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第13話 聖女リディア

「それじゃ、また会いましょうね」

 セリーナとの面会が終わり、カレンを見送る為セリーナは部屋の出口までカレンと一緒に来ていた。


「はい、いつでも呼んでください!」

「外までうちの侍女に送らせるわ」

「大丈夫ですよ! 一人で帰れますから」

 セリーナは心配そうに首を傾げる。

「遠慮しなくていいのよ? ここは少し入り組んでいるの」

「大体分かるので、平気です」

 カレンは自信たっぷりに言い切り、セリーナと別れて部屋の外に出た。



♢♢♢



 しんとした廊下を一人歩いていたカレンは、ふと立ち止まった。


(帰り道が分からん!)


 来るときはアルドがいたので、彼に着いていけばよかった。階段を上り、右へ左へと何度も角を曲がった記憶はある。

 セリーナに自信満々に言ったものの、実際に歩いてみたらどこを歩いているのか全然分からない。とりあえず、微かな記憶を頼りに進んでみる。セリーナの部屋は教会の入り口から最も遠い場所にあるはずなので、階段を下りて下に向かえば、いずれ外にたどり着くはずなのだが……。



(永遠に教会から出られなくなった……!)



 しばらく歩き回っていたカレンは、完全に道に迷っていた。ただ外に出たいだけなのに、いつの間にか薄暗い広間みたいな場所に出たり、さっき通った廊下をまた歩いたりしていた。


(私は『永遠に教会をさまよう幽霊』として今後伝説になるんだ……)


 廊下にへたり込み、がっくりと肩を落としていたカレンに、通りかかった女が近寄って来た。


「あなた、どうしたの?」


 驚いてカレンは話しかけてきた女を見た。その女は聖女のようで、淡いブルーグレーの聖女服を身に着けていて、隣には侍女らしき女を連れている。


「あ、すみません! ちょっと道に迷っちゃって……外に出たいだけなのに延々と同じところをぐるぐるしてて」

 カレンは慌てて立ちあがった。女は一瞬不思議そうな顔をした後、すぐに微笑む。

「ちょうど私も下へ行く所だから、良かったら下まで案内しましょうか?」


 聖女様……! と叫びそうになるのをぐっとこらえ「いいんですか!? ありがとうございます」とカレンは女に礼を言った。


「構わないわ。ここ、初めて来る方は良く迷われるの。聖女を守る為に複雑な構造にしているとか言うけど……本当の所は、私達を閉じ込めておく為かもしれないわね」


 女は涼し気な目元をした美しい女で、ちょっと教会を小馬鹿にしたように笑った。彼女のその様子が不思議で、カレンは女に興味を持った。


「あの、私はカレンと言います。騎士団の館で使用人をしていて……」

 歩きながら、カレンは自己紹介をした。

「私はリディアよ。失礼だけど、カレンはどうして一人であんな所にいたの?」

「セリーナ様に呼ばれて、さっきまでセリーナ様のお部屋にいたんです」

「セリーナ様に……?」

 一瞬考えたリディアは、すぐに思い出したように「ああ!」と言った。


「ひょっとしてあなた、聖女の霊廟で見つかったとかいう、あの……?」

「ええ、まあ、そうです」


 リディアは何故か目を伏せ、ふっと笑う。

「そうなのね。あなたも私と同じように『教会に囚われた』ということなのね」

「あの……」

 なんて答えていいか分からず戸惑っているカレンに、リディアは笑みを浮かべた。


「初めて会った方にこんなことを言ってごめんなさいね。でもあなた、どこか遠い国からやってきたんでしょう? セリーナ様に聖女かもしれないと言われ、騎士団の館に閉じ込められている……」


 カレンの胸がどくんと鳴った。確かに、わけも分からずに大きな塀の中に閉じ込められ、外に出ることも許されない暮らしをしている。


「……でも、何も分からずに外に追い出されるよりはマシかなと思ってます。生きていく為には、こうするしかないと思ったので」

 リディアは目を見開いた後、首を振った。

「そうよね。あなたの事情も分からないのに、勝手なことを言ったわ……ごめんなさい」

「いえ、気にしないでください」


 しばらく歩いていると、見覚えのある大階段の所までやってきた。

「ここを下りれば、後は教会の外までは真っすぐに進むだけよ」

「本当だ、確かにここを通りました……! リディア様、ありがとうございます」

 カレンは目を輝かせ、リディアにお礼を言った。


「いいのよ。カレン、今度私の部屋にも遊びに来て。あなたの話をもっと聞きたいわ」

「あ、はい! ぜひ!」


 リディアは微笑みながら、カレンと別れ侍女と歩いて行った。リディアはなんとなく、セリーナとは違うタイプの聖女に見えた。セリーナは聖女であることを受け入れて暮らしているが、リディアは教会に身を委ねることに反発心があるように見えたのだ。


──あなたも私と同じように『教会に囚われた』ということなのね──


 そう話す彼女の瞳はどこか、悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。

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