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ロートルの妖怪同伴世渡り記
アンミン
現代ファンタジー異能バトル
2024年11月22日
公開日
6,707文字
連載中
【カクヨムコン9・中間選考突破作品】 主人公、安武満浩はとある東北の 山奥にある村にやって来ていた。 母方の祖父が亡くなり、その実家を巡って 押し付け合いが勃発。 それに嫌気がさした彼は、土地と家をそのまま 親戚から買い取った。 しかしそこは、人間以外の住人がいて―――

第1話・庭付き・人外の同居人付き


「電気もガスも水道も俺名義の口座に切り替えたし―――

 トイレも水洗だし、何とかなるかな。


 ネット回線はケーブルTVの契約と一緒にするか」


東北のとある山奥の家で一通り荷物を解き、軽く家の掃除を

終わらせた俺は縁側へと腰かける。


俺の名前は安武やすべ満浩みつひろ

36才アラフォー独身。中堅どころのアプリ開発会社の社員。


そしてここは俺の爺さんの家だ。


家と言っても土地だけは有り余っている地方の事。

二階建てだが、台所や風呂トイレを抜かした部屋数だけでも

八つほどある。

しかもその1つ1つが広いと来たもんだ。


そして今は、その所有者は俺という事になっている。


爺さん……母方の祖父が亡くなったのはもう1年も前だが、

そこで遺産争いが起こった。


祖母は爺さんよりも10年以上前に亡くなっており、

畑や山は家族やら親戚やらに配分されたものの、

最終的に実家の土地と家をどうするかで揉めに揉めたのだ。


しかし話をよく聞いて見ると、そもそも地方の山や畑など

二束三文の価値しかない。

爺さんの家だって土地も含めて、売却してもせいぜいが

30万くらいにしかならないという。


じゃあ何でその程度の金額で揉めているのかというと―――

畑や山は即座に売り払ったものの、さすがに母を始め息子・娘たちは

自分たちが生まれ育った生家も売却しろ、とは言い出せず、


名目上は長男が継いでいたが維持管理は面倒でするつもりも無く、

誰に押し付けるかで争いまくってはや1年が過ぎ、


余りのくだらなさに俺が30万円を親戚どもに叩きつけ、

その代わりに所有権を譲ってもらったのである。


「まさか爺さんも自分が死んだ後、こんな事になるとは

 思っていなかっただろうな」


毎年夏休みになると、この家によく遊びに来た。


山で、川で―――

遠出をすれば海もあり、数少ない自分の幸せな思い出だ。


「そういえば土蔵もあったっけ。

 野生動物が入り込んでいても嫌だし、確認しておくか」


そこで俺は、離れにある土蔵へと足を向けた。




「ここの二階、まだ大丈夫かな」


売れる物はすっかり売り払ったのか、ガランとした空間の中で

ハシゴが目に入り、それに手をかける。


上がるとそこは小部屋になっており、エアコンとPC、ゲーム機、

それにベッドと机などが設置してあるはずだ。


高校生になってアルバイトで自分で自由に出来る金を稼げるように

なると、田舎に来る度に俺が手を加え―――

ちょっとした秘密基地のようで、年々グレードアップさせていくのが

楽しみだった。


そして俺が二階に到着し、小部屋の扉に手をかけて開けようとした途端、

思わずその動作が止まる。


扉、引き戸の隙間から光が漏れている。


電気はもう通じているが、ここに上がるのは今日来て以来初めてである。

前回来た時に電気を消し忘れた可能性もあるが……

部屋の向こうに何かがいる気配を感じ、それが扉を開けさせる事を

ためらわせる。


耳をすませると、人とも動物の鳴き声ともつかない声が聞こえて来る。

扉越しではよく聞こえないが。


泥棒か!? それとも野生動物が寝床に―――

この辺りに熊が出たなんて話は聞いた事が無いが……

しかし考えてもらちが明かない。


俺は後ろのハシゴを振り返り、逃走経路を確認する。

もし何かと鉢合わせしても、たいした高さではないし飛び降りて逃げれば

大丈夫なはず。


そして意を決して扉をゆっくりと開けると……


「ちぇっ、電気が付いたから久しぶりにネット見れると思ったのに」


「まだそっちは復旧してないんじゃねぇべか?」


「ホントもー、人間の使う物は面倒くさいなー」


そこにいたのは、こちらに背中に向け座っている2人……

いや2つの後ろ姿。


1つは昔ふうの着物を来た、10才前後の子供。

もう1つはほぼ全裸の、自分の知識内でいうなれば『河童かっぱ』。


そいつらが備え付けのPCに向かい、あれこれ話し込んでいた。


「お? 満浩みつひろか?」


昌兵衛まさべえの孫か!

 大きくなったなー!」


三十代半ば過ぎのアラフォーに大きくなったも何も無いと思うが。

いや、その前に―――


「初対面だと思うが、どこかで会ったか?

 俺は都会から出てきたばかりで、初めてなんだよ妖怪を見るのは」


人外を前にどうかと思う質問だが、それ以上の対応が

口から出て来なかった。


すると彼らは顔を見合わせてから笑い、


「これならわかるか?」


「オメーとは昔っから遊んでいるぞ?

 夏限定だべが」


くるりとその場で振り向くように回転したかと思うと、

そこには普通の洋服を着た10才くらいの、中性的な顔をした

肩まで髪を伸ばした少年と、


肌の浅黒い、日焼けしていかにも遊び回っているような

わんぱく少年の姿があった。


そこで俺の記憶と彼らの顔が繋がる。

名前は思い出せないが―――


そう、彼らとは何度となく遊んだ事がある。

この田舎に来る度に、他の子供たちと一緒に泳いだり釣りをしたり、

虫を捕まえたりした……


「思い出した!! 久しぶりだなー!」


俺の言葉に彼らは満面の笑顔となるが、


「だが不法侵入だ」


そして彼らは口をポカンと開けた。


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