目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第10話 いざ、オフイベントへ!

■秋葉原駅


 GWである5月3日、イベントが開かれる秋葉原UDXだ。

 PVの制作者が斎藤部長であることを知ってから、当たり障りのない会話しか部長とはしておらず、今日もどんな顔をしていいのかわからないくらいである。


(こんな状態で部長と二人でイベント視察というのもなぁ……どうしよ)


 秋葉原駅に待ち合わせの20分前には電車がついた。

 スマホでFoEのメッセージ確認とアイテムの獲得などをしていく。

 アインとはあまりメッセージのやり取りができていないが、ふぁふたんとは逆に雑談が増えてきていた。


「こういうのも二股とかになるのか? どっちも恋愛とかではないから違うとは思うんだが……」

「会社の勉強としてきているのを忘れているのか、近藤。スマホで遊んでいるなら今日のイベントチケットは渡さない」


 斎藤部長はいつものぴっちりとしたスーツに眼鏡からも鋭い眼光が放たれている。

 休日とはいえ、俺も仕事なのでスーツ姿ではあるものの若干暑いのでネクタイは緩めていた。


「どれだけ暑くてもだな、身だしなみはきっちりしろ。仕事で外に出るということはうちの会社の看板を背負うんだ。近藤だけでない、ほかの社員の評価も近藤が基準になるんだ。わかるな?」


 ネクタイをキュキュット締めつつも俺のほうを見上げて鋭い視線を向けてくる部長。


「わかり……ました」


 部長は無意識でやっているのだろうが、いい匂いがしてくる状況に俺は内心ドキドキしつつも頷いてかえす。


「それでは、このチケットを渡そう。さぁ、行くぞ。仕事ではあるものの楽しむことも大事だ。ユーザーの興味、関心がどこにあるのかを見つつも企業参加者とも顔つなぎができればしていく。名刺はあるな?」

「大丈夫です!」


 俺は恥ずかしさを吹き飛ばすかのように元気な声をだして、先に進む部長の後ろをついていくのだった。


■秋葉原UDX


 会場となる秋葉原UDXに近づくと人の群れというか塊というかそういうものがはっきりしてきた。

 FoEのオフイベントのため、コラボグッズの販売やUDXのカフェも今日はコラボメニューを提供しているところもある。

 人数が多いので、警備員が忙しそうに人の列を整理しているのが見えた。


「これは会場に行くだけでも大変だな……」

「ですね」


 人気ゲームのイベントということもあって盛り上がっているのはわかったが、予想以上である。

 この中にも先日、レベル上げのキャリーをした人もいるのかもしれなかった。


(ゲームで知り合った人も、知らない間に出会っていたり話しているなんてのもあるんだろうな……)


「きゃっ!」

「部長、大丈夫ですか?」


 人にぶつかり、倒れそうになる部長を俺は後ろから支える。

 気が強くしっかりしている部長ではあるが、支えたからだは華奢で女性であることを示していた。


「すまない……やはり、すごい人気だな」

「これもゲームの良さとそれを伝えてきた広告のおかげなんでしょうね」

「そうだな。いいゲームだからと流行るわけではない……魅力を適切な人に届けてこそ、評価されるものだ」


 そういう部長の横顔は誇らしげで、うれしそうである。


「ステージイベントの前に今回の企画書コンペの担当者と話をしないとな。急ぐぞ」

「了解です!」


 俺は部長とともに人とぶつからないように気を付けながらステージのほうへと向かった。

 ステージの近くはさらに人が多いが、裏手にあるスタッフの待機場所へといく。

 部長はスタッフといくつか話をすると待機所のほうへと俺を呼んでくれた。


「今年入社した新人で、次の企画コンペにも参加予定の近藤です。近藤、こちらはFoEの開発を行っている坂本さんだ」

「よろしくお願いします」

「よろしく。FoEが好きなら今日のイベントも楽しみながらも、吸収していってほしい」

「はい、いちユーザーとしてもFoEは大好きなので、頑張ります!」


 坂本さんは俺と握手をしつつ、優しく微笑んでくれた。

 なんというか、できるイケメンのオーラである。

 年齢は俺らよりも上で、ダンディな雰囲気が漂っている。

 オフィスカジュアルとでもいうべきか、かっちりしたスーツではないものの清潔感が漂う言う出で立ちをしていた。


「トークイベントでは抽選会もあるから企画を考えるためにも関係者席で見ていってほしいな」

「ご厚意に甘えさせていただきます。ほら、近藤もお礼をいっておけ」

「は、はい! ありがとうございます!」


 部長に促されるまま俺もお礼をいうが、負けたというか普段は厳しい部長の腰の低い姿勢に若干モヤる。

 だが、せっかくの機会だからいろいろ学ばせてもらおうと思うのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?