目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第10話・卑怯


「……で? 何の用だ?」


俺は電話先の相手にぶっきらぼうに答える。


『あなたね、お兄ちゃんを追い返したんですって!?

 ろくに話も聞かないで……いったいどういう事なの!?』


通話の向こうは俺の母だ。先日、クソ兄貴を追い返した事への

クレームを言いにかけてきたらしい。


「どうもこうもねぇだろ。俺もアイツももう30過ぎだぞ?

 兄だ何だって威張られても困るんだよ」


『あなたね!! お兄ちゃんが、お兄ちゃんがどうなっても

 いいのね!?』


そこで悲劇のヒロインのように泣き始める。恐らくは周囲に

親戚か誰かいるのだろう。

こうやって俺を悪者にする、昔からのいつもの手口だ。


多分、俺が祖父の実家を買った事も親戚筋から教えてもらったのだろう。

このヘンは仕方無いと思っているし想定済みだが。


それで勘違いして先走って来た正義マンのようなバカを、

何度撃退した事か……そして俺は気を取り直し、


「だいたいアイツ高校卒業以来ずーっとニートだろ。

 すでにどうにもならないじゃねぇか」


『そんな事を聞いているんじゃないわよ!!

 お兄ちゃんのために何かしてあげようとは思わないの!?』


「ない。少なくともいきなり暴力や脅しで来るようなアホを

 助けようとは思わん」


第一、本当にアイツが何の用で来たのかわからない。

別段興味も無いが。


『……ケッ。裏でコソコソと空手や柔道の練習しやがってよぉ。

 そりゃ素人相手なら100%勝てるもんなぁ。

 卑怯だと思わねーのかよ、あぁ~ん?』


どうやら亮一りょういちもいたらしい。

母からバトンタッチして、相変わらず人の良心に付け込むように

俺を責める。


「体格差が身長15cm、体重30kg以上もあるのをいい事に、

 人を散々サンドバッグにしてくれたのは卑怯じゃねぇのか?」


さすがに通話の向こう側でいいよどむが、少し遅れて、


『それならテメーも一緒だろうが!!

 空手柔道を学んだのをいい事に、俺に暴力を振るったんだからな!!』


そこで俺は大きくため息をつき、


「俺が自分から仕掛けた事は一度もねぇんだよ。誰かさんと違ってな。


 いいか、お前と一緒にするな。それこそが最大の侮辱だ」


俺は反撃しかしておらず、しかも取り押さえたのはあの一度キリだ。

(■7話 異常と正常参照)

それから亮一は俺に暴力を振るう事はしなくなった。


仕掛けられなければ反撃はしない。

つまり、クソ兄貴が暴力を止めた時点で俺がアイツに暴力を振るう事は

一切無かったのだ。


「しっかし情けねぇなあ、オイ。


 俺に殴る蹴るをいったい何百何千回やって来た?

 それでたった1回反撃されただけで大人しくなるのかよ?


 まぁ俺は理不尽な暴力を振るう事が―――

 どれだけ卑怯で汚くて、ずるくて陰険で陰湿で、カッコ悪く

 みっともないか……


 誰かさんを見てよーくわかっているからなぁ?

 だからそこは心配しないでいいぞ?」


そこでガン!! と物理的な衝撃音が伝わって来た。

電話の子機か何かを投げたのだろう。

これで人の事をガキだ何だと言うのだから恐れ入る。


そして俺はかかってきた番号を着信拒否し―――


「ミツー、どうしたの?」


「電話していたようだべが」


人間の子供姿の倉ぼっこと川童かわこが仕事部屋に入ってきて、


「別に何でもない。


 それより、そろそろお昼にするか。

 何か食べたいものはあるか?」


「あのねー、野狐やこちゃんが野ネズミの天ぷら食べたいって」


「そりゃまたハードル高いなぁ」


「材料はもう獲ってきたって言ってたべ」


こうして俺は台所へとみんなで移動し始めた。

人外の方がウチの家族よりよっぽどマシだな、と思いながら……



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?