天才アーキテクトかつエースパイロットがいるだってな」

「そんなところ。アンジにはグレイキャットに所属する機体の整備をお願いしたい」

「グレイキャットは秘密が多い。ペーパーカンパニーじみた事務所がモレイヴィア城塞都市にあるだけで、実働部隊の構成人員は一切不明。――俺なんかに見せてよかったのか」

「アンジだからだ。――十年もの間、外部との交流がほぼ無かったからこそ、うってつけの人材」

「……リヴィア。君はいったい何者なんだ」

「ただのリヴィア。グレイキャットの構成員といえばいいのかな」


 リヴィアは階段を指し示す。


「上に行こう。この内部は好きなようにいじれるから、発見した時とは別物。グレイキャット専属整備士の部屋もそこにある。アンジにはその場所で暮らしてもらうから」

「わかった」


 アンジはリヴィアの後についていき、居住区画に向かった。




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