■自宅
部屋の時計を見れば、日付が変わるころだった。
最後のキャリー組の序盤のクエストの攻略までを一緒にやり終る。
このあたりのタイムスケジュールはガルさんが組んでくれて、新人の動きに合わせて手を出すことや見守ることなど上手に切り替えてくれていた。
〈ユージン〉『ガルさんと一緒に遊んでいたことは多いけど、今日は進行役としての立ち回りみたいなのを見てました。すごいですね』
〈ガルガンチュア〉『ユージンも仕事をしはじめたから、そういったところにも気を配れるようになったのだなぁ~。俺は嬉しいぞ、マイフレンド!』
〈ユージン〉『暑苦しいから、そうやって絡んでくるのはやめてくださいよ』
〈ガルガンチュア〉『Σ(゚д゚lll)ガーン 俺は、暑苦しかった……のか』
〈ユージン〉『今更ぁ!?』
ショックを受けているガルさんに俺が思いっきりツッコミをいれてると、フレンド通知が届く。
チェックをすると、最終組のキャリーの時にいた魔法使いの女の子アバターがこちらを見ていた。
魔法が得意な種族であるドラゴノイドのふぁふたんである。
〈ふぁふたん〉『今日はありがとうございました。お話し中だったですけれど、最後にご挨拶だけしたくてっ!』
ペコペコと丁寧にお辞儀をしてくるファフたんの姿に俺は出会った頃のアインの姿が浮かんだ。
〈ユージン〉『大丈夫だよ。こんな時間まで待ってくれてありがとう。ゲームを楽しんでくれたなら嬉しいな』
〈ふぁふたん〉『楽しかったです! もっと早く遊んでいればよかったと後悔してます。ユージンさんはGWのオフイベントは参加されますか?』
〈ユージン〉『参加は……まぁ、できたらするってところで……あんまり現実の話をするのはマナー的にな?』
〈ふぁふたん〉『はわわわっ、すみません! そうですよねっ。個人情報につながってしまいますものね!』
慌てたかと思えば、キリッと納得したりとキャラクターの表情を切り替えて対応しているところをみるとMMOの経験者な気がしている。
正体については探るつもりはないが、初心者ぶっている経験者という線もあるのでちょっと警戒しようと思った。
〈ふぁふたん〉『それではお二人とも。本日はありがとうございました。ごきげんよう』
最後にふぁふたんはお嬢様のような雰囲気を出しつつ、去っていく。
〈ガルガンチュア〉『じゃあ、お休だぞ~』
〈ユージン〉『はい、お疲れ様でした!』
俺はガルさんとも別れてゲームからログアウトした。
ふぁふたんからのフレンド申請に許可をだしてから、俺はゲーミングチェアにもたれかかりながらもグーっと大きな伸びをする。
「久しぶりガッツリ遊んだー! やっぱりFoEはいいゲームだぜ」
言い知れぬ満足感を得た俺は、ふぁふたんとのやり取りから気になった部分を忘れずにメモしてからシャワーを浴びてオレは眠りについた。
■MUGENLABO
「……で、先日期待したと思ったら遅刻とはいい度胸だな?」
「申し訳ありません!!」
遅刻しないようにとガルさんと一緒に時間の調整をしたはずなんだが、途中で起きたりして資料集めをしてたりしたらこの様である。
平謝りしかできない自分が本当に悔しい。
「次同じようなミスをするようであったら、企画書コンペへの参加を取りやめるからな。気を付けるように」
やれやれといった様子の部長に再び頭を下げて謝った俺は自分の席へとついた。
入社式以来の遅刻で本当に申し訳ないと思っている。
両手でほほを叩いて俺は気合を入れなおした。
「よし! 気持ちを入れ替えていくぞ!」
俺はほかのメンバーからの作業を手伝いつつ、空いた時間で自分の企画書を練っていく。
今日遅刻した原因でもあるが、昨日の夜に新人をキャリーしたことで見えてきたものがあった。
「結構な人があるPVを見てゲームを始めたっていっていたよな」
そのPVは俺も知っているものである。
何を隠そう、そのPVを渋谷の街頭ビジョンでみたことから俺はFoEをはじめたのだ。
PV自体はゲームのPVじゃないかと思えないほどに暗い画面のモノローグからはじまり、それが俺をはじめ世界に一歩踏み出せない人たちを動かしている。
「このPVは何度見てもいいんだよなぁ……再生回数はそんなに多くないけども心に残るというかさ」
ミーチューブにあがっている動画の概要欄を確認していた時、手が止まった。
今までは概要欄まで見ることはなかった……いや、見ていたけれども気にもしなかった文字がそこにある。
「PV制作……MUGENLABO。動画:斎藤カズエ」
俺や昨日キャリーしていた新人が始めたきっかけは斎藤部長の作ったPVだった。
この事実に俺は愕然となるが、その様子を隣でみていたソラさんがそっと声をかけてくる。
「ふふふ、今は部長、制作には手を出してないけど……このPVで昇進したんだよ」
「いずれわかるってこういうことですか……」
次に部長にどんな顔をしていけばいいのか、俺にはわからない。
それくらい今、受け取った真実は重いものだった。