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第45話 妖精王

「フッ……ハッ……ハハハハッ!」


 数秒の沈黙の末にソウジの宣言へとサーレストは爆笑を木霊させていく。

 一頻りの愉悦に浸り終えると人が変わったように冷酷な無の感情へと包まれた。


「私が一番嫌いなものは大人の言うことを聞けない子供だ、大人しく誇り高きパフレリスの糧となれば良いものを」


「誰が従うか、お前のおかげで十分に理解出来たよ、人間にも魔族にもいい奴がいれば下衆な奴もいるってことをッ!」  


「下衆……その下衆にいいようにされた君達は何と呼べばよいのかな?」


「好きに言え、そんな陳腐なプライドも奪い続けた権力も今ここで終わるんだからな」


 決して共鳴しない言葉の応酬。

 互いに嫌悪感を露わにする中、追随するように反逆の女神は声高々にサーレストへと宣戦布告を口にする。


「……誇り、力、権力、命、アンタは何もかも踏み躙ってきた。命を奪い恐怖を与え仲違いを生み出した、アンタが描く世界の行く末が例え平和だろうと私は妖精王の支配を認めない、この反逆の女神がッ!」


「奪われる程に無力なのが悪いのだろう。驚異の力を奪うのは自然の摂理、特に我々のような生まれながらの勝者はな」


「奪うことでしか暴れないような存在に無力なんて言われたくはないわね。アンタはただの弱虫ビビリのガキな王様よ」


 誰もこの決戦を止めれる者はいない。

 不敵な笑みを崩さずとも殺意を隠しきれないサーレストは純白に彩られる剣を抜き、刃先は日光に照らされ煌めく。


「蛆に言葉の交わしは無意味か、やはり屈服に絶対の力は不可欠、君の両親のように絶望に満たされる首を差し出すのが早いか」


「ッ! 親を侮辱するなッ! アンタに比べればどれだけ高貴で上物な魂だったか!」


「敗者に高貴さなどない、そして君達にも高貴さなど……ない」


 迅速に振り下ろされた剣から放たれた一閃は地を抉るように切り裂きながら一直線に攻撃を仕掛けていく。

 咄嗟に二人は左右へと身を翻し回避に成功するが横切った一撃はまるで押し潰されたように地面に深い亀裂を生ませていた。


「ッ! 重力の魔法か……!」


「ほう? 初見で理解するとは腐っても選ばれし英雄か」


 心のない賞賛と同時に重力を司る斬撃は二撃目、三撃目と連発され全てを避けるのに精一杯となる。

 一つ振られるごとに謁見の間には強烈な切れ目は妖精王が持つ剣がどれ程の威力なのかを裏付けている。

 腐ってもグランドシティの支配者、横取りの技術力と己の剣技は反撃の機会を与えることなく容赦のない猛威を振るった。


「クソッ、容赦ねぇな全くッ!?」


「まるで近付けない……人の技術力奪った能力のくせに」


「負け惜しみか、その勇ましい顔には彩りが必要だ、この純白の剣による敗北と屈辱の印をな」


 ただでさえ防戦一方の劣勢にも関わらずサーレストはより勝利を強固なものへとすべく軽快に指を鳴らす。

 背中を合わせる二人の後方からは同じく不気味な剣が抜かれる金属音が奏でられた。

 氷河の剣と業火の剣、相対する刃先達は名の由来通りの灼熱と零下の威圧を纏い、凶気を放つ。


「ハッ、闘争に溢れる瞳は素晴らしいが弱者がここは穢すような聖域ではないッ!」


「予め彼を呼び戻しておいて良かった、万が一とはこのことなのだな」


「ッ! アヴァリス……フェネル……!」


 蒼の騎士と豪炎の騎士。   

 アヴァリス、そして妖精王の意向によって呼び戻されていたフェネルは誇り高くソウジ達に睨みを放つ。

 数的不利に挟まれている状況、気怠く首を回すサーレストは勝負が決している局面に言葉を紡いでいく。


「この状況も全て君達の判断ミスだ、灼熱に身を焦がされて死ぬか、冷気に蝕まれ肉体を滅ぼすか、重力によって内臓を潰すか、好きな選択肢を与えてやろう」


 ゆっくりとだが着実にサーレスト達は距離を詰めていく。

 意表を突いた奇襲の攻勢があれど結局は絶対的な力に適うことはなく蹂躙される。

 瞳に宿る力強さは失われずとも両親と同じ末路を辿るかもしれない可能性にユラは顔を歪めていた。

 だが、それが通用するのはあくまで神の力を有する存在がいなかった時だろう。


