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第44話 反撃の狼煙

「盟主、先鋒部隊からヴァーリエン族のレジスタンスと思わしき部隊が行動を回避したとの報告がありました。徹底抗戦の構えを取ると見て良いでしょう」


「そうか、あの見るに耐えない蛆にしては勇敢なる行動だが絶大なる敗北へと自ら突き進んでいるだけだな」


「この闘いで全てが終わりますか?」


「終わるさ、同時に神の力を得た我々の覇権の始まりでもある」 


 己の権威をこれでもかと表す玉座。

 跪きながら紡いだアヴァリスの報告に若干驚きの顔を見せるも「自ら死にに来たか」と嘲笑うように口角を緩ます。

 手にした神の力の一端である創世の奇書を彫刻を観るように艶めかしい視線を向けながらサーレストは指示を送る。


「危険な反乱分子及びあの神の子は真っ先に殺害せよ、戦闘能力のない女や子供は一人残らず捕縛しろ、この奇書のいい実験材料になるだろうからな」


「老人などは如何なさいますか?」


「殺せ、奴らは老い故に直ぐ意識を手放してしまう、材料としても使えない汚物だ」


 全く悪怯れる様子もない、寧ろ正義の行いだと言わんばかりの形相は彼が辿ってきた蹂躙と強奪による栄光を裏付けていた。

 同じエルフながら道具としか捉えていないサーレストにとってどれだけ惨たらしく殺そうと良心が傷つくことはない。


「しかし、最後の無駄なあがきをここで待つのもつまらないな」


 勝ちは当然、しかしただここで部下の蹂躙を待つのも味気ないと言うもの。

 常に圧倒的優位とはいえ、少なからずこれまでに被害を受けたのもまた事実。


「アヴァリス例の物を、少しこの遊戯を観察したい気分になった」


「畏まりました」


 溜まったいたフラストレーションを発散すべく国中が一望できる屋上の庭園へと登るとサーレストは双眼状の機械を受け取る。

 一つ覗けば豆粒よりも微小な存在だろうと鮮明に表情までもを観察することが出来る優れた代物。


「やはり奴らの技術だけは手放しに賞賛できるものだな、こうして我々の物にする価値は十分にある」


「複式望遠鏡……確かそう言いましたか、彼等が持つ高い知能は非凡なものですね」


「だからこそ誇り高き我らの力となるべきなのだ、あの知性も憐れなる少年が有する神の力も、そしてパラダイム・ロストも全て上位種である我らだけが支配する権利を有する、魔王でも英雄でもない、最後の勝者は我らパプレリスなのだからな」


 吐かれていく底知れぬ野心。

 これまで目を光らす存在は全て我が物としてきたサーレストは魔王相手ですらも反逆を狙う機会を狙っていた。

 あくまで頭を垂れて従うのは覇権を手にするまでの仮初めの姿、エフィリズムの瞳に創世の奇書、更にはパラダイム・ロストとなれば誰かに従う道理などない。

 彼が待ち望んだ世界が顕現するまで刻一刻と近づくことに優越感は極限まで膨れ上がり、恍惚の色を浮かばせる。


「さて、では蛆による最後の舞いを存分に鑑賞させてもらおうではないか」


 双眼鏡へと目を当てたサーレストはレジスタンス出現と言われる箇所へと視線を移す。

 南南東の位置、緑が生い茂るエリアからは確かにハングライダーで空を飛翔する数十にも及ぶ存在がこちらへと迫っていた。

 中には反逆の女神、そして異界から転移されし神の力を有する存在もいる。


「ハルラ人工森林区域……なるほど、奴らはそこに潜んでいたのか」


「現在先遣部隊が進軍、後方にはフェネルを筆頭とした主力部隊が位置しています。捜索の手間が省けた以上、勝敗は数時間、いや数十分で決するかと」


「痴れ者が、憐れなる英雄と共に自ら死にに来たか」


 痴れ者、そう蔑むのも無理はない。

 圧倒的な数的優位に武力格差、追い討ちをかける切り札であるエフィリズムの瞳。

 素人が見てもどちらに軍配が上がるかを察するのは容易だろう。

 唯一の不安要素はまだ完全奪取していない創世の奇書だが逆に言えば相手も神の力を使えぬ状況にいる。


(この奇書がこちらにある限りは神の力を使うことは出来ない、あの蛆共にでも神の子と祀り上げられて血迷ったか……その愚行、地獄で後悔するがいい)


