妖精王サーレスト。
幼き頃から彼は全てで優れていた。
知力、武勇、教養、他のエルフなどは比較にもならない生まれながらのエリート。
名門一家として誕生した彼は恵まれた環境で最高の教育を常に受けてきた、お前は特別だという両親の教えを添えて。
この動乱の中にてエリートとして誰かの上に立つ者として相応しい教育を。
しかしその愛し方はやがて彼の心へと歪んだ野心を段々と抱かせていく。
全てを持ち自尊心の高いサーレスト、だからこそ如何なる分野だろうと自身よりも勝る存在はプライドを穢した。
最初は軽い嫉妬から始まった歪みも年を重ねていくことで増幅していき、それは世界すらも呑み込む野心へと変貌を遂げる。
手始めに自身の闇を感知し、咎めを行っていた邪魔となる両親を殺した、己の躍動の障壁となる者を滅する為に。
同時に自身よりも勝る部分を持つ兄弟、深い友人なども残らず殺戮を始める。
殺す、支配する、殺す、支配する、絶対的な力と周囲を統べる力によってサーレストは自身に心酔する者だけを集め、自身に危惧を与える邪魔者を抹消してきた。
やがて矛先は種族そのものとなり、優れた技術を持つヴァーリエン族はまさしく自身の危険分子の一つとして滅するべき存在。
彼の自尊心と底知れぬ野心は多民族国家という平和を否定しこの国を唯一のエリートだけが統治を行う国家へと切り替えた。
ただ己の為に、この国だけでは終わらない、神の力もパラダイム・ロストも手に入れこの世界、いや全宇宙の絶対的な支配者となる、その資格が自分にだけはある。
「馬鹿な……私は選ばれた……生まれた瞬間から私は特別なエリートなんだよ……そうさエリートさ。負けるなんて許されない、常に勝つ人生なんだ」
故に今の状況は到底受け入れられない。
クロノスの必殺技を食らったサーレストは血反吐を溢しながら、情けなく地面へと這いつくばっていた。
奪い去った技術から誕生した鎧も剣も粉々に破壊されてしまい謁見の間は今の自分を皮肉るように無残な姿となっている。
「あんまり悪足掻きしない方が身のためってやつっすよ。すればするほどダサいっす」
魔法少女としてのクロノス・スターライト変身を解除したカリナは肩を竦めた。
「ネガティブ過ぎるのも良くないっすけどポジティブ過ぎるのも良くないっす。光と闇もバランスが取れてるから人は優しくなれるっす!」
「黙れ……この私に説教かッ!」
「思ったこと言っただけっすよ。フワァ〜あぁ眠たい……とりまこんな感じでどっすか? ソウジ先輩?」
どれだけの言葉を放とうとも今のサーレストに威厳はなく、欠伸を浮かべたカリナはウインクと共にソウジへ美顔を向ける。
「せ、先輩?」
「愛称っすよ。あぁもっと普通に呼んだ方がいいっすか?」
「いや……好きにしてくれカリナ」
「なら先輩っす! 自己紹介遅れましたけど私は先輩が生み出した魔法少女、繊月カリナっす! 後で写真撮らせてくださいっす!」
繊月カリナ及びクロノス・スターライト。
紅蓮の戦闘狂、完璧なるメイドアンドロイド、二人に続く三人目のキャラクターのテーマは闇を持つ魔法少女であった。
類なる魔法を司る享楽的な闇と光を兼ね備える魔法少女、ソウジの趣向から誕生した対妖精王の切り札と呼べる存在は創造主へ飛び切りの笑顔を振り撒く。
先輩というまたもや想定外の独特の呼び方に一瞬だけ困惑するもそれもまた個性かとソウジは彼女を受け入れた。
戦いが終わったかのような、いや実際には終わっているのだが繰り広げられる緩やかな会話劇は敗北を認めないサーレストからすれば癪にしか障らない。
