「……さてと」
マロカの部屋から出、彼用に拡張した“巨大ドア”を後ろ
そうしてカンッと、
ちなみに現在、〈ハレーラ〉の居住区画に他人の姿はない。
あれから、レイモンドの
(……ぜったい、チリソース入れてやる)
頑固老人の唯一の弱点を突くシミュレートをしていると、台所へ寄り道していたルヴリエイトが「あら?」と声を上げた。
「サンドイッチ、全部食べたの?」
「ううん。レイとエンとで食べようとおもったんだけど、ちょっといろいろあって」
「そう。それじゃあ、お夕飯は何にしようかしらね。……エリーちゃんは何が食べたい?」
「え、あー、ルーに任せる」
「はいはい、いつものね」
冷蔵庫から食材をいくつか取り出しつつ、献立らしい単語をブツブツとつぶやくルヴリエイト。
あまりに“普段通り”なその姿が、リエリーには逆に不気味だった。
(さっきはエンがいたからよかったけど)
救助艇〈ハレーラ〉のコックピットには、船内を確認できるモニターが設置されている。
先刻、エンを抱いたルヴリエイトが、
だから間違いなく、ルヴリエイトは自宅の惨状を知っている。
にもかかわらず、今は上機嫌にも見える動きで台所を飛んでいることが、リエリーには不思議でならなかった。
そうして観察していると、リエリーのマグカップにミネラルウォーターを注いだ正十二面体がこちらへ踵を返した。
「ねぇ、エリーちゃん――」
「――ごめん、ルー! あたし、ちゃんと直すから。それまで小遣いいらないから」
どうせ叱られるならと、両手を打ち合わせて先に頭を下げる。
が、覚悟したフルネームによる叱責が、いつまで経っても響いてこない。
かと言って、目を開ける勇気もなく、おそるおそる片目だけ開くと、『目を開け口に手を添えた顔』の絵文字が視界に入った。
「……え。なにその顔」
「もぅ、失礼しちゃうわね。元々こういう顔なんだけど。というより、ほんとうは顔とかないんだけどね」
「そのジョーク、キライ」
「あら、事実じゃない。誰かさんが自分ん
「うっ……」
「でもまぁ、怪我もないみたいだし、ホッとしたわ。痛むところはある?」
「ないよ。……まさか、おわり? いつもの金切り声は……痛っ!」
「その“金切り声”、ボリュームマックスで耳元で聞かせましょうか」
「ごめんお願いやめて」
絶妙な加減で手首を叩かれ、『薄笑いの顔』を浮かべたルヴリエイトに、リエリーは先ほどよりも必死の
聴覚が敏感な身としては、その仕置きは本気で勘弁願いたかった。
「ふふっ。よろしい。まぁ、ちょうどよかったのかもね」
「どゆこと? なんかルー、変なんだけど」
「そうかもねぇ。今日はいろいろありすぎて、回路が焼け焦げたのかも」
「……ロカのこと? もしかして――!?」
「――いいえ。このわが家に賭けて、誓うわ。ロカは大丈夫。あれから何度かカーラと連絡したの。まだ寝てるそうよ」
「……わぁった」
つい、乗り出していた上半身を、そろそろと椅子の背に擦り付けていく。まだ早鐘を打っている胸が苦しかった。
「ねぇ、エリーちゃん」
「なに」
「いい頃合いだと思うの」
「……だからなにが?」
聞きたくなかった。
何事にも単刀直入のルヴリエイトが、はぐらかして言うときは、いつだって悪いことに決まっていた。
「救命活動、そろそろお休みするのはどうかしら?」