■MUGENLABO 廊下
時計をみたらお昼休憩の時間になっていたので、俺と山南先輩は資料室から外に出た。
室内は暑かったので、二人とも汗だくである。
「ふぅ……近藤くん、楽しかったよ」
「俺もッス」
「また今度やらないか?」
「そうッスねぇ……」
答えを返そうとしたとき、女性社員たちがひそひそと俺達を見ながらささやいている。
そことで現状を俯瞰して分析を始めた。
MMOで状況把握は攻略のために必要なスキルである。
自分のステータス、敵のステータスなどから最適な戦略を選ぶのだ。
「汗だくの男二人……やらないかという言葉、女性社員だけが反応……ああぁああぁ!?」
導きだされた答えに俺は両手で頭を抱えて人目をはばからずに吠える。
山南先輩がムキムキマッチョなので余計に良くなかった。
白いシャツが汗で透けてべったりしている。
ばさりと書類などが落ちる音が聞こえた。
「まさか! 近藤くんと山南さんが……そういう仲だったとは! これはドッチが前ですか! 新解釈です!」
俺が振り返った先にいるソラさんが鼻息を荒くして近づいてくる。
これが先ほどの答え、
「いやぁぁだぁぁぁ! 俺は普通だぁぁぁぁ!」
再び叫ぶ俺に対して、よくわかっていない山南先輩は熊のぬいぐるみのように静かになっている。
山南先輩は純粋なので、そのままでいて欲しいと思った。
■野菜モリモリ キャベ二郎
「なーんだー。面白いネタだと思ったのにー」
「勘弁してください……」
初日にも案内された定食屋に俺とソラさんは来ている。
山南さんは自炊しているようなので、今度また誘ってと言って別れた。
今回については、本当に良かったと思う。
「ここ奢りますから、変な噂を流さないでくださいね」
「まぁ、腐女子はひっそり楽しむものだからね……ただ、LIMEの腐女子グループは大盛り上がりだけど」
「何その魔窟。コワい」
社員同士がLIMEをやっているのはわかるけど、腐女子グループがあって交流しているなんて怖かった。
ソラさんともここ数日で仲良くなって俺は敬語が抜けないけど、ソラさんはだいぶ崩れて喋ってくれている。
俺が敬語なのはリアル女子と話慣れていないのが一番の理由なんだけど、黙っていた。
「それはそれで置いておいて、仕事のほうはどう? だいぶ慣れた?」
「まぁ、そッスね……ソラさんや山南さんのおかげで仕事の理解ができました」
「ご注文の肉野菜炒め定食です」
店員さんが料理を持ってきてくれたので、話はいったん打ち切り食べはじめる。
肉野菜炒めといいつつも野菜のほうが圧倒的に多い。
だけれども、肉のうまみが野菜にしみているので美味いのだ。
野菜不足の現代人にはいい店なのだろう。
「まぁ……ただ……」
「ただ?」
「斎藤さんは苦手デス」
「斎藤部長が得意な人なんて、そんなにいないわよ。バリバリのキャリアウーマンだしね」
もぐもぐと食べつつも、俺は胸に抱いていたものをソラさんに話し出す。
「ファーストインパクトが悪かったこともあるから、なおさらやり辛いんだよなぁ……どうしたものやら……」
「まぁ、斎藤部長は近藤クンのこと嫌っているわけじゃないわよ? あの人は見込みがなければ仕事を振らないからね」
「そういうもんなんですかね?」
「ほら、ゲームでもずっとキャリーされたままじゃ成長できないっていうじゃない?」
「なるほど……確かに、そっかMMOとかのパーティでの育成とかの感じは仕事でも応用効くんだ」
ソラさんの言葉に俺は光が少し見えてきた気がした。
大変で、ゲームを遊ぶ暇もないくらい忙しい仕事だけれども、俺はこの仕事でやりたいことがある。
「近藤クンってさ。どちらかといえばこういう制作の仕事よりも体を動かす仕事のほうが得意そうだけど、理由あるの?」
「ええっと……恥ずかしいんですけど、俺もあんまり動画をちまちま作るのは苦手というか興味なかったです」
「ぶっちゃけるねぇ~」
「けど……MeTubeで流れてきたFoEのCMを見て、ゲームをやりたいって思って、遊んだゲームがすっげぇ楽しくて……だから、出会いをくれたCMを作るようになりたいって思って勉強してきたッス」
「FoEのCM……ああ、それ作った人知ってるよ」
ソラさんの言葉に俺は心臓がドキドキしてきているのを感じる。
CMをつくった会社まではわかったが、誰かまでは調べきれなかったのだ。
あったらお礼を言いたいと思っている人の情報が手に入ると興奮してくる。
「誰ですか! やっぱり、土方さんですか!?」
思わず前のめりで詰め寄ったとき、お店の時計が目に入る。
休憩が終わる時間が近かった。
「急がないと、休憩終わっちゃいます!」
「じゃあ、私は食べ終わったから支払いよろしく~。CMを作った人はそのうちわかるわよ♪」
伝票を俺に渡してきたソラさんは意味深なウィンクをしてから、お店を後にした。
一体、誰なんだ???