「貴様らァッ! 何を終わろうとしている、まだ終わってはいないッ! 私が作り上げた騎士団は不滅「まだ分からないのか」」
「はっ?」
「どれだけ言おうが勝負は決している。お前が気付いた全てはもうないんだよ」
悪足掻きにトドメを刺そうとソウジは最早原型を留めない崩壊へと進んだ謁見の間にて後方を指差す。
見ろと指示してるように力強く差され恐る恐る近づき見下ろしたサーレストの視界には膝から崩れる絶望が映り込んだ。
宮殿内を取り囲む大庭園。
穏やかな草木が生え、美しい噴水が目立つ優雅な地だが平穏とはまるで違う壮絶な銭湯が繰り広げられている。
「がふぁッ……!? 何故だ、俺の誇り高き闘争の炎が効かないのだッ!?」
「誇り高き? 笑わせんなよ騎士ちゃん!」
灼熱の騎士フェネル。
妖精王に心酔した一人として躍動する百戦錬磨の闘争に溢れた騎士は自身を上回る業火によって敗北寸前に追い込まれていた。
豪快な大振りの火力も闘神の一部の力を有する設定を持つフレイにとっては生温い炎にしかならない。
肉弾戦で言えば誰よりも強い純粋なパワーとスピードを持つ無邪気な戦闘狂は絶え間なく拳撃の嵐を叩き込む。
瞳孔の開いた笑みを浮かべながら容赦なく自分勝手に肉薄する姿は悪魔と称しても過言ではないだろう。
「チッ、獄炎「イグニス・ドライヴッ!」」
放たれようとした炎の刃は被せるように奏でられた言葉と共に発動を許されず、迅速な炎の拳が顔面を抉り潰す。
屈強な顔も崩れるほどの威力に後方へと吹き飛ばされたフェネルにはさらなる迸る業火が待ち構えていた。
「エリス・ノヴァッ!」
己の頭身を有に超える巨大なる拳は周囲へと凄まじい熱気を発生させる。
慈悲のないフレイ最大の切り札は未だに体勢を整えられないフェネルへと一直線に肉体を潰さんと射出されていく。
「ぶっ潰れなァッ!」
「これが……神の力って言うのかァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
響き渡る断末魔のような叫びと共に鎧と剣は炎に燃やし尽くされ、フェネルの肉体は地獄の爆炎に包まれていく。
生きていながらも最早指一つ動かせない灼熱の騎士は身を黒焦げにしながら成すすべもなく地へと倒れ伏せた。
「ふぅ……スッキリ!」
完全燃焼の決着にまるで何事もなかったように歯を見せ豪快に笑うフレイ。
時を同じくして彼女とは真逆、だが同じ熱さを持つ熾天使も既にアヴァリスとの決着を迎えようとしていた。
「見えざる聖域はキリエを謳う」
白銀のコインから生成されたリボルバーの弾丸は剣撃を上回る速度で蒼の騎士へとダメージを刻み込む。
刃先から放たれる氷河の斬撃などセラフからすれば見切れる領域、搦手ではないからこそ余計に分析するのは容易だ。
スライディングの容量で懐へと滑り込むとハイヒールからなる回し蹴りはアヴァリスへと痛烈な打撃を与える。
「何という速さ……だがッ!」
どうにか体勢を保ったアヴァリスは素早く刃先へと氷河の凝縮を始める。
絶対零度にも近い氷は空気を凍てつかせ、セラフの死角から冷酷な一撃を叩き込む。
しかし虚を突いた筈の剣撃すらも即座に察知したセラフから放たれた蹴撃で容易く食い止められてしまう。
対抗として手元に生成されたサブマシンガンは小刻みに傷を与えていき、相手の追撃を全く許さない。
蒼の騎士アヴァリス……三騎士の中では頭脳と言える沈着さと誇り高き忠誠心が武器となる氷結を司る卓越した存在。
