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第5話 近藤は仲間を手に入れた!

■MUGENLABO 企画部


「この1週間の日報を見させて貰った。君は資料整理だけしていればいい」


 月曜から憂鬱になる一言が鬼上司の斎藤さんから言われた。

 俺は反論しようにもできない自分が悔しい。


「わかりました。やり方を教えてくださいませんか?」

「資料室にいって、ここにある企画書をまとめてくれ。やり方は……沖田の手が空かないから……山南、お前が手伝ってくれ」

「……了解です」


 俺はあまり話したことのない巨漢の山南さんと共に資料室へと向かった。

 無口というか無愛想というか、つかみどころのない人である。

 野暮ったい髪に四角いフレームの眼鏡をかけていて、表情があまり読めない人だ。

 チャットでも、あまり発言を見かけないのでなおさら会話に困った。

 書類の束をもった男二人が、資料室へ向かう廊下を無言で歩く。

 仕事で忙しくしている部屋の声を背に、オフィスの奥にある薄暗い資料室へとやってきた。

 正直言って気まずい……。


「山南さん、よろしくお願いします!」

「うん……よろしく。それで資料の整理の仕方だけど……」

「は、はい!」


 でかい図体に低い声、見下ろされていることもあってか俺は緊張してしまった。

 生存本能がヤバイというのを訴えているようである。


「あの……そんなに、僕……怖い、かな?」


 目の前の巨漢がシュンとしょげたように見えた。

 いや、見えるだけでなく本当になっている。


「あ、いやそのっ、山南さん、タッパありますし声も低いから……熊みたいで」

「熊って……僕は人間なんだけどなぁ」


 ため息を漏らした山南さんは資料室の椅子に腰かけて、しょぼしょぼと話し始めた。


「二人きりだから聞くんだけどね……近藤くんは結構慕われるタイプに見えるけど、どうしたら人と仲良くできるのなか? 特に、その沖田さんとか……とさ……」

「へ? れ、恋愛相談です、か?」

「ウン……そう。資料整理はこのくらいなら実際はかからないし、斎藤部長が近藤君にやらせたいことは過去の企画を見て勉強してほしいことだと思うから」


 山南さんの言葉に俺は安堵の息を漏らす。

 嫌われていたわけではなく、学ばせてくれるためにこの仕事を寄こしてくれたのだ。

 先週はデザインソフトを触ってみたけど、上手くいかなかったり、電話の連絡を伝え忘れたりと失敗続きだったのである。


「でも、俺は失敗多かったし……」

「近藤君は完璧を求めすぎだよ……肩の力を抜かないと……」

「山南さんはムキムキマッチョですよね」

「それは関係ないよね? まぁ、そういう返しもできるのが、近藤君のいいところかもしれない」


 フムと山南さんは腕を組んだ。

 考えこんでいるのかもしれないが、眉間にしわが寄っているので怒りを我慢しているようにも見える。


「山南さんは深く考えすぎですよ。もっと、こう勢いでやらないと!」

「勢い……か、僕は苦手だな……静かにもくもくやる方が好きだからライティング担当だしね」

「そうなんですね。ああ、さっきの話に戻りますけど……沖田さんと仲良くなりたいなら、【踊プリ】やりましょう」

「おどぷりって何?」

「沖田さんが机の上に置いているアクスタのキャラが出ているゲームですよ。スマホのソシャゲです」

「僕、ゲームはあまりやらないんだよね……」

「ゲームが苦手なら、アニメか漫画から入ってもいいと思います。共通の話題があるだけで会話のきっかけになりますし」

「漫画とかならいけるかも、できれば小説とかの方がいいんだけどね」


 ライティングが得意と聞いたので、何となくそうじゃないかと思ったけれど小説が好きなようだ。

 MMOで初対面同士の即席パーティ組んでキャリーしてきた経験から、相手の好みを理解する癖が俺にはある。

 だから、山南さんとの会話から求めているものを考えて読みだそうとした。


「公式の小説版はないですが、二次創作で小説を書いている人がピグシブにいますから、そちらから読んでみるのもいいかもしれないですね」

「二次創作があるくらい人気の作品なんだね……ニューページの一次作品中心に読んでいたから、気づかなかったよ。近藤君、ありがとう」

「いえ、どういたしまして……じゃあ、資料整理しましょうか」

「そうだね。整理もだけど、関連を紐づけていくから企画の中身を理解することが大切なことだよ」


 熊のように見えて怖かった山南さんの姿はもうない。

 はなして理解できれば、誰とでも仲良くなってできるのだ。


(でも、斎藤部長だけは難しいなぁ……ガード固すぎだし、言うことがきついんだもん)


 言葉によるサンドバックを耐えきることが不安になっていたが、頼れる先輩ができたことで少し、解消できる。


「山南さん……山南先輩って呼んでもいいですか?」

「いいよ。僕も近藤君ともっと仲良くなりたいから……」


 ゲームだったらフレンド登録をしたいところだが、今は仕事中なので我慢するのだった。

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