激戦に見舞われたグランドシティ。
長きに渡る因縁はたったの一日、いや数時間程で決着がつけられる。
崩壊した宮殿と共に全てを破滅へと導かれた妖精王達にレジスタンスは勝利という奇跡に全員が歓喜に沸いていた。
騎士団に再起を行う力はなく、妖精王の敗北によって残った者達も呆気なく投降の意思を見せていく。
決着を遂げた今、笑みを浮かべながら宮殿前に現れたユラの姿にレジスタンスの一同は一斉に駆け寄るのだった。
「リーダー! お前ってやつは……!」
「やった……勝ったんだよな俺達ッ!」
「全部リーダーのおかげだよ! 俺達がこうして諦めなかったのもリーダーの励ましてくれる言葉があったから!」
「反逆の女神バンザァァァイ!」
決着の経緯を知らぬ故にユラが全てを解決したのだと勘違いした者達からの浴びせられる言葉は彼女を困惑させる。
当の本人は「それは違う」と言いたげだったがソウジの目配せによってユラは恥ずかしながら賛辞を受け止めていく。
「マスター本当に良かったの? あの子に全部功績を渡しちゃってさ」
「これからこの国を担っていくのはユラだ、ならここから出ていく俺達よりも彼女に渡すのが一番じゃないか? それに彼女の助力がなければ俺はとっくに負けてたしな」
「ふ〜ん、まっマスターがそう言うなら別にいいか! 私も拳でやり合えるなら名声はいらないしね!」
レジスタンスを遠目に放たれた言葉ににしし、と屈託のない笑みを浮かべフレイは満足げな表情を浮かべた。
良くも悪くも脳筋なフレイは本気で相手をぶん殴れた事にご満悦である。
殺伐としていた空気は急速に穏やかと化していく中、ソウジの後方からはセラフの声が鼓膜に響く。
「我が主人、妖精王及び幹部騎士達への聴取が只今終了致しました」
「あいつらは何と?」
「錯乱状態でしたが……一応はパラダイム・ロストにおける情報は獲得致しました」
最早お得意ともなっているセラフの容赦ない拷問混じりの尋問。
アレル教狂信者のサーレも狂った母性を持つエレニカすらも音を上げさせた彼女の手法はここでも有効打となっていた。
「現状妖精王達が有していた情報は二つ、独自の魔力研究により、本体はこのグランドシティから東方エリア、またアイラスの指輪なる物が水の都にあるとの情報です」
「アイラスの指輪? 水の都?」
「レベロスの鍵と同じパラダイム・ロストに繋がるとされる代物がある海面に位置している通称水の都と呼ばれる近代国家です。何でも近日中に攻め込む予定だったと」
「攻め込むって……誰かに伝わったりしてるのか?」
「いえ、独自に戦闘を仕掛け奪う算段だったようですよ。魔王、また人類側にもまだ知られてないのは幸いと呼べる話でしょうか」
「あいつらの狂った野心のおかげってか……皮肉な話だな」
冗談混じりの苦笑を放つソウジだが、それでも彼にとっては今後の進展を大きく左右する大きな情報だ。
「しかし情報を得ようとしただけでここまでの大事になるとはやはり、この世界はどうも荒れているようですね」
「それでも助けるべき命があることにも変わりはない。どうせなら全部がイかれてる方がこっちもやりやすかったかもしれないが」
「おっ! いいっすね〜そのセリフ生々しくて好きっすよ!」
「おわっ!?」
突如耳元で響き渡った声。
独特のイントネーションと甘ったるい声に思わず身を震わせ振り返ったソウジの先には悪戯に笑うカリナの姿があった。
銀河系一つを操る設定が盛り込まれた存在ではあるのだが今の彼女にそんな壮大な面影はなく、女子高生にしか見えない。
「よっす先輩、ビビり過ぎじゃないっすか? それとも音フェチとかっすか〜? そういうのかわいいっすね!」
「おまっ普通に話せよ!?」
「いいじゃないっすか〜私って結構気まぐれなんすから。設定決めたのは先輩でしょ?」
まるで猫耳が生えてるかと錯覚する程に人懐っこい後輩気質のカリナ。
そう作り上げたのはソウジ本人だがフレイ達と同様、自身の性癖も入れているが故につい実体化されるとたじろいでしまう。
ならば欲望と完全に切り離せばいいという話ではあるが癖が絡めば絡むほどいいキャラクターを生み出せるのがソウジなのだ。
「マスター……こういう子が趣味なの?」
「こういう猫被った媚び媚び美少女が我が主人の欲望だと」
「はっ!? いや別にそういう訳じゃ!」
グイグイとソウジへ迫る彼女への嫉妬か、フレイとセラフは冷やかかな目線を送るが時間と運命を司る魔法少女は伊達ではない。
