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第46話 アイ・アム・マジカルガール☆

「創世の……奇書だと!?」


 魔法少女、奇天烈な口調に容姿。

 疑問なら幾らでも存在する。

 だが何よりサーレストが困惑を抱くのは目の前の彼女が創世の奇書から生まれし存在という事であった。


「ふざけるな、あの小僧は既に瞳で消滅させたはず……奇書の力が発動するはずが!」


「妖精王さんって結構マヌケなんすか?」


「はっ?」


「何事も表と裏ってあるんすよ、服だって性格だって、勿論奇書にもね?」


「ま……まさか」


 慌ててソウジから奪い取った頁へとくまなく目を遣る。

 厳密に言えばその裏側、フェルミ・アクセルの詳細が刻まれた紙の裏。

 あるのだ、裏側にも文字の羅列が、それも表よりも事細かにびっしりと。


 【名前】

 繊月カリナ/クロノス・スターライト


 【概要】

 亜空の管理者、時の妖精ドリームスターの適合者として選ばれた存在。

 本来はただの女子高生に過ぎなかったがドリームスターとの出会いにより魔力が覚醒。

 並行世界を行き来し、世界の歪みを起こそうとする運命を司る魔物ダークチェイサーを倒すべく立ち上がった魔法少女。

 なのだが……余りに魔力が高すぎる故にドリームスターも制御が出来ず、また全てのダークチェイサーを取り込んだことで光と闇を持つ歪んだ強力なる存在として誕生した。 


 【性格】

 亜空を支配する時間と運命を司る光と闇の魔法少女……という肩書きに反して性格は非常にフレンドリーで享楽主義。

 力を持とうと現代っ子に変わりはなく、好みの存在は共に自撮りを行おうとする押しの強いマイペースさを持つ。

 だが魔法少女として希望と絶望を重視しており、己が思う希望の為ならば手段は問わないドライな一面が垣間見えている。

 ダークチェイサーの残滅により暇を持て余しており、最近は他の星に移動しては絶望を滅ぼして宇宙を回っている。


 【外見】

 黒髪と黄金色の瞳が特徴的な現代風なギャルの容姿を有している。

 肉体はトランジスターグラマーながら身体能力は非常にに高い。

 魔法少女変身時には髪は深紫へと変化を遂げ、変身ステッキを利用した対戦闘用衣装ミラクルドリーマー・ゼノを着用をする。

 外見は主に桃と白を基調とした魔法少女らしい可憐さと機敏性を重視した衣服だが闇も取り込んだ事を示すように脚部には漆黒のタイツが履かれている。


 【スペック】

 ドリームスター及びダークチェイサーが持つ魔法攻撃を主力としているが魔力による肉体強化によって肉弾戦も得意とする。

 基本的な攻撃魔法から時間と運命の二つを利用した強力な搦手の魔法まで多彩かつ自由な戦闘を取ることが可能。

 ただし時間及び運命操作はパラレル・アクロスと呼ばれる時間の差異現象によって酷似すると最低半日は気絶する欠点を持つ。


 【必殺技】

 ・フルマックス・スプラッシュ

 ドリームスターの魔力を利用した光属性の攻撃魔法、レーザー、ブレード、シールドなど多彩な形態に変形することが可能。


 ・セルフィッシュ・パルサー

 指定した対象の時間の加速、逆行を自由に操作する魔法、やり方によっては死すらも時間操作で無効化できるが膨大な魔力が必要かつ時間操作は一日内に限られる。


 ・デスティニー・ニューカオスゾーン

 この世に理論的に現存する、もしくは現存された概念が持つ普遍的な運命を変化させ自在に操る特殊魔法。


 ・デットリー・サンスクリット

 魔力の最大発動により銀河系規模のあらゆる現状を一斉に支配する最大魔法、これにより太陽などの驚異的な惑星や隕石群なども自在に生み出すことが可能。

 ただし規模によっては最低三日間の戦闘不能を余儀なくされる代償を有している。


 【備考】

 尚、能力に関しては完成形ではなく成長の余地を残す。

 また創造主に対しての忠誠心を持つが自らでも意志を示す自立性を有しており、これまでの物語を全て認識している。

 また……彼女がこの世に誕生するのは創造主がとなった瞬間である。


「再起不能となったら誕生……!? これも奴は狙っていたというのかッ!?」


 頁の最後に刻まれた文章。

 創造主が再起不能になった場合、奇書の力が発動しこの世へと誕生する。

