「サッカーが好きだ!大好きだ!」
中学3年生の宮本君はサッカー部。でも中学3年間で、一度も試合に出たことがない。万年補欠。要は下手くそ。
明日は日曜日。でも大会が近いので、朝から練習がある。「あ~あ、また山田先生に怒鳴られるんやろな。嫌やな〜」とため息が出る。
山田先生はサッカー部の鬼の顧問。いつも何故か宮本君を目の敵にして、見せしめみたいに怒鳴りつける。「こら〜宮本!どこに蹴っとんねん!下手くそ!校庭10周走れー!」
「理不尽や。サッカーが好きなだけやのに。どうせ試合に出れんのに。やっぱりオレって不幸もんや」といつも嘆いている宮本君。
しかし、サッカーが大好きで、真面目な宮本君は練習をさぼらない。ただし早起きが苦手な宮本君。翌日の日曜日も目が覚めたら「ゲー!もうこんな時間や!」ギリギリに起きて真っ青に。
「どーしょっ!時間がない!そやけど何か食べんと練習に耐えられんぞ!」あたふたとする宮本君。
「そや!」何かを思いついて、仏壇へ。お供え物のお餅を手に取り「ご先祖様、すいません!お餅をいただきます!許して下さい!」
急いでレンジでチンして、口に無理やり押し込み「ゴクリ」と飲み込んだ。「う〜、苦しい〜」何とか耐えて家を出る。
途中、何度も吐き出しそうになりながらも、駆け足で学校に向かう。「やった!練習に間に合った」しかし、この時点で既にヘロヘロな宮本君。
いつものように、最初の練習はランニング。既にヘロヘロな宮本君は、いきなり皆んなから遅れだす。やっぱり山田先生が「宮本〜!何をしとんじゃー!全力で走らんかい!えーかげんにせーよー!」
「何でこんな目に当たらなあかんねん!あ〜、つらい。やっぱりオレって不幸もんや」
寝坊したのは自分なのに、すっかり忘れて、いつものように嘆く宮本君。
それでも、ヒーヒー何とか走っていたけど、益々気持ち悪くなってきた。餅が少しづつ、胃から食道を上がってきた感じがする。
「これはヤバイぞ!吐いたら、山田先生にもっと怒られる!絶対に吐くわけにいかん!」と必死に耐える。冷や汗がじわじわ出てきて、口元を押さえつつ涙ながらの苦渋の表情。
「もうあかん!出てしまう〜!」ついに限界を超える。ランニングの列を離れて、「ゲーゲーゲー」と全部吐いてしまう宮本君。
「ああ〜、ふぅ〜、お〜」吐いてしまうと、一気に全身から力が抜けて楽になっていく。何とも言えない恍惚感に包まれる宮本君。吐き出したねっとりとした白い餅が、何だか愛おしく見えてきた。
それも一瞬。すぐに我に返った宮本君。「大変なことをしてもーた!山田先生に怒鳴りつけられる!餅のせい、なんて言える訳ない!」と急いでランニングの列に戻ろうとする。
そのとき背後で、山田先生の大声が聞こえた。「1年生、2年生!3年生の宮本が吐くほど走っているんや!必死に走らんかい!ちょっとは宮本を見習え!」
それを聞いた宮本君。呆気にとられて「何や何や!オレ褒められとるんか?山田先生に初めて褒められた!先生は勘違いしてるんか?まーえーか」と何だか少し嬉しくなってきた。
「お餅さん、ありがとう〜。ご先祖様、ありがとう〜。やっぱりオレって、幸せもんや」
おわり