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第60話 久しぶりの我が家

「カレン!! 会いたかったー!」


 使用人のエマがカレンに飛びつき、二人は笑顔で抱き合った。

「私も会いたかったよー! お土産がなくてごめんね。急だったから……」

「何言ってるの! カレンが無事に帰ってこられたんだからいいのよ!」


 アウリス騎士団の館に帰って来たカレンは、馬車から降りた所で出迎えたエマと再会を喜び合っていた。


「……あ! エリック様。お帰りなさいませ!」

 二人を笑顔で見つめるエリックに気づいたエマは、慌ててエリックに挨拶をした。

「僕がいたこと忘れてたでしょ? エマは薄情だなあ」

「申し訳ありません! 忘れてたわけではないんですけど」

 ニヤニヤしているエリックに、エマは焦ったように取り繕う。


 ブラッドの弟、ジェフリーは馬を預け、カレンのそばへやってきた。

「カレン様を無事に送り届けられて良かったです」

「長旅ご苦労様でした。ジェフリー様、今日は館に泊まるんですよね?」

「はい。兄と久しぶりに話したいですしね」


 エマはジェフリーに声をかけた。

「ジェフリー様。お疲れでしょうから、皆様も一緒に中へどうぞ。ホットワインを用意してありますよ!」

「それは有り難い。体がすっかり冷え切ってしまいましたから」

 ジェフリーは嬉しそうな顔で、仲間の騎士らと笑みを浮かべた。


 エマがジェフリー達を館に連れて行こうとした時、エリックがエマを呼び止めた。

「ねえエマ。そういや、ブラッドは?」

「ブラッド様は、今は多分教会のセリーナ様の所にいると思います」

「ああそう、相変わらずだね」

 エリックは苦笑いし、隣のカレンに視線を送る。カレンは思わずさっとと目を逸らした。


「さあ、僕達は教会に行こうか。オズウィン司教がカレンの帰りを待っているからね」

「今からですか?」

 ちょっと嫌そうな顔をしているカレンを見ながら、エリックはいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「オズウィン司教の所に行くだけだよ。ブラッドにうっかり会う心配はないさ」

「別に、そんな心配してません」

 カレンはすました顔でさっさと歩き出した。



♢♢♢



 教会のオズウィン司教の執務室に入ったカレンとエリックを、オズウィンは笑顔で出迎えた。

「カレン様、ご無事で何よりです」

「オズウィン司教、お久しぶりです」

 カレンは膝を軽く下げ、オズウィンに挨拶をした。


「エリック様もお疲れでしょう。国王陛下のご様子はいかがでしたか?」

「相変わらず父上は嫌味ばかりだよ。疲れる話ばかり聞かされてうんざりさ」

「はは……陛下はエリック様のことがご心配なのでしょう」

「僕が思い通りにならないから腹を立ててるんだよ……僕のことより、セリーナ様の容態はどうだい?」


 エリックは自分の話から話を逸らすように、セリーナのことを尋ねた。

「……あまり良くないようです。未だ、討伐には出られていません」

 オズウィンは暗い表情で首を振る。

「どうしたんだろうねえ、筆頭聖女様は?」

 エリックは何か言いたげな顔でちらりとカレンに目をやる。


「魔物討伐の方は大丈夫なんですか?」

 カレンが尋ねると、オズウィンは頷いた。

「他の聖女様が頑張ってくださっていますから、今のところは問題はありません。ですがこの状況が長引くようですと、筆頭聖女の交代も考えなければならないかもしれませんね」


「ちょうどいい、この機会にカレンを筆頭聖女にしたらいいじゃない」

 カレンは(何言ってんの!?)と心の中で叫びながらエリックを睨んだ。


「いえ……カレン様にはできるだけ目立っていただきたくありません。筆頭聖女には別の方にお願いすることになるかと思います。そうならないことを祈りたいですが」

 オズウィンはため息をついた。


「そうだ、カレンのことなんだけど……これまで通りに騎士団で預かることにするからね」

「何故ですか? エリック様」

 エリックの言葉にオズウィンは戸惑う。

「ディヴォス教会でカレンはほぼ軟禁状態だったんだ。騎士団の館にいた方がカレンの精神状態も良くなるよ。セリーナ様の二の舞はごめんだろう?」

「そ……それは確かに。ですがカレン様は我が『アウリス教会』の聖女様なのですから、いつまでもそちらで預かっていただくというわけにも……」

 オズウィンは困惑しながらエリックに訴える。


「あまり言いたくなかったけどね、カレンが王都に連れていかれた原因は、セリーナ様にあるんだよ」

 あっさりとセリーナのことを話すエリックに、カレンは驚いて思わず彼の顔を見た。


「セリーナ様に原因とは、一体どういうことでしょう?」

「彼女がアラリック大司教に手紙を書いていたんだ。カレンはディヴォス教会にいた方が役に立つとね。聖なる炎を持つ聖女を、みすみす王都の教会に渡すようなことをしたセリーナ様がいる所に、大事なカレンを置いておけないってことだよ」


 エリックの表情が厳しくなった。いつも穏やかに微笑んでいるような表情の彼が、怒ったような顔でオズウィンを見つめる。


「セリーナ様が!? そうですか……確かに、ディヴォス教会が急にカレン様を連れてきて欲しいと手紙を寄越してきて、妙だとは思ったのですが……でも何故、セリーナ様がそんなことを?」

「それはあなたが直接セリーナ様に聞いてみてよ。とにかく、カレンは騎士団で預かるからね」


 オズウィンは顎に手を当てて唸った。

「そうですね……しばらくの間、騎士団にカレン様をお願いすることにしましょう。エリック様にはカレン様の護衛騎士をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 エリックは護衛騎士、という言葉を聞き一瞬目を輝かせた。

「僕がカレンの護衛騎士を? ……それは光栄だね。謹んでお受けするよ」


「エリック様が私の護衛騎士になるんですか?」

 カレンは驚きながらエリックを見る。

「そうだよ。カレンはアウリス教会にとって最も大事な聖女様だからね。専属の護衛騎士をつけないと……それとも、僕が護衛騎士じゃ不満かな?」

 エリックはいつもの笑みを浮かべた顔で、カレンの顔を覗き込んだ。

「……いえ、不満ではないんですけど、護衛騎士とか大げさな気がして……」

 戸惑うカレンに、オズウィンが笑顔を浮かべる。


「カレン様は既に筆頭聖女に匹敵するほどの方です。護衛騎士を決めるのが遅すぎたくらいですよ。今後はエリック様があなたのことをお守りしてくださいますから、安心して騎士団の館で過ごしてください」


「分かりました……エリック様、よろしくお願いします」

 カレンが戸惑いながらエリックの顔を見ると、エリックは嬉しそうに頷いた。

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