 今更ながらに妖精王はソウジが隠していた真の切り札を理解していく。


「あの小僧が……どこまでもふざけた真似を……重鋭斬ッ!」


 出し抜かれた事実と彼女のフザけた態度はサーレストの琴線に触れるのは十分。

 怒り心頭で放たれた重力の斬撃は一直線にカリナへと強襲を仕掛ける。

 瞬間、手元の魔法陣からは星が刻まれたステッキが顕現され斬撃を弾き飛ばした。 


「何ッ!?」


「では行きますか、スターチェンジ!」


 奏でられた高らかな詠唱。

 彼女の周りには風圧が漂い始めたと思うと眩い光と僅かな闇が彼女を包み込む。

 制服は粒子となって消滅し、素肌となった身体には瞬時に衣が剥ぎ纏われる。

 黒髪は宇宙のような深紫へと変貌を遂げ、光を意味する華麗なる衣装と闇を意味する黒タイツは彼女の希望と絶望を体現した。


「これ……は」


 奇天烈な容姿……だが確かな自身を超える底知れぬ威圧感と不気味さがサーレストへと初めて恐怖の感情を植え付けていく。

 空中へと佇みながら見下ろす少女は完璧なる変身と共にピースサインを掲げる決めポーズを盛大に披露したのだった。


「全ての絶望に希望の光を、全ての理不尽に祝福の運命を、クロノス・スターライト、ここに降臨っす!」


 高らかに宇宙へと叫び謳う突如カリナこと魔法少女クロノス・スターライトは挨拶代わりと周囲に衝撃波を出現させる。

 耐えられない勢いは全身へと広がり、サーレストは思わず後方へと吹き飛ばされた。

 彼へと生まれた大きな隙を逃さぬよう、クロノスは彼へと接近するとエフィリズムの瞳を華麗に奪い去る。


「なっ瞳が!?」


「ゲットっす、もう切り札ってやつは使えないっすよ〜?」


「この女ァッ!」


 激昂と共に火蓋が切られた最終決戦。

 何処までも舐め腐った動きに怒りが抑えられんサーレストは肉薄を始めた。

 卓越したフォルムからなる迅速な動きの斬撃は素晴らしいものであるが無意味。


「フルマックス・スプラッシュ」


 詠唱と共にステッキから放たれた光はブレードへと変化し、一撃を容易に受け止める。

 時の妖精ドリームスターが持つ光の力、という設定で猛威を振るうクロノスの魔法。

 フレイ、セラフとはまた系統の違うキャラクターは純粋の剣を上空へ相殺すると手元から腹部へ亜音速級のレーザーを放つ。


 思わず意識が飛ぶ威力が神経へと巡り、絶え間なく後方からは追撃のレーザーが敵を滅ぼさんと強襲を行った。

 上位種の反射神経を余裕で超える速度は重力をもってしても捉えきれず蹂躙を意味する無数の雨が妖精王に屈辱を刻み込む。


「ゴハッ……! ちょこまかと重乱斬ッ!」


 反撃とばかりに詠唱されたのは刃先に溜め込んだ重力を全方位へと射出する重乱斬。

 重鋭斬を応用した唯一無二の強力な無属性魔法だが宇宙を司る存在にとってはほんのチッポケな変化に過ぎない。

 身を翻し、一度距離を取ったクロノスは唐突にカカト落としで地面を破壊する。

 空中へと舞った瓦礫達は次の詠唱で彼女の思い描く姿へと変貌した。


「デスティニー・ニューカオスゾーン、もう瓦礫って運命は終わりっす、今からはあの絶望を討ち滅ぼす槍になるっす!」


 まるで暗示を掛けるかのように紡がれた言葉に呼応し、瓦礫は彼女の投身を超える鋭利な純黒の槍へと姿を変える。

 デスティニー・ニューカオスゾーン、あらゆる概念の運命を自在に変化させ、操作する力は妖精王へと容赦なく牙を剥いた。


「ぐぁっ!? ごあっ!?」


 超高速で全方位から仕掛けられた槍の乱撃にサーレストは苦悶の声を漏らす。

 捉えられない、回避できない、反撃も不可能、強力無比なデスティニー・ニューカオスゾーンの真骨頂は抵抗を一切許さない。

 意趣返しのようにこれまで蹂躙を繰り返してきた暴君はたった一人の少女によって手も足も出ないでいた。


「くっ、アヴァリス! フェネル!」


 堪らず救援要請を叫ぶサーレストに呆気に取られていた二人は咄嗟に無双を続ける魔法少女を止めようと抜剣を行う。

 だが、たかが同レベルの存在が増えようとまるで問題のない話である。

 いや寧ろ、彼女が持つ魔法を披露する場を与えているだけだ。


「エフィリズムの瞳は発動済みだ……貴様の生みの親もあの戦乙女達も儚き粒子となりて死んだも同然、所詮は死者の置き土産、貴様諸共そこの瞳に介入可能な忌々しい女を滅ぼせば全ては上手く行くんだッ!」