 何の変則性もなくただ真っ直ぐに宮殿へと天空から迫ろうとするレジスタンス達。

 先遣部隊は既に相手と目前まで接近を果たしており、迎撃の体勢を取り始めていく。


「死ね、我らの栄光の為にッ!」


 昂ぶる感情から吐かれたサーレストの言葉の直後、一斉に騎士達の剣からなる総攻撃が繰り出されていく。

 属性魔法を刃状に纏いながら放たれた高火力の乱撃は超高速で命の灯火を消滅させようと直線上に強襲を仕掛ける。

 さぁ……忌まわしき奴らが滅する所を見せてくれ、そう切に願うサーレストは段々と口角が上がり始めていく。


「はっ……?」


 だが、有頂天まで昇っていた感情は次の光景によって一気に鎮火されるのであった。

 思わず咄嗟に目を擦るがしかし何度見ようと変わることはない。

 確かに放たれた剣撃は……レジスタンスの肉体へと直撃することはなく、通り過ぎるように全て空を切ったのだから。

 先遣部隊も理解が追いつかないのか目の前の現状に場は混乱に満たされている。


「どういうことだ……アヴァリス」


 配下であるアヴァリスもまた、予期せぬ展開に酷く顔を歪ませる。

 絶対的な勝利と確信していた展開は瞬く間に崩壊の一途を辿るが時間は彼等の困惑を待ってはくれず更に追い討ちをかける。

 瞬間、耳を切り裂くような轟音に包まれたかと思うと騎士達が爆撃により、空中へと次々投げ出されるのが瞳に焼き付く。


「何……?」


「これは一体……」


 唯一分かるとすればこちらの軍勢が何の抵抗もなく、反乱分子のいいように鎮圧されている事だろう。

 レジスタンスの肉体に攻撃が当たらず、返って反撃を食らう現状に困惑する中、一人の騎士は慌ててサーレストへと跪く。


「ほ、報告致しますッ!」


 サーレスト妖精王親衛隊の内の一人。

 息を切らしながら顔面蒼白の形相を浮かべる姿は更に緊張感を走らす。


「先遣部隊からの電報です……現在、レジスタンスによる攻撃を受け、被害は五割にも登る壊滅的なものと。フェネル隊長率いる主力部隊も把握しきれないのが現状とのこと」


「まさか、レジスタンスの罠? いやあんな技術を有するなど聞いたことが」


 度重なる実験や技術獲得の為による拷問によって多数のデータを強奪してきた訳だがあんなものは聞いたことがない。

 ここに来ての新たなトリックにアヴァリスは困惑を隠せない。


「どうなっている……これは」


 考察したところでもう遅い。

 既に壊滅的な被害が生じている事にサーレストは力強く創世の奇書を握り締める。

 顔は正常ながらもプライドを傷付けられた隠しきれない怒りは抑えきれず、思わず周囲の者は威圧感によって呼吸が止まった。


 出し抜いたエルフ有数の騎士団。

 何故強者であるフレイ達をなくしてソウジは数的不利を覆したのか。

 作戦が予想以上に上手くいった結果に彼は物陰から口角を上げていく。


「凄い……貴方何をしたの?」


「あんな技術聞いたことないぞ!?」


「これが神の力だって言うのか?」


 森林区域へと進軍する騎士団を混乱に陥れたユラを筆頭とするレジスタンス。

 幾つもの小隊に分かれ、物陰から撃墜する戦法は功を奏している。

 非常に喜ばしいが同時にユラやフェザー達はソウジが作り出したトリックに疑問符を浮かべた。


「奴らと真正面から挑むのは無謀だ、だからこそあいつらが初見殺しをしたようにこっちも初見殺しをしたまでだ、あの高クオリティの幻想に騙されるようにな」


 数枚だけ手元に存在する奇書の頁にはこう力強い文字で刻まれている。


 【名前】

 バッドマッド・ビスクドール


 【概要】

 主に錯乱用として使用される人形兵器。

 平素はただの骨組み人形に過ぎないが予め対象の生物、または建造物や武器などをインプットさせることによって自由に姿を変態させることを可能としている。

 一度形状を変えた人形は使用者の意志によって命令通りに動くことが出来るが独自の攻撃能力はなくあくまで錯乱用の代物。

 また攻撃命令を下すこともできないが該当しない肉体の透明化やすり抜けなどの搦手は指示することで自動的に能力が付与され、使用者のサポートを行う。

 一度姿を変えた人形は使用者が任意で解除しない限りは永続的に活動を続ける。


「こいつで奴らの動きを欺いて騎士団に奇襲を仕掛けた、予想以上に上手くいってるのは嬉しい誤算だ」


 ラノベ作家としての創造力によるポテンシャルをフル活用したソウジ。

 攻撃能力を持たない代わりに錯乱として幅広い活用方法を有しているバッドマッド・ビスクドール。

 目には目を、初見殺しには初見殺しを、創造は無限大であり、現にこうして戦局の下馬評は崩れ去っている。


「カラクリに気付くまではあいつは有効だ、状況を見るに恐らくまだ奴らは考察すらも作れてない、しばらくは有益に働く。このままレジスタンスの人は奴らに奇襲を仕掛け続けて欲しい」