「今、お前は選択肢をよこしたな、だったら潰される事を願おうか、まぁ……そうなるのはだがな」


「何を吐かすと思えば虚勢を張っ」


 嘲笑う声は途中で切断された。

 刹那、謁見の間には屈強な身体を持ってしても耐えられない衝撃が強襲を行う。

 重力のような押し潰されるような力は身体の全身へと襲いかかり、歪んだ騎士達は後方へと超高速で弾き飛ばされる。


「ぐぉっ!?」


「なッ……!?」


 本能的な勘が働き、咄嗟に防御態勢を敷いたサーレストは耐え切るがアヴァリス達は為す術もなく壁へと押し潰された。

 苦悶を意味する嗚咽が漏れると同時に衝撃音と共に瓦礫は盛大に周囲へと飛び散る。

 軽々と弾かれた状況に敵側は愚か、ユラも同じように衝撃を顔に出す。


「貴様……何をした?」


「散々初見殺しされたんだ、やり返しても文句はないだろ」


 今度はソウジが嘲笑う形相を浮かべると理解が追いつかないサーレストへとある一枚の紙を提示する。


 【名前】

 アイズ・オブ・ダウンドライヴ


 【概要】

 コンタクト状の対カウンター魔力装置。

 装着者へと半径五メートル内において自身への明確な敵意による魔力を感知した際に有無関わらず強制的に相手へと十倍の重力を射出し、後方へと弾き飛ばす。

 使用負荷の制限はなく、装着者が自ら脱着及び精神干渉を突破できない限りは回避不可能と言える強力な装置である。


 びっしりと刻まれた文字列、少しばかり年季の入った色合いの上質な紙質、理屈よりも先に心を蝕む非凡なオーラ。


「まさか……それは」


 咄嗟に乱雑に捲られる創世の奇書。

 分厚い本の内、三枚だけ根元から破られている跡が視界に刻み込まれる。

 それは己自身の確認不足で予想外の展開に陥っている何よりの裏付けであった。


「創世の奇書……見越していたのか」


「奇書は何もキャラクターを生み出すだけじゃない、万が一ってのは常に重要だな、こうしてお前とやり合えるんだから。残り一枚だが切り札はまだこっちに残っている」


「なるほど、騎士達を惑わすあの幻影も君の奇書の力か。全く悪運の強いことだが」


 一矢報いられたがそれでもこちらの勝利に変わりはない。

 根底の自信が大きく揺らぐことはなく、何処か嘗めてかかっていたことを戒めつつ最大の切り札をサーレストは取り出す。


「これがある限り、栄光は私のものだ。見せしめの処刑として君達に使うつもりはなかったが……そう手段を選んでいる暇もないらしいなッ!」


 エフィリズムの瞳。

 かつて自国防衛として誕生した守護の要だが反乱分子を抹消する為、歪んだ進化を齎された破滅を持つ瞳。

 どれだけの劣勢だろうとどれだけの脅威だろうとこの兵器の前では全ての存在が等しく弱者と化す。


「チッ……またその瞳をッ!」


「待てユラ、これを」


 全てを無に帰す悪魔の力。

 一族の運命を狂わせた力の発動にユラは一刻も早く瞳を獲得しようと身を乗り出すが咄嗟にソウジが咎めを入れる。

 何をしているんだと困惑の表情を浮かべる彼女の手元にはある代物が渡された。


「俺を信じて従ってくれ」


 力強い瞳と耳打ちされた内容にユラは一瞬驚きに包まれるものの、直ぐに意を決したように頷く。

 一秒でも油断できない状況下で二人は再度サーレストへと徹底抗戦の睨みを投擲する。


「死に急ぐか、ならば死ね」


 慈悲を与えん冷酷な音色を火蓋にエフィリズムの瞳は禍々しく開眼を始めていく。

 これまでと同じく全てを粒子として無力化してしまえばどうという事はない。

 だが、勝利の確信に口角が上がった彼の表情は瞬時に強張ったものへと変貌を遂げるのだった。


「何?」


 理解が追いつかない形相。

 たった一言、「発動」と唱えられればこの戦いの全てに終わりが告げられる。

 しかし彼の視界からは存在したはずのソウジ達の姿が綺麗に消え失せていた。


「何だ……何処に消え「そこッ!」」


「グォッ!?」


 状況を理解する前に後方から鈍い音が生じ、サーレストの背中部へと激痛が走る。

 鍛え抜かれた肉体は天地逆転の勢いで空中へと投げ出され叩きつけられた。

 飛びそうな意識を呼び戻すも対処する暇もなく同様の衝撃が全身に襲い掛かる。

 絶え間のない怒涛の反撃、自慢の重力を司る順白の剣が機能する暇すらも与えない。


(どうなってる……これも奇書の力かッ!)


