数日後、普段通りに仕事を続けていたカレンは、夕食の時間が終わった頃にアルドに呼び出され、ブラッドのいる副団長室に向かった。
「失礼します……」
中に入ると、机の上で手を組んでいるブラッドと、机の前で腕組みしながら立っているエリックがいた。基本的に夕食が終わると騎士としての時間は終わり、それぞれ自由に過ごすのだが、彼らはまだ働いているようだ。
「来たか、カレン」
ブラッドに手招きされ、カレンはブラッドの前に立つ。横に立つエリックはニコニコしながら「やあ、カレン」と顔を覗き込んだ。
「エリック、ここからはカレンと話すからもう帰れ」
「僕も残るよ。今回のことは僕も少しは関係しているみたいだしね」
ブラックはため息をつくと「……まあいい」と呟いた。
緊張気味に立っているカレンに、ブラッドは話し始めた。
「ラグナルとソーンの処分が決まったから、カレンにも伝えておこうと思って呼んだんだ。あの二人はノクティア騎士団に行ってもらうことにした」
「ノクティア騎士団?」
首を傾げるカレンに、ブラッドは頷いて話を続ける。
「ノクティア領は北の国境に接する。ノクティア騎士団は魔物討伐の他にも、国境警備や山賊との争いなどがあって、傭兵もいるんだが人手が足りないんだ。騎士の派遣は常に歓迎されている所だ」
エリックは笑みを浮かべながらブラッドに続く。
「ノクティア騎士団はね、各領地から騎士を集めているんだけど……国境沿いに出る山賊は荒っぽい連中でね。そういう奴らと渡り合える『荒っぽい騎士』が求められているんだよ」
「ああ……なるほど」
エリックの意味ありげな笑顔に、カレンは納得したように頷く。つまりは「厄介払い」ということなのだろう。
「ラグナルとソーンの二人は、ノクティア領の国境警備に就いてもらうことになるはずだ。お前と会うことはもうないだろう」
カレンは思わず背筋を伸ばした。
「はい、ありがとうございます」
「二人の処分は以上になる。それともう一人、処分をしたからお前に伝える」
「もう一人ですか?」
「針子のアメリアだ。彼女には騎士団の仕事を辞めてもらった。もうここにはいないよ」
エリックは眉を下げ、カレンに話しかけた。
「僕のせいでカレンが逆恨みされたみたいだね。ごめんね」
「アルドに調べてもらった。カレンに関する不名誉な噂は、アメリアがある騎士に話したことが広まってしまったらしい。そのことを真に受けたラグナル達が、カレンを襲おうと計画を立てたようだ」
「不名誉な噂って何ですか?」
大体想像はつくが、一応ブラッドに聞いてみる。
「……カレンが騎士を誘っているという噂だ。だが実際は、誘っていたのはアメリアだったというわけだ」
「あの女ぁー……」
カレンは思わず悪態をついた。こちらから何かしたわけでもないのに、勝手に恨まれて変な噂を立てられて、あげくに襲われるところだったのだ。カレンの怒りは当然である。
「カレンの噂は俺が騎士達に訂正しておいたから心配するな。これで奴らがお前にちょっかいを出すことはもうないはずだ。安心してくれ」
「ありがとうございました。ブラッド副団長」
「気にするな。仕事中に呼び出して悪かったな。戻ってくれ」
「はい、失礼します」
カレンは二人に軽く頭を下げ、副団長室を出て行った。
(騎士団の規律が厳しいのは、なんとなく分かるけど……まさか首ホクロ女まで首にするなんて)
カレンはブラッドの容赦のなさに、少しの恐ろしさを感じたのだった。