………月日は流れ、シュラウドは王として即位した。
多くの国民から慕われた王は、ヘスティアをただ一人の妃とし、3人の子にも恵まれた。
王は生涯彼女を愛し続けたという。
彼はそこまで書き綴り、筆を置きました。
彼の仕事は、王族の記録係です。
シュラウドが生まれ落ち、産声を上げたその瞬間からずっと、彼は1日も欠かすことなく静かに記録を取っていました。
「シュラウド陛下!万歳!」
「ヘスティア皇后!万歳!」
「リカルド王子!万歳!」
外の民衆が大きな声で叫ぶ声が聞こえて彼は手を止めると、ヘスティアが第一王子の生誕祭に沸く民衆に穏やかに手を振って笑っています。
大歓声を受けながらヘスティアは、腕に生まれたばかりの我が子を大切そうに抱いて民衆の声に答えていました。
雲一つない晴天から降る光に照らされる彼らを見て彼は言葉を失いました。
「ふふ、この子ったらこんなに皆に愛されているのに呑気に寝ているのよ」
「誰に似たのか随分と寝汚いようだな」
「貴方にそっくりでしょうシュラ?」
時折、隣に立つシュラウドと言葉を交わす姿は幸せそのものを絵に描いたようでした。
祝福のバグパイプが鳴り響き、子守歌が流れる穏やかな時間。
白い鳩が飛び立ち、国を挙げて祝福の声が響くと、第一王子は堰を切ったように泣き出しました。
「ふ……ふぎゃぁーふぎゃぁー!」
「大きな音に驚いたか?」
「いいえ、きっと誰かに似てお腹が減ったのね」
目覚めた第一王子をあやしながらヘスティアが、民の声に応えたりと忙しなく動きはじめます。
シュラウドはそんなヘスティアを一等大切な宝物をみるような眼差しで見つめていました。
誰が見ても直ぐにわかる慈愛に満ちた眼差しでした。
美しい光景だ。
思わずまなじりを下げて彼はその一枚絵の聖母子像のような光景に感嘆しました。
日を受けて光り輝く3人の姿は、彼がこれまで目にしたどんな物より美しい物でした。
本来なら立ち入ることすら許されない場所で彼だけが見られる景色。
彼は仕事も忘れて見入っていました。
「ティア、そろそろ中に入ろう……リカルドはもう限界だろう」
「そうね……」
ヘスティアの腰を抱き、シュラウドが部屋に入って来ると彼は自分の仕事をやっと思い出す事が出来ました。
(いけない、これでは後世にシュラウド様のお姿を残せなくなってしまう)
彼が慌てて筆を取り、ヘスティア達の行動を記そうとしたその時でした。
シュラウドはふと、そんな彼に目をやりました。
口先だけで何かを告げてシュラウドは彼に向かって晴れやかに笑いかけたのです。
――お前のおかげだ、礼をいう。
それは、シュラウドから彼に向けられた音のない感謝の言葉でした。