「奇書の力……そう思ってんだろ、あぁその通りだよッ!」


 【名前】

 フェルミ・アクセル


 【概要】

 イヤリング型の永続的加速装置。

 装着者の脚部への粒子細胞を往復させることでエネルギーの増幅を行い、人智を超えた加速能力を付与することが可能。

 時間経過と共に加速は無尽蔵に強化されていき、自主的な解除を行う、もしくは破壊されない限り機能は持続を続ける。


 ソウジのもう一つの切り札。

 フェルミ・アクセル、イヤリングの装着者へと驚異的な加速能力を与える武装。

 指定の範囲内に踏み込んだ敵意ある相手を弾き飛ばすアイズ・オブ・ダウンドライヴとの併用によって効果は更に発揮される。

 瞳が脅威ならば視界に映らなければ問題はない、奴の剣が強力ならばそれを超える力を得ればいい、単純だが単純だからこそこの戦法は十分に機能していた。


「これが最後の切り札だ、気がぶっ飛ぶまでお前を弾き飛ばすッ! もう瞳に俺達を映らせることは出来ないッ!」


「ここでくたばりなさい妖精王ッ!」


 ソウジの能力に加えて爆撃ナイフを投擲するユラ、不規則に動き回る二人の見えない総攻撃は常に絶対であったサーレストを着実に追い詰めていく。

 幾ら特別用にチューンアップされた鎧だろうと肉体への負荷を完全に受け止めることは出来ず段々とダメージは蓄積される。


「……なるほど、流石は神の力」


 消え入るような呟かれる一言。

 サーレストは自分を戒めていた、どれ程の蛆だろうと相手は神の力に選ばれし者。

 神殺しはそう安々と達成できるものではない、現に己の慢心によって僅か数分で自身は劣勢に立たされている状況に陥っている。


 これまで幾つもの際立つ力を我が物とし、ソウジが持つ神の力、終いには世界の根幹を変えると呼ばれるパラダイム・ロスト。

 その全てを手に入れこの世界の絶対なる覇権を手に入れようと野心を燃やす彼だが腐ってもグランドシティの現国王。

 人の物を奪うからと言ってこんなガキ達に負けるほど軟弱なポテンシャルではない。


(舐めるなよ小僧共が……我は王、ただ偉そうに玉座へとふんぞり返る輩とは違う、違うのだよ輩とはッ!)


 焦ってもおかしくない劣勢の展開。

 だがサーレストはあるソウジの言動及び、奇書の残り枚数に注目していた。

 奴の手元にある頁は三枚、あの幻影に今回の重力操作と超加速、そして奴が放った最後の切り札という言葉。


(奴はもう奇書の手数がない、人の創造ではなく自身の強化は意表を突かれたが……これ以上の搦手は用意されていない。ならばこの現状に集中すればいいこと)


 そう、強力ではあるがソウジは既に三枚の切り札を使用済みなのだ。

 つまりこの驚異的な加速さえ攻略すれば金輪際反撃を行える機会はない。

 この戦いにさえ集中すれば良いのだ、理性を失いかせていた思考は冷静さを取り戻し、静寂が彼を包みこんでいく。


(焦るな、怒るな、勝利の道は無我の境地。ここで惑わされ敗北する道などない、私は常に勝ち続ける運命なのだ)


 高ぶる感情は無尽蔵の自尊心によって段々と冷静さに包みこまれていく。

 敵意や殺意、あらゆる負の感情は段々と透明色と化していき、自らを襲うダメージを全て無視し抜剣の体勢を整える。

 目標はただ一人……相方の小娘なんぞ今はどうだっていい、狙うは神の力に選ばれし忌々しい小僧。


(研ぎ澄ませ感覚を……王として、神殺しの資格を私に与えるのだッ!)