「あぁ〜その功績全部無駄っすね」


「はっ?」


「何事も過去は変えられない、そして戻すことも出来ない。でもそんな運命と時間に私は縛られていないっす」


 希望と絶望を告げる指鳴らし。

 朗らかながらも心臓を握り潰す笑顔はただの魔法少女には醸し出せない。

 光だけじゃない、闇も兼ね備える存在だからこそ放たれる表情だ。


「セルフィッシュ・パルサー」


 クロノスが有する全ての概念における時間の加速、逆行を司る特殊魔法。

 一瞬だけ瞳を眩ます光が灯ったかと思うと怯んだサーレストにはあってはならない声が鳴り響いた。


「そう、それが彼女のコンセプトだ」


「なっ……なっ……!?」


「さっきぶりだな、妖精王。随分とらしくない焦りをしてるじゃないか」


「何故……貴様がッ!?」


「彼女の能力さ、一日以内限定だが時間を巻き戻したことで俺がその瞳で消滅されたという事実を無力化したんだ。だからこうしてここにいる」


 振り返った先に待つのは先程死力を尽くし討ち滅ぼしたはずのソウジ。 

 神羅織を靡かせる生意気な小僧は焦りに満たされるサーレストへと蔑みの瞳を投げた。

 消滅したはずの彼の復活にユラも同じく驚愕の言葉を口にする。


「ソ、ソウジ!?」


「悪いユラ、勝つ為に少しだけアンタを利用をさせてもらった。教えない方があいつもまんまと罠に騙されると思ってな」


「ハッ……ハハッ……貴方って人は」


 あらゆる感情が滅茶苦茶に混ざり合い、最早ユラはただ笑うしかなかった。

 既に衝撃に次ぐ衝撃だがクロノスが引き起こすマジックはまだ終わらない。


「それだけじゃないっすよ、はいドン!」


 続く指鳴らしでは二つの驚異的な存在が魔法陣に包まれながら姿を現す。

 それは同じくサーレストが不意打ちで葬り去ったはずの戦乙女達。


「ん? おっあれ体が戻ってる!?」


「ッ……! これは一体」


「なぁッ!?」


 業火の闘士と白銀の熾天使。

 見るだけでも悍ましいフレイとセラフの復活に唖然の言葉を放つしかない。

 知略を尽くしてどうにか退場まで追い込んだ努力はものの数分で踏み潰された。


「馬鹿な……瞳の力がこんな簡単に……」


 軽々と騎士達のプライドをへし折っていくクロノスはまだ状況を理解しきれてないフレイ達へと華麗に指を差す。


「そこの先輩お二方、後ろにいる怖い顔した幹部の騎士さん達は任せたっすよ」


「えっ誰!? なんか色々とキラキラしてるけど!?」


「実に美麗でパーフェクトな身体付き……妬まし……ではなく貴方は一体?」


 当然のように新たなキャラクターにフレイとセラフは疑問符を浮かべるが構わず光と闇の魔法少女は軽快に言葉を紡いだ。

 別方向に個性が爆発している三人は独特な空気を瞬く間に生み出す。


「詳しくは後で、まっ私は貴方達と同じ存在っす、さぁ先輩としてハチャメチャな大暴れしちゃってくださいっす!」


「フレイ、セラフ、今は彼女の言うことに従ってそこの奴らをぶっ飛ばしてくれ」


「マスターが言うなら……オーケー、色々と不完全燃焼だったし少し付き合いなよそこでメラメラ燃えてる騎士ちゃんッ!」


「同じ炎使い……面白いではないかッ!」


「把握しきれていませんがどうやら貴方を倒すのが最適解のようですね、蒼の騎士」


「小癪な……我らの栄光を邪魔して」


 カオスを極めているがソウジの一声に即座に割り切った二人はフェネル、アヴァリスを討伐すべく駆け出すと猛攻を始めた。

 最早増援も頼めない状況下、たった一瞬で派手に覆った戦況に残されたサーレストはクロノスを酷く睨む。


「貴様……私は上位種族だ、私は勝者だ、私は常に覇権を握る存在だッ! 神の力も瞳もパラダイム・ロストも手にしていいのは私だけなのだぞォォォォッ!」


 激昂と共に地を蹴り出す妖精王。

