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第7話 鬼の斎藤再び

■MUGENLABO


「それで遅刻してきたと……近藤、貴様は仕事をなめているのか? やる気がないならやめたまえ」

「……すみませんでした」

「ふぅ……私も言い過ぎたな。わかればいいんだ。次から気を付けるように」


 もったいないからと野菜炒めを残さず食べてでようとしたら、支払いの列ができてしまっていたので休憩時間内に帰ってこれなかった。

 ソラさんは両手を合わせて謝ってくれている。

 しかし、これは俺の責任でもあるのでしょうがない。


「はい、気を付けます」


 俺は改めて頭を下げて自分のデスクへと戻った。

 動画編集の作業も最近はやっており、無駄な空白の削除や音声素材の収集などを主にやっている。

 地味で時間のかかる雑用ばかりだが、まだ駆け出しだからと俺は自分に言い聞かせた。


〈土方〉『近藤くん、お疲れ様。操作なれているから細かい指示をださなくてもやってくれるから助かっているよ』

〈山南〉『まだ始まってひと月もたってないのに作業できるんだから、自信もっていい』


 チャットでメッセージを送ってくれる土方さんや山南さんのやさしさが身に染みる。


〈近藤〉『ありがとうございます。頑張ります』

〈伊東〉『そーそー、気楽にいこー。気楽にー』

〈土方〉『伊東くんは、遅れているからもうちょっと納期意識して頑張ろうか』

〈伊東〉『うわーっ!? ヤブヘビだったー!』


 伊東先輩は俺より一つ上。

 でも、適当というか楽しいことに全振りするタイプで面倒なことにはあまり触れないタイプだ。

 大学在学中の俺がそのままだったら、きっと伊東先輩みたいになっていただろう。


〈伊東〉『話は変わりますけど。近藤の歓迎会がまだできてないから、このプロジェクトが終わったらやりましょーよ』

〈土方〉『ダメというか、先に仕事といいたけれど伊東くんは餌が決まっていたほうがやる気でるんだよねぇ』

〈伊東〉『ワンワン! 楽しイベントのためなら頑張るワン』


 犬のスタンプまでつけてくるので、伊東先輩はこの部のムードメーカーなんだろうなというのがよくわかるやり取りだった。


〈沖田〉『近藤クン、ちょっとキラキラ系のエフェクト作ってー』

〈近藤〉『わかりました。もっと具体的なイメージが欲しいです。すでにどこかにあるかもしれないので』

〈沖田〉『おっけー。それじゃあ、個チャで送るね』


 送られてきた資料見ながら、エフェクトを作ったりして、その日の業務は終わる。

 仕事に集中することができれば嫌なことが忘れられるからいいよな。


■自宅


「あぁー。つーかーれーたー」


 今日も今日とて帰宅早々いったんベッドへダイブした。

 すぐに寝てしまわないだけ、だいぶ慣れてきたほうだけれども、まだまだゲームをやる気にはならない。


「そういや、最近アインからも連絡がないな……テストが近いから勉強しているって言ってたっけ」


 スマホのFoEアプリを確認し、連絡があまりとれなくなるというメッセージを受け取ったのは数日前だ。


「気持ちがへこんでるから、アインと話したかったなぁ……」


 家に帰って一人でいると、今日斎藤部長に叱られたことが思い返されて自己嫌悪に陥る。

 けれど、俺はあきらめるわけにはいかないし、手を出すなんて持ってのほかだ。

 その時、メッセージの受信をスマホが知らせてくる。

 相手は俺の担当をしている坂本さんだ。


『元気してるかな? そろそろ一か月だから、更新等について問題ないかの確認だよ』

『ありがとうございます。更新は俺のほうからはします。向こうから嫌われてなければなんですけど……』

『嫌われるって何かあったの?』

『別に何もないですよ。風呂入ったりするので、これで』


 これ以上話したらぼろが出そうだったので、俺はメッセージを閉じる。

 やっぱり仕事の関係者には本音が出せないから、アインに会いたくなった。


「風呂に行ってさっぱりするか、それでもモヤモヤするならアクションゲームでもやってすっきりしよう! そうしよう!」


 俺はそう自分に言い聞かせてから、シャワーを浴びるために気合を入れてベッドから起き上がる。

 土日はまだ遠いのだ。


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