 純粋に染まっていく精神はやがて邪念という邪念を振り払う。

 ただ目の前の存在へと一閃を振るう、それだけのこと。

 無音、自身の呼吸音だけが鼓膜を震わす研ぎ澄まされた精神に包まれサーレストは抜剣のモーションを取る。

 一撃必殺、凡百な攻撃とは一線を凌駕する鋭利に研ぎ澄まされた剣筋がソウジへと襲い掛かるのだった。


「重鋭斬ッ!」


 刃先に纏わせた重力に圧縮させ、貫く。

 風穴なぞ生易しいと思わせる一閃の速度は稲妻の如く速く、音すらも切り裂いたかのように一瞬静寂な間が作り出される。

 剣筋を目で追い切るまで時間が掛かりそうな無属性魔法による神速の一撃は真っ直ぐに標的へと襲いかかった。


「ッ……!」


「何ッ!?」


 無我の境地に達した彼にアイズ・オブ・ダウンドライヴは効果を発揮せず強力な剣撃は超加速に満たされる二人を空中へ弾く。

 ソウジの肉体は呆気なく宙へと舞い、透かさずサーレストはエフィリズムの瞳を彼へと差し向けた。


「終わりだ小僧……発動」


 開眼__。

 もう逃すまいと禍々しい赤黒い瞳はソウジを捉えると同時に眩い光を放つ。

 地面へと落下を遂げる中、段々と彼の身体は指先や足先から青い粒子となって消え去っていき着地した時は既に肉体の半分は消滅していた。

 足、腕、肩、胴体、フレイ達と同様に身体は崩壊の一途を辿り、サーレストの視界にはまるで全てを諦めたかのようなソウジの微笑が映り込む。


「さらば、神の子よ」


 そう呟かれた頃には全てが崩壊、ソウジは人の形を保てなくなる。

 遂には髪の毛すらも青い残留思念の籠もった粒子は蒼に満たされる天へと舞い、場には彼が持つ万年筆と使用済みの頁だけだった。


「……ハッ、アッハハハッ、アッハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 高鳴る勝利の笑い声。

 無我へと達していた精神は普段の野心に溢れた形相に戻り、ようやく得られた勝利に感情は有頂天へと達する。

 残された万年筆と頁を取るとサーレストは嘲笑いと共に愕然に満たされるユラへと言葉を抉っていく。


「そんな……嘘でしょ」


「結局は非力な少年に過ぎない、私の未来、栄光を封じる力など持っていないのだ。君を含めて私の栄光を」


 詰んだ、完全に希望は閉ざされた。

 ユラがソウジがら耳打ちされていた内容を脳裏へと思い出していく。


「このイヤリングをつけてくれ、二人で奴に超高速でダメージを与えて瞳を奪う、ここが俺達の正念場……ミスれば後はない」


 先程の超高速にて奴に一定のダメージを与えた上で瞳と奇書を奪うという作戦。

 順調だった、あともう少しだけでも怯ませられれば奴から禁断の兵器を取り返すことが出来たはず。

 最後の戦い、正念場と念を押されていたからこそ絶望はより増大となってまたも敗れた事実はユラに伸し掛かった。


「ッ! 貴様ッ!」


 巻き込んだ上に消滅させてしまった、その罪悪感はユラの理性を蝕み怒りに身を任せる彼女はサーレストへと駆け出す。

 だがただ勢いに任せた攻撃などが通用するはずもなく、剣が司る重力によって軽々と弾かれてしまう。


「グッ……!?」


「らしくないな反逆の女神、いや仕方のないことではあるか。貴様のせいでまた一つの命を葬り去ったのだから」


 地べたへと突っ伏す彼女に追い討ちの言葉を掛けながらサーレストは即座に回復魔法を全身へと駆け巡らせた。

 蓄積されていたダメージは消え去り、また意識を手放していたアヴァリス達もやがては目を覚ましていく。


「妖精王……これは?」


「起きたかアヴァリス、だが案ぜよ、脅威は過ぎ去ったのだからな」


「なっ終わったのか!? そんなこの私が闘争せずに終局するなどッ!」


「許せフェネル、また次の時はお前へと存分に戦いの場を与えてやろう」


 脅威は過ぎ去ったと自分は眼中にないと言える言葉と勝利の余韻に浸る姿はユラの誇り高き心を蝕んでいく。

 自分一人では到底やりあえない騎士達に囲まれた彼女へサーレストは心なんてない音色を響かせた。


「エフィリズムの瞳、レベロスの鍵、そして創世の奇書、私はもう神の領域に足を踏み入れていると言えるだろう。誰も止められる者はこの世に存在しない。パラダイム・ロストを手に入れれば私の力は完全となる」


