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第2話 鬼の斎藤

■企画デザイン部


 入社のミーティングをが終わり、すぐさま企画部ブースに移動させられた。

 そこには4人のメンバーがいて、先ほどの鬼の斎藤さんを入れれば5人がメンバーである。


「ここが企画デザイン部……いろんな広告を作っているんスね!」


 俺が広告を作りたいと思った理由。

 それは駅の広告を見て、FoEに出会えたことだった。

 そうやって、人を動かす広告を作りたいという思いで、派遣先を選んでもらっている。


「近藤、その語尾に『ッス』とつけるのは禁止だ。学生でもあるまいし、社会人としてシャキッとしろ!」


 斎藤部長が鋭い目で俺を睨み、ブース内の空気が冷え込んだ。

 エアコンをだれも操作していないのに……。


「沖田。お前が見てやれ、一年先輩として年上の近藤相手でも遠慮せずに指導するように!」

「はい! わかりました!」


 俺よりも年下の可愛い子が背筋を伸ばした綺麗な敬礼を斎藤部長に向けたことで冷え切った空気に温かさが戻ってきた。

 ああ、この子は部の清涼剤なんだなぁとなんと何しに俺は思う。


「よろしくお願い……します。近藤ユウです」

「沖田ソラです。ソラちゃんって気軽に呼んでくださいね? お兄ちゃん♪」

「お兄ちゃん……」


 そう呼ばれた俺の脳裏には昨日寝る間で付き合ってくれたアインの姿が浮かんだ。


(もしかしたら、ソラがアイン? いや……そんなことを考えちゃダメだ。マナー違反だろ、俺!)


 ぶんぶんと頭を振って想像を飛ばしていると、ソラが急接近して俺の顔を覗き込んでくる。

 吸い込まれそうな瞳の上にあるまつ毛まで綺麗に見えた。


「大丈夫ですか? 入社時ミーティングで疲れたかもしれないですけど、簡単な業務内容の説明をするから私の隣に来て画面見ていてくださいね?」


 彼女はそう言って離れて、デスクの方へ歩いていく。

 俺も後を追って進むと、空いたデスクの隣に、アクリルスタンドの並んだデスクがあった。

 ここがソラさんの席らしい。


「あ……これ、踊プリの天原だ」

「わかります!? ウチの部で話通じる人いなかったから、すごく嬉しいです♪」


 たまたま知っていた女性向けゲームの『踊る殿下様(通称:踊プリ)』の人気キャラクター、インド人とのハーフである天原ラジールを見つけてちょっと気持ちが楽になった。

 ゲームオタクが俺だけだったらと思って不安になったが、ゲーム会社の動画広告を作っているんだから俺の様な人がいても不思議じゃない。


「ウチの部は部長を除いてみんなゲーム好きなんですよー。それぞれ担当というか推しが違うので話をするのも新鮮な部分はあるんですけど……」


 そうソラさんが俺に話してくると、PCの画面にチャットが流れてきた。


〈土方〉『沖田さん、雑談はほどほどにして進めたほうがいいよ。部長は黙っているけど、いつ爆発するかわからないから』


「副部長の土方さんですね。動画制作のプロなんですよー」

「土方さんは面接の時にいたので知っています。副部長なんですね……もっと上の人かと思っていました」


〈沖田〉『了解しました。チャットの操作をお昼までに教えておきます』

〈土方〉『よろしくね。近藤君もわからないことがあったらまずは沖田さんか、チャットに書き込んでね』


「ウチの会社は全社員が共通でチャットツールを使ってやりとりしているんです。部署ごとのルームもありますけど、他にも趣味の部活ルームなんてのもありますよ。重要な連絡もこのチャットツールでやりろりしますから、朝と帰りには確実に目を通してくださいね」

「わかりました。なんかMMORPGみたいですね」

「クリエイター系はその方がとっつきやすいですからね。動画や素材のやりとりもチャットツールや共有のクラウドを使ってやります」


 そういって、ソラさんは俺も使っているアトベの動画編集ソフトを立ち上げて、編集途中の広告デザインを見せてくれた。

 担当しているのは知らないゲームである。


「ああ、そうそう。私達が作業するのはまだ未発表のゲームだったりすることもありますから、会社で見聞きしたことは他に言わないでくださいね?」

「機密保持契約ですね。入社時ミーティングで書いたので覚えています。会社の愚痴とかをSNSで流して炎上したって話もありますから気を付けます」


 SNSは多くの人が見るので、ちょっとしたことで大炎上することもあるので気を付けようと俺は心に決めた。

 せっかくFoEに関係するところへ派遣とはいえ入れたんだから、下手をうってクビになりたくはない。


「いい返事ですね! それじゃあ、チャットのルームの説明を続けますね」


 そうして、作業画面とチャットツールのやり取りの仕方や、遅刻の連絡する方法などをソラさんから教えてもらっていたら、お昼のチャイムが鳴った。


「近藤さんはご飯どうします? ウチは会社が小さいから食堂がないので自分たちの机で食べるか外に行くのが多いですけど……」

「急いで来たので、朝飯も食べてないんですよ……安くてたくさん食べれるところって知ってます?」

「それなら、おすすめの定食屋さんがありますからそこに行きましょう!」


 そういって、ソラさんに連れられて俺は昼食を取りに出かけるのだった。

 鬼上司がいてどうなるかと思ったけど、案外うまくやっていけそうな気がする。

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