■MUGENLABO
翌日、早く寝たことで遅刻することなく出勤もした俺のそばに斎藤部長がやってくる。
昨日叱られたこともあったので、俺は緊張していた。
(なんかやっちゃいました? ってラノベではよくある言葉だけど、実際につかうのは悪い意味でしかないんだよなぁ……)
「近藤、これをやってみなさい」
「確認させていただき……ます」
俺が部長から受け取ったのは企画書コンペの案内だ。
それは俺が遊んでいるゲームFoEのプロモーション企画に関するものである。
「ええ!? これ、俺がやっていいんですか!?」
「コンペといっても広く業界で募集されているものだ、A4用紙1枚で魅力を伝えるペライチなので近藤でもとっつきやすいだろう」
「部長ありがとうございます! 俺、がんばります!」
思わず、俺は部長の手を握ってブンブン振ってしまい、さすがに部長にひかれてしまっている。
「ま、まぁ……やる気があるのはいいことだ。GWに行われるFoEのイベントへの企業招待券ももらっている。企画書を作る際の参考のため一緒に行くぞ」
「部長もゲームやられるんです、か?」
「誰かと違って仕事に影響でない程度にはな?」
「……うぐっ」
痛いところを突かれて俺は思わず声を漏らした。
ほんと、この部長には頭が上がらない。
「とにかくだ。GW開けの金曜日には提出だ。会社での作業期間は1週間程度しかないからな。複数案を出すもよし、1つを突き詰めて考えるもよし。近藤のスタイルに合わせてやってみろ」
「わかりました! 斎藤部長、ありがとうございます!」
雑用ではなく、ちゃんとした仕事を渡されたので俺は気合いを入れて資料に目を通していった。
〈沖田〉『近藤クン、やったね! 企画系の相談なら山南さんが詳しいよ。資料のまとめ方も上手だから、知識がすごいんだよ』
〈山南〉『沖田さんに言われるなんて……恐縮……です』
〈近藤〉『ありがとうございます! 早速なんですが……』
チャットでも沖田さんをはじめ、みんながフォローしてくれる。
俺は今の流れがとっても、オンラインゲームで作戦会議をしているような雰囲気で心地よかった。
■自宅
その日はすぐに帰り、俺はパソコンを立ち上げた。
過去のFoEのプロモーション動画の確認とFoEを触ってみることをするためである。
「そう、これも仕事! 市場調査なんだ」
山南さんからもアドバイスでゲームでもなんでも、実際体感してみることが大事とのこと。
ターゲットの気持ちになってみるのが一番だと……だから、俺は遊びではなく仕事でゲームをやるのだ。
そんな言い訳じみたことを内心思いつつもステーションへとアクセスをする。
賑わうステーションではGWのイベントの告知が流れていて、ワールドチャットではその話で持ち切りだだった。
〈ガルガンチュア〉『ユージンじゃぁないか。久しぶりだなぁ~』
〈ユージン〉『ガルさんも久しぶり。うわ、メッセージボックスにめっちゃ溜まってる』
〈ガルガンチュア〉『スマホアプリでのチェックもしてなかったのかぁ~? そいつぁいけないなぁ~。俺もそれで嫁さんからのメッセージを逃して1週間くらい口をきいてくれなくなったんだぜぇ~。ワイルドだろぉ~?』
〈ユージン〉『ぜんぜん、ワイルドじゃないですよ。それ』
懐かしいやりとりにちょっと俺の心がほっこりする。
仕事場でもチャットでメッセージを交わすやり取りはするけれども、ゲーム内のやりとりはやはり別だ。
ゲーム内はゲーム内の、仕事は仕事の面があってそれぞれで話せる内容や気構えが違う。
〈ガルガンチュア〉『アインも最近全然ログインしてこないから、お前らがくっついて引退したかとおもったぞぉ~?』
〈ユージン〉『いや、俺らが結婚とかしたらガルさん達みたく一緒に遊びますよ』
〈ガルガンチュア〉『そりゃぁ、そうか! がはははは!』
腰に手を当てて大笑いをするモーションをガルガンチュアは行った。
ボイスを入れていないはずなのに、野太い声が聞こえてきそうである。
(そうか、アインもあまりきてないのか……GWはちょっと会えたらいいなぁ)
新人のキャリーに誘われていたことを思い出した俺はガルさんに今日キャリーを手伝うことを申し出た。
どういう経路できたかのヒアリングをするのも企画を考える時に大事と山南さんに教わったからである。
〈ユージン〉『そうだ、この間話していた新人のキャリー、今日やりますよ』
〈ガルガンチュア〉『そうか! GWのイベントに向けて伸ばしたい奴らが多いからな。早速声をかけて集めてみよう。仕事もあるから日付越える程度でやれる限りやっていくぞ』
〈ユージン〉『了解です!』
ゲームを遊びつつ仕事にもなるなんて、今回はかなりヤル気MAXでいけそうだ。
〈ユージン〉『よっしゃー! やるぞー!』
〈ガルガンチュア〉『気合い入っているなぁ~。俺も負けてられないぜぇ~』