「ふざけるな……アンタが支配する世界なんてッ!」


「支配者は常に勝利者でもある。無様な敗北を喫した貴様に咎めの言葉を口にする資格など存在しない」


 彼女の目の前に立つと純白の剣を持ち上げ首を切り落とそうと刃先を向ける。


「貴様の首は奴らの戦意を喪失させる有効な切り札となるだろう、自らの顔で同胞を絶望に陥れるとはなんと悲劇か」


「クッ……ソ……!」


「さらば反逆の女神よ、絶対的強者に抗い泥をつけた罪を永遠に後悔するがいい、何も果たせなかった無念と共になッ!」


 絶叫が木霊すると同時にトドメの一撃は盛大に振りかぶられた。

 逃れるかとの出来ない剣にユラの心は自身の無力さへの懺悔へと包まれる。


(父さん……母さん……ごめんなさい、私は出来なかった……何も救えなかったッ!)


 どれだけ後悔しようと迫りくる致命の一撃が止まることはない。

 血管が浮き出る程に力強く逃げられた剣はユラの首筋を紅に染めようとする。


「消え失せろ、反逆の女神ィッ!」


 完全なる勝利。

 世界の覇権を握るのは人類でも英雄でも魔王でもない、誇り高き武と知を持つパフレリス族こそが最後の勝者に相応しい。

 終わった、終わったのだ、これでようやく支配への覇道を歩むことが出来る、世界の支配者への道を進められる。


(さぁ見せろ、より絶望の表情を、我らに敗北した屈辱に満たされながらッ!)


 サーレストは夢想する。

 勝った、我々は遂に勝ち取ったのだと湧き上がる感情を抑えきれそうにもないと口元が歪んだ……その瞬間だった。

 後方から思わず一閃を止めてしまうほどのプレッシャーが突然襲い掛かったのは。


「えっ?」


 心臓を握り潰すような威圧感。

 常に相手を屈服させていた彼に襲い掛かる恐怖にも似た何かにサーレストは思わず後方へと視線を向ける。

 瞬間、理解を行う前に彼の顔面には蒼き軌跡を描く衝撃が痛烈に強襲を仕掛け、瓦礫が舞うほどに壁へと叩きつけた。


「ぐおぁッ!?」


「はっ……?」


 誰もが起きた現象に理解が追いつかない。

 苦悶を意味する声は空間へと木霊し、ユラは吹き飛ばされた事実に呆気にとられる。

 誰かが何かをしたのか、しかしアヴァリス達へと振り向いても自身と同じく困惑に包まれる表情を浮かべていた。


「いやぁ〜辛気臭いっすねここ、まるで希望がありゃしないっす!」


 余りに場違い過ぎる能天気な声。

 幻聴でも聞こえているのかと思ったが後方から感じる人の気配にユラは恐る恐る声の主へと瞳に焼き付ける。


「はっ……?」


 何と形容すればよいのだろう。

 まるで天の川のように紺桔梗のメッシュが流れる透き通った黒髪に黄金色の瞳。

 まさしくJKの制服のようなカジュアルな衣服に被さる肩落ちされた派手な上着。

 丁寧に化粧された色白の美顔は見た者を一瞬にして吸い込んでいく。

 何から何までこの世界には見合わない独創性を持つ小悪魔の雰囲気を纏う美少女はトントンと履いているシューズで音を奏でた。


「だ……誰……?」


「おっ、貴方がユラさんっすか! いや〜めっちゃ可愛いっすね! 後で一緒に写真撮っていいっすか? いい感じに盛るんで!」


「は、はい?」


 わけのわからない事をハイテンションで話す謎の美少女にユラは唖然とするしかなく、吹き飛ばされた妖精王は突如現れた存在に声を荒げた。


「ゴハッ……! 貴様……何者だッ!?」


 突然の強襲者。

 意識が朦朧とする彼から放たれた問われた名前に髪を弄りながら美少女は言葉を返す。


「ちっす妖精王さん、私の名は繊月カリナ、創生の奇書によって誕生した刻と運命を司る魔法少女っす! よろしくっす〜!」


 魔法少女と名乗る享楽的美少女。

 妖精王の威圧も意に返さない謎めいた存在は絶望と荘厳に満たされる空気を自分勝手に吹き飛ばすのだった。

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