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第45話 後始末

 魔物は次々と騎士の手によって倒され、ようやく裂け目から魔物は出てこなくなった。


「魔物は撤退したようだ。聖女様を呼べ」

 サイラス団長の指示で、聖女達は騎士に守られながら裂け目の近くまで連れてこられた。カレンも勿論一緒である。


 地面に出来た裂け目は大きく、見える地の底は漆黒の闇。裂け目の周囲は瘴気が漂い、草木は全て枯れている。


 ブラッドはカレンの隣に立った。

「後はこの裂け目を閉じ、土地を浄化すれば討伐は終了だ。ここからは聖女様に頑張ってもらうしかない。カレン、よろしく頼む」

「……分かりました」

 カレンは裂け目を見つめながら頷く。

「初めてのわりに、カレンは落ち着いてるな。普通、初めて来た聖女は魔物を見て怯えたり、泣いたりするものだが」


「……セリーナ様も、そうでした?」

 カレンが不意に発した言葉に、ブラッドの目が動揺で泳いだ。


「……そうだな。泣いたりはしてなかったが、怯えていた。彼女が最初に魔物討伐に出たのは十五の時だから、まだ子供だったし仕方がない」

「その頃から、セリーナ様のことを知ってるんですね」

「まあ……そうだ」

 ブラッドは戸惑ったような顔でカレンに答える。

「そうですよね、セリーナ様とは長い付き合いですもんね」

 ブラッドが何か言おうと口を開いた時、エリックが「カレン! 早くこっちに」とカレンを呼んだ。


「はい! 今行きます」

 カレンは慌ててエリックの所へ駆け出して行った。




 カレンは他の聖女達と共に、裂け目の更に近くまで行く。騎士達は聖女達から少し離れ、彼女達を見守っている。

 カレンの足元ぎりぎりまで大地の穢れがある為、騎士はここまで来られない。聖女達は目を合わせ、同時に両手を前に突き出した。聖女達の手から放たれた青白い光が、真っすぐ裂け目の中に飛んで行く。

 地鳴りが響き、割れた地面が徐々に元に戻っていく。辺りが揺れる中、倒れないように踏ん張りながらカレンも両手をかざし続けた。


 その時、裂け目の中からカレンは気味の悪い気配を感じ、全身に鳥肌が立った。


(なに……これ?)


 聖女に封じられようとしている裂け目から、それに抗うように人の悲鳴のような音がした。


 怒り、悲しみ、嫉妬、恥、欲望、ありとあらゆる人間の闇の心が真っ黒な塊となり、カレンに襲い掛かってくる。


 カレンは焦って隣の聖女に声をかける。隣の聖女は首を傾げ、口を動かして何か話しているようだが、裂け目の音がうるさく全く聞こえない。


(私にしか聞こえてないの……?)


 カレンは更に祈りを強めた。すると彼女の身体が青い炎に包まれ、一気に燃え上がった。カレンの身体を包んだ炎は、そのまま地面を走り裂け目の中に入っていく。


「カレン!」


 カレンの耳に、ブラッドの声が聞こえたような気がした。気が遠くなりそうになりながら、カレンはなんとかその場に踏ん張っていた。裂け目の中に入った青い炎は爆発的に広がり、強い光を発して周囲を包んだ。


 あまりの眩しさに、その場にいた全員が目を閉じた。




 ようやく光が収まり、再び目を開けた彼らの前に広がっていたのは、何事もなかったように閉じられた裂け目と、すっかり穢れが払われた大地だった。




 全てが終わった後、その場に倒れそうになるカレンにブラッドが駆け寄り、彼女の身体を支えた。


「大丈夫か? カレン」

 心配そうに顔を覗き込むブラッドに、カレンは「大丈夫です」と弱々しく微笑む。


「良かった……またノクティアの時みたいに倒れるかと」

 ブラッドの顔には不安の色があった。

「カレン! すぐに馬車に戻って休もう」

 エリックも慌ててカレンに駆け寄る。カレンの手を取ろうとするエリックに、ブラッドは「俺が馬車まで連れていく」と言い、カレンの身体をひょいと抱え上げた。


「えっ、あの……大丈夫です、一人で歩けますから」

「無理するな」

 ブラッドは何故か怒ったような顔で言い、カレンを抱えたまま歩き出した。エリックはあっけにとられた顔で二人を見送る。


「すみません……」

 ブラッドに抱えられて歩く姿を、騎士や聖女達がみんな見ているのだ。カレンは恥ずかしさで耳まで赤くなっていた。


「お前は少し、力の使い方を覚えた方がいいな」

「はい……」

 カレンは小さな声で答えた。

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