故に決して焦ってはならない、自身が理性などを失えば自分ではなくなる。
「如何なさいましたか? 随分と顔色が悪いようですが」
しかし思考はそう必死に考えていても彼の心には焦りが積み重なっていた。
全身全霊で挑もうとも傷の一つすら付かない姿で飄々と立ち、蹂躙の翼を広げる彼女の姿に憤りが理性を蝕んでいく。
対するセラフは一切の慈悲を与えんとゆっくり確実に敵へと歩を進ませる。
「チっ、生娘が我の誇りをッ!」
負けるまいと果敢に剣を振り上げるが一直線の攻撃が当たるはずもなく、躱したセラフは刃先を掴むと背負い投げの容量で剣ごとアヴァリスを地面へ叩きつける。
緑の大地がめり込むほどの威力に何度もバウンドしながら這いつくばる彼へと熾天使は断罪を行おうと瞳に閃光を走らす。
「幼き幻想のマドゥルガーダ第四律」
鋭利なる無骨なブレードを創造したセラフは切り札となる自強化の詠唱を唄い、優雅に体勢を整えていく。
あらゆるスペックを最大限までに引き上げるハイリスクハイリターンの能力は周囲へと激しい風圧を引き起こす。
誰がどう見ようとケリを付けようとする姿にアヴァリスは立ち上がると迎え撃つように切っ先を向けた。
「終わらすか……来い戦乙女ッ!」
響き渡る剣戟の応酬。
覚悟を固めたアヴァリスは必死に食らいつきセラフの止まらぬ猛攻に応える。
だが生物の域を有に超えている彼女の動きとは段々と差が生まれ始めていく。
一手、いや二手、三手と先を行く熾天使は嘲笑うかのように美しく翻弄を行う。
数十秒もすれば両者の差は歴然となり、増えていく隙を突いてセラフはアヴァリスの剣を上空へ弾き飛ばす。
同時に肉体を捻らせた彼女は骨すらも砕け散る峰打ちを繰り出した。
「ぐぉぁッ……!」
狙い定めた相手を葬り去る美しい一撃はアヴァリスの肉と骨を抉りながら吹き飛ばす。
荒々しく無様に飛ばされたアヴァリスには既に意識はなく、地べたへと寝そべるように崩れ落ちていく。
勝者の優美さや敗北者の惨めさも感じさせない圧倒的な戦いを見せたセラフはただ冷徹に決着の光景を見下ろすのだった。
「なっ……はっ……?」
息が詰まる、呼吸が荒れる。
自身が支配していた強力な駒である幹部達は見るも無惨に敗北を遂げていく。
彼等だけでない、ソウジが作りし罠によって自身の兵士達が次々と撃ち滅ぼされていく光景がサーレストの視界に焼き付いた。
自らが作り上げてきた権力は目の前で成すすべもなく崩壊の一途を辿っている。
既に折れかけていたプライドは完全なる敗戦によって遂には保てなくなった。
「これでもまだ分からないのか? お前が築いた時代はここで終わる、これも全部お前が犯してきた所業の報いだ」
トドメを刺すソウジの言葉にサーレストは脱力したように膝から崩れ落ちる。
傷だらけの形相からは段々と生気が失われていき、乾いた笑いが溢れていく。
「ハッ……ハハッ……アッハハッ! もう全部おっしまいだァァァァ! アッハハハハハハハハハハハハッ! ウハハハハハハハハハハハハハァァァァッ!」
その目にはもう生気はない、あるのはただ底知れぬ闇が渦巻いているだけ。
狂ったように嗤い始める姿は理性の失った獣の咆哮に近しいモノである。
「もうぜ〜んぶめちゃくちゃ! 僕はもう全部終わりだァァァァァァァァッ!」
誰もが呆れる哀れな言動はこの戦いが終焉に辿り着いたことを裏付けている。
そこにかつての強権を振るっていた勇ましく威圧に溢れた姿はなく、幼児と化して自暴自棄となった妖精王はただ壊れたように喚き続けるのであった。