「お前はどうするつもりなんだ?」


「妖精王の所に向かう、俺が持つ奇書とアンタ達を苦しめてきたエフィリズムの瞳を奴から奪還する」


「なら俺達も一緒にッ!」


「駄目だ! アンタ達もついてきたら誰があの子供達を守ればいい? 」


「ッ……だがお前の奇書の力で」


「破った奇書の頁は計三枚、既に一枚はあのビスクドールに使ってしまった。身勝手なのは分かっている……だが残り二枚は妖精王対策に使いたいんだ」


 フェザー達の申し入れを拒否したソウジ。

 限られた枚数だからこそ感情で物事を決めるのは危険であって罪悪感を抱きながらも防衛に使いたくはない。

 合理的だが非情でもある決断、しかし重苦しい雰囲気を動かしたのは反逆の女神が放つ声であった。


「皆、彼の言うことに従ってあげて。現状あいつを倒せる可能性が一番高いのはソウジなのよ、ここは任せるべき……だけど私は貴方についていきたい」


「えっ? いや待て、それは!」


「奴は宮殿で待ち構えているはずよ、ならそこまでの最短ルートは確保したいでしょう? 私ならここの土地勘は全部頭に入れ込んでいる。大丈夫よ、リーダーとして死ぬ覚悟はとっくの昔から出来てるから」


 ソウジの制止も振り切ってついていくと決断を口にしたユラ。

 瞳に宿る覚悟は本物であり、実際に案内役がいる方が物事がスムーズに進む。


「……分かった、案内を頼む」


「えぇ、任せてちょうだい。フェザー達は定期的に奇襲箇所を移動することで相手に察知されないよう防衛に専念して」


 時間にして僅か数十分。

 瞬く間に覆る戦況による混乱を逃すまいとソウジ達は宮殿へと駆けようとする。


「待てッ!」


 だが決戦地へと向かおうとした矢先、後方からはソウジを止める声が鳴り響く。

 主はフェザー、何か言われるのかと思わず心を身構え始めたが。


「……すまなかった」


「えっ?」


「実験、殺戮、それを恐れてあいつらに寝返る同胞も多数いた、お前もまた同じかと思った、だがヤワに見えるが不思議とお前の瞳は裏切った奴らとは違う闘志を感じる。どうか奴を頼んだぞ」


「あぁ……任せてくれッ!」


 放たれたのは背中を押す激励。

 理由はどうあれ曲りなりにもこちらを信用してくれた言葉を噛み締めるとソウジはユラと共に本陣へと駆けていく。

 彼女のハングライダーを駆使した空中からの疾走だが主力部隊も完全に視界が森林区域へと向けられている以上、迫りくる脅威に気付くことはない。


「今しかチャンスはない、このまま全速力で駆けるわよッ!」


 歓楽街のど真ん中を飛翔する大胆不敵な行動に事情も知らぬ民衆は何事かと阿鼻叫喚に包まれるが知ったことではない。

 その騒がしさに万が一と周辺区域に配備されていた一部の騎士達はソウジ達の存在を察知し、迎撃に向かい始めるが振り切っている二人を止めることは出来なかった。


「なっあいつは反逆の女神!?」


「まさか……あの騒ぎは陽動かッ! チッ、おい今直ぐ奴らをここで」


「邪魔よッ!」


 一手先を行くユラは抜剣される前に爆炎の効果を付与された投げナイフを目の前へと素早く投擲し、相手を吹き飛ばす。


「ぐぉぁっ!?」


 正確に放たれたナイフは瞬時に騎士達の鎧を粉砕し、無力化の図りに成功する。

 怯んだ隙に急旋回から再加速、ユラは再び飛翔する体勢に入ると全ての根源が位置する牙城へと突入していく。


「ソウジ、準備はいい?」


「あぁ、とっくの昔にッ!」


 失われた誇りの為に。

 奪われた力の為に。

 パラダイム・ロストを得る為に。

 全員で元の世界と帰る為に。


 理由は違えど同じ敵を持つ二人は決意を固めると謁見の間に存在するステンドグラスへと迷いなく突貫を仕掛けた。

 ガラスは恐れを知らない命懸けの体当たりによって大きくヒビを生み出しやがては粉々に砕け散る。

 地面へと突撃する直前、ソウジの首根っこを掴んだユラは豪快にそして優雅にその場へと着地を遂げた。


「まさかここまで到達するとは、理由は知らんが全く悪運に恵まれている者達だ」


 瞬間、ドスの効いた声色は沈黙に包まれる豪華絢爛な場へと響き渡り、後方からは殺意の形相が悪寒を走らせる。

 振り返った先には心の籠もってない拍手を披露する全ての元凶の姿。

 圧倒的な威圧感、だが今のソウジとユラが屈することはない。


「また会ったな……クソ妖精王さんよ」


「その顔、いつ見ても反吐が出るわね」


 面と向かうのは妖精王サーレスト。

 開口一番煽りの罵倒を放った二人は燃える闘志を宿した瞳で睨みを利かす。

 これまでのしてやられた怒りを込め、ソウジは激情を木霊させるのだった。


「サーレスト、お前をここで討つ、もう悲劇を生ませやしないッ!」

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