目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

リーダー代理

「……What?! リーダーだって? おいおい、ネクマスよぉ! いつから嬢ちゃんウィンドガール、昇格したんだ?」


 個有能力ユニーカでホールの天井からぶら下がっていた威療士の一人が、肩をすくめて笑いながら言った。

 ある者は同意を示して頷き、またある者は己の目で見極めるべく、この小さな闖入者を静かに見据えていた。


(先輩方の洗礼だ。どうするかな、リエリー君?)


 当然、ハリスは口を挟むつもりはない。これくらいのことは、自分でやり過ごしてもらわなければならない。でなければ、リーダーどころか、威療士としてやっていくのも到底、不可能だ。

 今までは、彼女の相棒バディがいた。対人関係は、その相棒が全て引き受けていたといってもいい。

 だが、その相棒は今、ここにいない。

 頼りになる支援機ルヴリエイトも、今は同行していないらしい。

 文字通り、単身で乗り込んできた、というわけだ。


(五分五分だとは考えていたけど、課題はここからだね)


 リエリーの“去就”には正直なところ、それほど関心を持っていなかった。才覚は認めているが、未熟な点が多すぎる。それが他の威療士の足を引っ張るようなら、それこそこちらからというシナリオも頭にはあった。

 救命活動は、命懸けの仕事だ。

 命を救える確率が上がることなら何だってやるのと同じで、命を失う確率が上がるなら、どんな手を使っても防ぐ必要がある。

 未熟な威療士を救命活動の現場へ送るということは、すなわち死に行かせるも同義。そんな指示を出すくらいなら、解雇を言い渡すくらい、造作もないことだ。

 それに、威療助手レジデント一人に時間を割いている余裕がないのも事実だ。

 未知の動きを見せる涙幽者、〈エアー〉を始め、目的が読めない幾つもの組織、そしてまもなくここカシーゴで開催される、世界威療士競技大会ワールド・レンジャー・コンペティション

 その“黒幕”であり、わざわざハリスに“挨拶”するため訪れた、あの女軍人の言葉が頭を過っていた。


 ――レンジャーは変革の刻を迎えている。に向け、彼らの力をより底上げしなければならない。彼らこそが、人類にとって最後の砦になるのだからな。


(……これがその危機とやらなのか?)


 そうであってほしいという願いと裏腹に、ハリスの直感は否定の意を示していた。

 あのジェーン・ドゥ名無しが言う『危機』は、

 より深刻な、それこそ、当人の言葉を借りれば『人類の危機』に匹敵するような、未曽有の危機。


(……まさかね)


 一つだけ思い当たるものがあった。が、あまりに突拍子もない。まさにおとぎ話だ。

 すぐさま頭から追い払うと、息を整えたモスグリーンの〈ユニフォーム〉が口を開くところだった。


「あたしは、リーダーじゃない」

「……どういうことか、ちゃんと説明してもらえるかな」

「ウチの……チーム〈CL〉のリーダーは、マロカ・セオークただひとりだよ。ほかのだれだって、リーダーは務まらない」

「Seriously? 嬢ちゃんウィンドガール、ここはリーダーブリーフィングだぜ? 自分が何を言ってやがんのか、わかってるかい?」

「うん。あたしはリーダーじゃないけど。リーダー代理としてきた。レンジャーオーダー第15条7項、『レンジャーチームはその責任者の指名によって責任者代理を立てることができる』。でしょ? ネクサスマスター」

「その条項を適応するためには、君が言った通り責任者の意思表示が必要で――」

『――ネクサスマスター・ハリス、およびカシーゴレンジャーの仲間たちに宣言する。私、レンジャー・マロカ・セオークは、自身が責任者の責務を果たせないと客観的に判断された場合、当チームのレジデント、リエリー・セオークを私の代理としてここに指名する』


 言葉尻を待たず、リエリーが自らのコンソールを高らかに掲げていた。

 大ホールの中央に、この地で知らぬ者はいない茶黒い巨躯の狼貌ウルフフェイスが浮かび上がると、そう宣言したのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?