いつの間にか二人の背後に回り込んでいたカリナは肩を掴み寄せると何処か不敵で許してしまいそうな笑みを見せた。
「まぁまぁそんな嫌がらないで先輩方? これから仲良くやっていきましょうよ〜! てかその髪の先どうなってんすか? めっちゃイケてますねフレイ先輩!」
「えっそんなにカッコいい!? 分かってるじゃないか後輩ちゃ〜ん!」
「セラフ先輩もめっちゃモデルみたいで王子様系女子って感じっすね! いやぁ映えの塊だわ〜後でツーショットお願いします」
「ち、ちょっと……」
フレイとはまた別タイプのグイグイ迫る勢いと懐に入り込む才能に何処か警戒していた二人の心を懐柔していく。
ナルシストかつ堅物なセラフでさえもカリナの隙を与えない饒舌っぷりにもういいかとため息を吐いたのだった。
光と闇、双方を理解してるからこそ出来る所業だとソウジは何処か自身のキャラクターに安堵を抱く中、やっと周囲の盛り上がりから抜け出したユラはこちらへと迫る。
「ソウジ……ありがとう、貴方達がいなければ私達は、この国はどうなっていたか」
「礼なんていらない、俺達はここを訪れただけの存在。情報が得られた今、もうここにいる用はない、俺達がいればあの大国共が襲ってくるだろうからな」
「そ、そんな! 私達は貴方に!」
「いいんだ、アンタ達がこれから築いていく未来に俺達は必要ない。これからの歴史にこちらの名は不要だ」
ユラは食い下がろうとするがソウジは被せるように言葉を紡ぐと目の先に見える歓楽街の様子へと視線をやる。
そこにはこれまでの刹那的な死闘にまるで理解が追いつかない恐怖と不安に塗れている民衆の姿が映り込んだ。
「俺達に構うよりもやるべきことは目の前にある、腐っても絶対的な支配者であった存在が消え去ったこの国をどうしていくのか」
ソウジの言葉と目の前の景色に勝利の余韻に浸っていたユラは冷静さを取り戻す。
勝利した者だけが得られる特権、この国の行く末を決める権力。
妖精王達を含め騎士団は崩壊し、エフィリズムの瞳を奪還した今、彼女は好きにこの国を好きにして良いのだ。
因果応報__。
散々これまで裏切られ、嵌められ、虐げられたのだ、こちらだって好きにこの住民達を支配する権利は有している。
あらゆる感情が混ざり合っているユラは血管が浮き出るほどに拳を握り締めると沈黙が空間を支配していく。
「……私は」
助言を呈しそうになったフレイ達を咄嗟に咎めソウジはただ彼女が作り出す静寂の終わりを無言で待つ。
自分達はあくまで部外者、マレン王国のセインと同様、国の在り方は当事者に任せるべきだと彼は一貫していた。
「……憎くないと言えば嘘になる、例えそれが関係のない大衆でもこれだけ私達に屈辱を与えてきた奴らと同じ種族、ズタズタにぶっ殺したい気持ちは勿論ある」
吐かれていくのはこれまでの鬱憤。
迫真を極めた彼女の言葉に喜んでいたフェザー達も沈黙に包まれ、彼女の一語一句へと深刻に耳を傾ける。
もし虐殺を選んだとしても仲間の中にユラを咎める者はいないだろう、特に悲劇的な惨状を味わってきた身なのだから。
「でも……私は妖精王にはならない」
増幅していく闇の雰囲気。
だがユラは怒りを抑えるかの如く、血管が浮き出るほどに拳を握ると言葉を紡ぐ。
囁かれるように始まった声色は段々と大きくなり、やがては覇気に包まれる。
「悲劇の連鎖、復讐の連鎖は何処かで止めないといけない。ここで誰かを殺せばまた新しいレジスタンスを生むことになるだけ」
全てを諭していくような長きに続く声に皆が惹きつけられていく。
やがて言葉は纏まり、ユラは力強い信念をソウジへと向けた。
「だからこそ私は全てを受け止める、この悲劇も残酷も全部……ここで連鎖を終わらせる為にも。その道は厳しいのは分かってる。反対されることも」
現に彼女の言葉に不服の面持ちをする者もいるが臆することなく、反逆の女神はこれからの未来に可能性を見出す。
「でも私はそれでもこの意志を信じたい、ソウジ……貴方はもう行ってしまうのかもしれないけど私は貴方を忘れない。そしてこれからの旅路に幸あることを祈ってる、貴方は私達の英雄よ」
「お互い様だ、ユラもこれからの未来に幸があるようにな。俺達は消えるが……いつまでも祈ってることは忘れないでくれ」
最後かもしれない言葉を交わす二人。
若くして奇妙な運命に巻き込まれた少年少女は初めて心からの笑顔を向けていく。
互いに行く末がどうなるかは分からないが今はただその先の未来を祈るしかない。