 我武者羅にも似た突貫攻撃は直ぐにもクロノスに見切られ、顔面へと回し蹴りが痛烈に叩き込まれる。

 怯みながらも直ぐに体勢を整えたサーレストだが既に相手は自身の至近距離まで肉薄を果たしており、壮絶な死闘が幕を下ろす。


 重力の斬撃と光の魔法は幻想的な光景を生み出しながら一秒も油断できない超高速の攻防を繰り広げていく。

 互いにゼロ距離からなる攻撃は周囲の地面を破壊するほどに壮絶を極めるが段々と拮抗していた二人には差が生じ始める。

 息を切らしていくサーレストへと透かさず余裕綽々のクロノスは拳に光を纏わせた打撃を全体へと叩き込む。


 ワンツーの連打が肉体を交互に捉え、時間の経過と共に手数は倍となり、妖精王の体躯を大きく揺さぶった。

 力負けした事でよろけるサーレストは限界を迎えたのか膝をついてしまう。


「ほっと!」


 劣勢ながら果敢に攻撃の手を緩めないものの大振りとなった斬撃を躱されるとカウンターのアッパーは顎へと直撃。

 空中にて肉体は何回転もしながら地面へと成すすべもなく落とされる。

 追撃の如くクロノスはデスティニー・ニューカオスゾーンによって周囲の埃を巨大な岩石に変えると容赦なく上空から叩き込む。


「あり得ない……あり得ない……! こんなのまぐれに決まっている、この私がこんな小娘に蹂躙されるなどッ!」


 傷が刻み込まれ、何度も地べたと接吻をする最悪の屈辱を味わい続けるサーレストに冷静さなど完全に欠如していた。

 尚も実力差を認めようとしない彼だがクロノスの言葉は下らない自尊心を深く抉る。


「もう貴方に立場はない。ここに広がるドス黒い物語は全て、この私の光とちょっとの闇が全てを包み込むっす」


「黙れ……この聖域に触れるなァァッ!」


 完全にタガが外れ殺意に満たされるサーレストは剣を握り直すが直ぐ様クロノスの魔法が彼を封じ込める。  

 手元から放たれたフルマックス・スプラッシュの光は肉体へと絡みつき拘束すると宙へと彼を上昇させた。


「な、何だこれはッ!? 動かっ……!」


「こんな下らない運命は私が変えるっす、出し惜しみはしないっすよッ!」


 瞬間、彼女の瞳には閃光が走ると考えられないような光の魔力が華奢な肉体へと急速に流し込まれていく。

 誰が見ようとケリをつけようと、言い方を変えれば必殺技を放とうとする雰囲気に凄まじい緊張が痛烈に場を走った。


「デットリー・サンスクリット」


 クロノスが持つ最大の切り札。

 銀河系に匹敵する運命と時間を自在に一度で操る宇宙規模の魔法は付近へと太陽にも似た眩い灼熱の球体を生み出す。

 同時に右足へと魔力を凝縮させたクロノスの脚部は流星群のように光が灯され、蹴撃の構えを取り始めていく。

 周囲には終わりを告げる生暖かい風が靡きを始め、直視し難い熱さが空間を支配する。


「さぁ、フィナーレっすッ!」


 魔法少女が誇る最後の一撃。

 足元を捉え、相手は息を飲む。

 希望を知らせる激情なる咆哮と共に最高潮に達した魔力に包まれる蹴りは灼熱の球体へと叩き込まれる。

 クロノスの蹴撃は空気を歪ませるほどの波動を生み出し、視認できない速度にてサーレストへと放物線状に放たれた。


「この……ダボがァァァァァッ!」


 身体の中心を穿たれたサーレストは怨嗟の声と共に球体内部へと呑み込まれていく。

 逃れられない一撃は瞬く間に爆炎へと彼を包み込み壮絶な爆発を生み出した。

 自身の権力を意味していた玉座は衝撃によって木っ端微塵に砕け散る。

 天空の楽園に潜んでいた度し難い運命の物語は希望を捨てなかった者達によって繋がれ、魔法少女は狂いし野心に満たされた王へとトドメの一撃を刺すのだった。

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