一抹の不安を抱えながらも嵐のように過ぎ去っていくソウジ達の後ろ姿をユラはただ感情が入り混じる視線を向けた。
「突然やってきて良くも悪くもハチャメチャにしてすぐに帰る……最初はふざけた奴とか内通者とか思ってたがあの男はこの世界を考えりゃマシな瞳をしていた」
「彼等が正義とは言わないわフェザー、もしかしたらソウジの向かうその先は間違えているのかもしれない。けど……私達にとっては英雄に変わりはない。祈りましょう、彼等の未来が希望に溢れる事を」
混沌が一時の終わりを告げたこの国の中心でユラは髪のご加護を祈るように両手を合わせ慈悲の表情を浮かべていく。
反逆の女神と呼ばれた戦乙女からの祈りを受ける中、直ぐ様グランドシティを後にした一行は騒がしさに包まれていた。
「いやぁ一件落着っすね〜! てか何すかこの空いてる車は!? めっちゃ映えるんですけどスマホで撮っていいっすか!?」
「ちょ運転中に乗り出さないでください!」
「ちょいちょい魔法少女ちゃん! どんなマジックで私達復活させたの!? 色々と教えてよ〜!」
「貴方も助手席で暴れるなッ!?」
新たな目的地へと疾駆するセラフが司る反重力車の内部はお祭り騒ぎを極めてる。
ただでさえ煩いフレイに加えて同じくらい喧しいカリナの登場はカオスを極め、堪らずセラフは愚痴を溢すのだった。
「我が主人……何故こうもまた喧しいタイプを作り出したのですか……?」
「えっ? いや……別に意味とかはないというかその方が面白いかなと」
「ならば次はよりお淑やかで真面目で無口なタイプにしなさいッ!」
「は、はい!?」
美少女の戯れに笑みを浮かべていたソウジは突然の矛先に堪らず身をビクつかせる。
能力は強さ加減は常に熟考しているがキャラクターの性格は感覚で創造している故にカリナもまたこのような性格と化していた。
喧しいウザかわな後輩と陽気な戦闘狂は一頻りの暴れを終えるとようやく落ち着きを取り戻していく。
「しっかし大丈夫っすかね、あの人達、色々と前途多難っすけど」
「親を目の前で殺されても理性を保ってここまで来れた人だ、そう安々と闇に堕ちることはないはずだ。きっといい方向に導いてくれる、てかお前シレッと付いてきてるがいいのか? 嫌なら離脱しても」
「いやぁ〜楽しそうですし別に先輩方に付き合うのもいいかなって! ダークチェイサー滅ぼして暇を持て余してるしここは闇に溢れてますしそれを変える為には皆さんと一緒にいるのが最適ってやつっす! それとも私はお邪魔っすかね?」
自分の作った過去が反映されてるのは未だに不思議な気分だがソウジはカリナの要望に笑顔で応えていく。
「いや、そんな事はない。仲間になってくれることに越したことはない」
「じゃ身勝手についていくっす! てなわけで皆さん、改めて宜しく……っす」
「ん?」
突如、饒舌に話していたカリナは魂が抜けたように脱力するとソウジに膝枕される形で身を彼に預ける。
「えっちょ魔法少女ちゃん!? 死んじゃったの!?」
思わずフレイは心配の声を発するがよく見ると彼女はただぐっすりと眠りについているだけであった。
「な、何だ寝てるだけか」
「きっと副作用だろうな」
「副作用?」
「妖精王対策としてカリナの能力は結構何でもありな力にしたからな。使い過ぎると強制的に眠るって制約を与えたんだ。非の打ち所のないチート生み出しても暴走した時に止められなくなる。まっ眠らせといてくれ」
対等な関係ではあるが一応は創造主であって最低限の制御は行いたい。
フレイやセラフにも言えるが完全無欠を作らないのは心配性なソウジのスタイルが顕著に現れていると言っていいだろう。
心配性と大胆、二つの要素をが両立する彼はカリナの身を反対へと預けると疲れながらも闘志に燃える瞳を浮かべた。
「さて、次なる新天地に向かおう。パラダイム・ロストを見つけてこの終わりそうな世界からユズ達全員で抜け出す」
「もちのろんだよマスター! その為に私達はこの世界を駆けてるんだからッ!」
「当然です、どれだけの障壁だろうと私達が更にその上を……ちょだから助手席で暴れるなこのバカ戦闘狂!?」
時間と運命の魔法少女カリナが加わり、更に盛り上がりを見せる一行。
ソウジの言葉にこのカオスを自分らなりに終わらせようと少女達は決意を固める。
いつ終わるかも分からないこの終末の世界から脱出し、全てはあるべき場所へと帰る為にも気を引き締め直して彼らは次なる目的地を目指すのだった。